SA 13. 祈りは届けど……
初めこそは仕事の話だと真面目に聞いていたクロードであるも、オリヴェイラと対していたダンと同じところで天井を仰ぎ、項垂れて、深く息を吐く。そうしてコーヒーを一杯。
しかし、そこでダンとは違い悲嘆を見せはしなかった。むしろ先ほどの深い息は、安堵から漏れたように、清々しい顔をしている。
「初めてルカがバカやってくれて助かったと思った」
「お前、今はフェラーリの監視役だからな」
任務が重なることはない。監視任務についていれば特殊事例がない限りは監視任務が優先される。どれだけ監視役が暇で遊んでいようとも、監視対象者が生きている状態で同じ空間にいればよく、それ以外の任務は危急がない限り免除になるのである。
「はあ……、面倒臭い……」
「そう落ち込むなって、Aに落とされそうな案件だし。お前のところの神か女神に祈ってろ」
確かにサラやダンは元々実行部隊上がりであり、ダンの班も大概がそうである。情報部上がりがいるにはいるが、果たして小指の爪ほどの情報で一週間までに成果を上げられるか。
その点、このエリアに滞在しているA隊の人数は多い。兼任不可の特務隊と違い、A隊には情報部と兼任している人間だっている。
そもそもオリヴェイラは社長といえど国を動かせるような会社でもなく、コネクションを持っているわけでもない。わざわざ特務隊が出張る案件ではない。
サラの考えていることは当然ダンも考え及んでいることで、彼は溜め息交じりに「そうかもな」と口にした。
「そうであることを祈るよ」
その時、ちょうどダンのスマホが着信を告げた。二度震えて止まる。メールだ。
ダンはスマホを手にして画面を何度かタップする。表情があまり変わらない。おそらくはボスからの返答だとは思うのだが。
「どうだった?」
クロードも当たりをつけて問う。
「A案件になったな。うちの隊長もそれで上げている。ただ……」
ダンが言いよどみ、わずかにだが表情に困惑の色を乗せる。
サラがダンに近寄った。彼の背後に回り、ソファーを挟んで彼のスマホ画面を確認する。
「……情報収集はわたしたちにもしろってこと? ボスからの命令?」
ダンがサラを振り返り、肩を上げる。
「そうだな」
「隊長は?」
「人手不足ならって承認してる」
「……隊長がいうなら、やるけど……」
結局、まったくの不介入というわけにはいかなかった。A案件に下りたのならば、今後の窓口はAになるからオリヴェイラに関わらなくて済むものの、よりにもよって面倒くさい仕事を振り分けられたものだ。
「けど、お前の班は情報収集に不得手だろ。なんでまた」
「だからこそじゃねーの? どうでもいい案件で経験を積めってことだろ」
ルカがおかしそうに笑う。
「どう思う、サラ」
尋ねられて、サラは唇に指をあてた。
ボスからの文面は、正確にするのならば「情報収集の補助」である。ダンとサラは主体ではない。ルカの言うように情報収集のスキルを積めというのであるのならば分からない采配ではない。
けれども、多少引っかかる。
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