SA 12. どうぞ、コーヒーをおひとつ。

 慌ただしい足音が遠ざかり、人の気配も消えたころ、開けっ放しの入り口からひょっこりと監視の青年が顔を出した。

「話はついたのか?」

 ダンがソファーにどかりと腰を落とし、ローテーブルに置いていたスマホを叩いて止めた。彼にしては珍しい粗暴な行動だ。

 サラはもちろん、ルカ、そして監視の青年でさえ目を丸くした。

「決裂したのか?」

 監視の青年ががサラに近づく。

「いやあ、締結した、のかな?」

 サラがルカに目配せする。ルカは顎に手を当て、

「締結はしたんじゃね?」

首をひねる。

「どっちだよ」

 監視の青年も肩を落とす。

 ダンが溜め息を付いて天井を仰ぐ。

「……とりあえずボスと隊長に連絡……、うちの班にも……」

 独り言のようにぶつぶつと呟いている。

「おい、ダン。どうした? コーヒーでも飲むか?」

 いつもと違うダンの行動に監視の青年が慌てふためき、飲むかと聞きながらすでにコーヒーポットからカップに注いでいた。ついでに自分の分も淹れてダンの前に座る。

 サラとルカはもう一度目を合わせ、無言で互いにコーヒーを淹れた。

 ダンは湯気の立つカップを一瞥すると、大きく息を吐き出し、体を起こした。そして、もう一度肩で息をすると、カップに手を伸ばし一息つく。ピリピリした空気がようやく霧散した。

「……疲れたあ……」

「お疲れ。お前は頑張った」

 コーヒーを一口のみ項垂れるダンの肩を、状況を把握しきれていない監視の青年が叩いてねぎらう。

 ダンは緩く頭を左右に振る。

「悪いな、クロード」

 監視の青年クロードは肩をひょいを上げるとカップを持ち、ソファーに背にもたれた。

「で? 引き受けたのか? あそこの二人じゃ要領が得ないんだ」

 ダンの目が力なくサラとルカに向き息をつく。「幸せが逃げるね」とサラの呟きに、ルカはコーヒーを飲みながら頷いた。

 ダンはもう一口コーヒーを飲み込んだ。スマホを片手で操作し始める。

「引き受けはしたけども、ボスとうちの隊長がどう判断するかだな」

 特務隊への依頼は正当な手順を踏むならば、仲介人から本部へ連絡が行き、特務隊長の承認からボスへと上がり、はじめて各エリアのリーダーへ通達がある。

「却下される可能性があるってことか?」

「ことがことだからな。俺たちよりA隊の方が融通を利かせられるかもしれない」

 ダンの言にルカがくってかかる。

「ただ面倒臭いだけだろ」

「それもある」

 不思議そうなクロードにダンはかいつまんで説明を始めた。

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