SA 21. 私的な用事

 アンジェラが受け取り口でたむろう人々へ横目に視線を投げる。楽しげな雰囲気は上辺だけを残し、人々を見詰める目に感情はなく、まさしく観察をしているだけ。彼女の研ぎ澄まされた眼を、サラはじっと見据える。

 アンジェラが緩い笑みを浮かべたまま、ゆっくりと口を開く。

「どうやら氏は独裁的なところがあったみたいね」

 コーヒーを一口飲み、ミルクを追加する。

「じゃあ、緑の社員証の人たちがうきうきして見えるのって」

「命の洗濯ってところかな」

 本日ルカの病室に突撃してきたオリヴェイラを思う。

 彼に対する第一印象、そしてルカと行った印象合戦が、おおむねどちらも当たっているだろうと踏んでいた。彼の言行は一貫して自己本位だ。自分の発言や思惑を、周囲が察し、カバーして然るべきと言った具合である。会社を持つ者としての特性かと考えてみるが、社員から不満が出ているのであれば、彼の悪癖なのだろう。

 何も考えない向こう見ずの独裁型。あれで自身が企業したとは考えづらい。ならば二世以降。そして、側にイエスマンが控えている。

「それに、カールっていう男がいないっていうのも大きいね」

 サラが目を細くする。オリヴェイラの見舞いに来ていた、まだ因縁などないサラたちを威嚇した精悍な男。

 あの強い眼光に浮かんだ色、それをサラは恐ろしいとは思えなかった。あの色はよく知っている。そこに包括された気持ちは理解できるほど身近な感情、おそらくあれは――。

「目付きの悪い人なら、あのパッパラパーと一緒に病院にいたよ」

「目付きが悪いかどうかまでは分からないけど、その人のことかもね。氏が戻ってくるまで彼も戻ってこないラッキーって言ってたから。引っ付き虫なのかな」

「その引っ付き虫がどうしてあのパッパラパーから離れちゃったんだろうね」

 オリヴェイラに対するカールの感情がサラの考えているものからきているのであれば、どこへ行くにもお供しますだと思うのだが。ルカの病室でも離れ離れにされることにいら立ちを見せていたくらいだ。治安の悪い夜の町に放り出すなんて無謀なことはしないだろう。

 サラが甘い液体を口に含み、意を決して飲み込む。すぐさまサンドイッチを頬張る。塩気を文字通り噛み締める。アンジェラが呆れた顔をするが無視である。

「彼が私用で席を外していた隙に、氏が社を抜け出したっていうのが有力な噂っぽいね」

「やっぱりバカだった」

 サンドイッチを飲み込み、開口一番にサラはここにいない人物を罵った。それにはアンジェラも頷き、

「社の人も同じことを言っていたよ。それはいいとして、」

アンジェラが殊更声を潜めた。

「彼の私用っていうのが、制裁っぽいんだよ」

 続いた言葉は、サラの中ですとんと腑に落ちた。まあ、そうだろうな、と。

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