SA 20. カフェにて。
ソファーの背もたれと衝立の薄い壁越しに聞いたこともない穏やかな、悪く言えば間抜けで張りのないダンの声が聞こえる。周囲がうるさくて内容がよく聞き取れないが、時々笑い声がするから歓談しているに違いない。
苛立ち紛れに肩越しを睨みつけても目的の人物は目に入らず、茶色の布地のソファーが見返してくるばかりだ。
サラは項垂れ、出来上がったばかりのメールをためらいもなく送信する。
「ばーか」
もう一度、ソファー越しにいる相手を睨んで、二人掛け用の丸テーブルに頬杖をついた。
お昼時ともありカフェには人が絶えない。ごった返しているというほどでもないが、出入りが激しい。カジュアルな格好を見るにアンジェラの言葉通り勤め人が多い。まだお昼だというのにくたびれている人、まだまだ元気そうな人、すごく溌剌な人だいたいこの三種類。そして、すごく溌剌な人に性差はなく、共通点と言えば――。
「お待たせー。混んでた、混んでた」
アンジェラがホットサンドイッチが二人分に、レモネードとコーヒーばかりを乗せたトレイを持って、十分ぶりくらいに顔を見せた。
「なんか面白いものでもあった?」
丸テーブルにトレイを置き、アンジェラはサラに尋ねる。
「んー、緑の紐の社員証の人たちが元気だなーって」
アンジェラは椅子に座り背後を一瞥、すぐさまサンドイッチにかぶりつく。
「氏の社員だと思うよ。待ってる時にそんな感じの話してたから」
サラは少し腰を浮かせ、アンジェラ側に置かれていたレモネードを手にする。甘い液体を喉に流し込み、気合で胃へと押しやった。ただの一瞬のできごとであったのに、喉が甘さで焼けるように熱い。
アンジェラが目を瞬かせた。
「サラって甘い物、平気だったっけ?」
「そうだよ? 知らなかった?」
サラは舌を誤魔化すようにサンドイッチを口にした。具材の塩っけが甘味の残滓を凌駕できない。もう一口含む。
「……もしかして、あの子への対抗心とかー?」
アンジェラが面白がる。
サラは口の中をからにして、
「違うもん」
とそっぽを向く。
その仕草でアンジェラは何かを察したのか、ますます面白そうに笑みを深めた。
「それより、仕事の話。ビジネストーク!」
「はいはい」
丁度、サラのスマホがメールの着信を告げた。差出人はダン、内容は『うるさい』の一言。サラはむくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます