SA 7. アポなし訪問

「えーっと……、ああ、そうそう、再度潜り込んだ理由は、特務隊に関する調査である可能性が高い、と」

 ダンの片眉が上がった。

「具体的に誰のことか、分かっているのか?」

 ルカは首を横に振る。

「アルコンからは可能性として、ルーピ、ダラムあたりかではないかとのことですが確証がなく、情報部も加わって調査しているところです」

「うちを狙う理由としては妥当か……、火花やジェインという可能性もあるわけだろ?」

 ルカが小さく頷き、口を開こうとして、病室のドアへ目を向けた。微かに開いた口はすぐさま閉じられる。

 監視役の青年が体を浮かせ、足早にドアへ近づく。

 サラとダンは肩越しにドアを振り返った。

 ほどなくしてドア向こうの廊下からやかましい声が近づいてきた。数からして、人数は二人。一人は院内にもかかわらず声量を落とす気もない大声で、もう一つは耳を澄まさなければ聞き取れないくらい小さな声だ。

 声はサラたちのいる病室前まで来るとぴたりと止まり、代わりに荒い息遣いが聞こえてくる。時折唾を飲み込んでいる様子。

「なんか気色悪い……」

 率直な意見を呟くサラの額を、ダンが軽く指弾した。

 ドアの向こうで誰かがぼそぼそと会話をしている。青年がドア横に立ち、耳をそばだてている。初めこそ険しい顔つきであったが、次第に首を傾げだし、表情に当惑が見えた。

 ダンが青年に向かって口だけを動かし、なにごとかを問えば、青年は首を横に振り、肩をすくめる。

 それからすぐに、ドアがノックされた。

「テオドロス・オリヴェイラという。中に入れてくれ」

 青年がダンに目配せをする。ダンは眉間にしわを寄せた。サラは「どこかで聞いた名だなあ」ときょとんする。

「話を聞いてくれ。ここにいるのは分かってるんだぞ、『A.……」

 ドア向こうの何某かが言うよりも早く青年がドアを開き、何某かを部屋へ引きずり込んだ。同時に締めようとしたドアは、滑り込んできた綺麗な革靴によって阻止された。

 革靴の誰かは力任せに足をねじ込み、閉まろうとするドアを掴むと、力任せに押し開いた。力負けするとは思ってもいなかった青年が瞠目する。

 入ってきた男性はオリヴェイラを掴む青年の手をはたき、青年の手からオリヴェイラを救出、

「お怪我はありませんか」

 と、無表情で訊ねた。

「いや、俺は何もされていない。非礼を働いたのはこちらだ。すまない」 

 男性はそれを受け、車椅子を引き寄せる。オリヴェイラを抱き上げ、車椅子に着席させた。

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