SA 8. 不届き者

 落ち着いたところでオリヴェイラは頭を下げた。そしてすぐに顔を上げ、ドア近くの青年、ダン、サラ、ルカと順繰りに眺め、もう一度、ダンで目を止める。

「折り入って話があるのだけど、いいだろうか?」

「ここでですか?」

「不都合があるのなら私の個室でも構わないが」

 サラはオリヴェイラではなく、彼の近くにいる男性を注意深く観察していた。

 この男は玄関ホールでサラを助けてくれた男性である。間違いはない。あの警備員に向けていた目は、まさに今、男性がサラたちに向けているものに相違ない。しかし、あの時と違い彼の目には威嚇の他に恨みがましい、妬みに似ている光がくすぶっているように感じる。

「サラ」

 ダンがサラに問う。サラはダンに目を向けた。話を聞くか否か、彼の目が訴えている。

 サラは次にオリヴェイラを観察してみた。今は冷静さを取り戻しているようだが、先ほどの病室アポなし突撃や、公衆の場でこちらの素性を口にしようとした軽率な行動から、思い立ったら相手方の事情などお構いなしに即行動タイプなのだろう。あまり深く考え込めないと見た。

 問題は、背後の男——。

「この部屋でならいいんじゃない」

 自分たちと同じ匂いが男からする、サラはそう感じていた。自身の執着対象のためならば、違法だろうが何でもするタイプ。

「お前は問題ないか?」

「お構いなく」

 ルカの返答に男の眉尻が微かに跳ねる。

「……それならば、社長。私は外で待機しています」

「その場合、そこの男と一緒に待機していただけますか? その際、通信端末の類は一時彼に預けてください」

 ダンがすかさずオリヴェイラと男の間に入る。サラも、ふーむ、と声に出さず唸り、

「ついでに二人とも盗聴器の確認もさせてね」

「無礼だな!」

オリヴェイラの批難の影で、男が舌打ちをする。

「そういう規則なもので、話を聞くには従っていただきたいです。そちらの会社にも社内ルールはあるでしょう? そういうものですよ」

 ぶすくれるオリヴェイラにダンは微笑み、それに、とさらに続けた。

「通常なら本部を通さなければならないのに、直談判なんてルールを犯しているんですから、それぐらいのペナルティは負っていただけませんか」

 オリヴェイラは呻く。そもそもの手続き方法を知らなかった様子だ。

 サラたちがここにいるということだけを聞かされたのか。正確にはサラたちが所属する組織の関係者が入院しているということを聞いたのか。それを誰から聞いたのか。病院内にいる組織関係者か、あるいはルカが報告してきた組織の関係者か。なら、それはどうして。

 男は苦虫をかみつぶしたような顔になった。

「どうしますか?」

「…………、分かった。条件を受け入れる。カール、お前は外で待っていてくれ」

 男——カールは不承不承といったていで、それでもオリヴェイラに従う意を見せた。

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