SA 18. 不良集団、退散
サラは表情筋若干回復男の後ろの仲間たちに目を向ける。彼らはすぐさまサラの視線に気付いてくれた。
「本当にごめんなさい」
瞬時に泣くことはできないサラ渾身のちょっと演技臭い涙目であったが、効果は上々の様子である。
男の仲間たちはうろたえ互いに顔を見合わせる。周囲の野次馬にも良い効果があった様子でざわめき、「警察を呼んだほうが……」と女性の声がした。 特段聴力が優れているわけでもないサラの耳にも届いたのだ。すぐ近くにいる表情筋若干回復男とその仲間たちにも聞こえていただろう。男たちが周囲を威嚇しても、点火されてしまった野次馬たちは収まらない。口を開かない群衆であっても睨むことくらいはできるのである。そして、威嚇に立ち向かうのが自分だけではないと察した人間はある意味で強い。
仲間のうち、髪をハーフアップにした男が苦笑して、表情筋若干回復男の肩に手を乗せた。
「なあ、もう行こうぜ」
男はサラとアンジェラをひと睨みすると、仲間の手を肩を振り払い歩き出す。
野次馬たちが聖書の一節のように左右にさっと開く。仲間がそれに続く。
「悪かったな」
ハーフアップの男が軽い謝罪を入れた。そのまま立ち去る仲間の最後尾に着こうとしたところ、アンジェラが男の服の裾をくいと掴んだ。
「あの、これ。私が悪かったことに変わりはないし……」
そう言って数枚の紙幣を差し出す。
ハーフアップの男は口端を僅かに上げ丁寧に、しかし躊躇いもなくそれを受け取り、仲間の後に続く。
野次馬たちは悠々と歩く男たちを睨み続けている。中には歯を食いしばっている者もいる。
その眼光、表情、まとう雰囲気は純粋にサラたちを守ろうとしている風でもない。野次馬たちから溢れて漂っている空気は爽やかな正義とは毛色の違う、憎しみから生まれた正義のように感じる。
誰かの舌打ちが合図となって、人垣が外側から崩れていく。みなみな、目的地へと再び足を向け始める。何人かの女性たちはサラたちとすれ違いざまに「気をつけてね」を声をかけてくれた。サラが「あれは誰か」と問う前に女性たちは人波に入ってしまった。
「なんなんだろ?」
「不良にしては物騒を通り越して殺伐って感じだよね」
「……発信器と盗聴器、どっちつけたの?」
「とりあえず発信器かな。もしかしたら本当にただの不良かもしれないし」
「ただの不良で割り切るには、周りの人たちも殺気立ってたけどね」
変わらず流れていく人の流れを眺めて、サラは声を潜めた。綺麗なエメラルドグリーンに影が落ちる。
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