SA 16. 静かな車窓より
「貧民街の方には行かないの?」
「七班の大半がそっちに行ってるから大丈夫。けど、あっちの人たちじゃないような気もするんだよね」
アンジェラは腕を組む。
「というと?」
ダンがシート越しに彼女をかえりみる。
「氏は大通りから人目のつかない場所に移動させられています。しかし、犯行現場も人通りの多い場所の近くです。連れ去るにしろ、逃げるにしろ、あっちの人とミケラル大通りにたむろする人とでは外見に違いが出ると思われます」
「あの時間帯にそういう外見の人間の目撃はないということか」
「今のところですが」
サラは車窓から外を眺めた。町並みが流れていく。病院周りは住宅が多く、日中ではあるがほどよく人が行き交っている。小奇麗な格好の人、ラフな格好の人、寝間着と見まがう格好の人、何年も着古している服で裸足の人。
確かに浮いていると言えば浮いている。まして地元民であればたやすく区別もつくだろう。
「了解した」
ダンが会話を打ち切り、スマホをいじり始める。アンジェラも一息ついた。
エンジンの駆動音、アンジェラのペンが紙を滑る音、ダンがスマホをタップする音。四人も車内にいるというのに、人の気配が薄く、ずっと外を見ていれば車内には透明人間がいるのではないかと錯覚する。
サラはそっとアンジェラを盗み見る。けれど、やはり気配には敏感なのか、アンジェラはすぐにサラの視線に気づき、彼女を見て首を傾げる。サラは首を振って、車外へ目を戻した。
車は住宅街を抜けて緩やかにオフィス街へと入って行く。服装の比率も小奇麗な人が増えて、他国から来ているような雰囲気の人もちらほら現れだす。
信号機を何個かやり過ごしたところで、運転手が言葉を発した。
「そろそろ例のビルに着くが」
「降りるか」
ちょうど信号が赤になり車が止まる。アンジェラがいそいそと降り、サラもそれに続く。
「用があったら連絡する。それまでどこかで待機していてくれ」
降り際にダンがそう伝えていた。信号が青に変わり車が離れていく。
さて、これからどうするか。
「氏のビルの近くにカフェがあるので、まずは腹ごしらえもかねてそちらに行きましょう」
アンジェラがサラの手を繋ぎ、人の波に乗ろうときょろきょろとする。なにも濁流がごとき人の流れではないが、隙間に付け入るには狭い。心なしか自分の前には入れてやらないぞという無言の圧さえ感じてきた。
ちらちらとアンジェラがダンの顔色を窺いはじめた。
サラは心の中で彼女に語りかける。ダンはこれくらいでは怒らない、特務隊どちらかといえば穏健派のひとりなのだと。口にすれば、ダンが何とも嫌な顔をしそうなので口は噤んでおく。
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