第10話 時間が変わる国でのアリバイ
「さっ、時間だ。カスミ、行くよ。」
「OKです!」
絵画を盗られた場所は駅ビルの中にあり、事務所として使っているため人の出入りは少なく、鍵を持つ3人が重要人物であったが…
受付スタッフ:
「お昼前には絵画はあった。」
社長、受付スタッフ、清掃員:
「お昼休憩は一緒に食事をしており、途中誰も抜けていなかった。」
受付スタッフ(その後、社長も確認):
「お昼休憩後に絵画が無くなっていることに気づいた。」
これらの証言から、鍵を持つ3人には昼休憩に犯行が難しく、また、他に誰も部屋には入れないことから謎は深まっていた。
「画商としては、絵画を飾ってくれるのは有り難いんだけど、盗る人に次々と提供してしまうっていうのは…、なんかね。」
そんな状況だったため、ミカは絵を大切にしてほしいと思い、盗られないようにしてほしいとクロに依頼してきたのだった。
「ミカさん、現場を見ました?」
「はい、絵があったときも無くなったときも見ました。絵があるときは白い壁に絵が飾っていて、下には白い布がゴチャゴチャって。」
「ゴチャゴチャ?」
「清掃員の人が教えてくれたんですが、絵に触ろうとする人がいるから手が届かないようにって。」
「なるほど」
「絵が無くなってからは、警察の人が調べるときに邪魔だったのか、そんな布はなかったですけど。」
「普段、絵は誰でも見れたんですか?」
「受付の人がいるときは出入り自由の場所ですよ。絵を見慣れた人はあんまり見ないかもですけど。」
「昼休憩以外で絵を持ち出すのは難しいですか?」
「鍵が開いているときは受付の方がいるので持ち出すと気づきますよ。受付の人が鍵が開いているのに、その入口付近を離れたのは絵が無くなったことを社長に伝えに行くときくらいですよ。」
「そういえば、無くなった布で思い出したんですが、この間、端切れを買ったんですよ、使い道ないんですが…」
「クロ、じゃあ、なんで買ったんです?」
カスミが黙っていれずに口を挟んできた。
クロはミカと関係がなさそうな話も含めていろいろ話をしていた。
『この後、現場に行ってみるつもりだが、関係者しか知らない情報が少しでもあると関係者に見えて、教えてもらえることがあるから、どうでもよさそうなことも役に立つことあるんよね』
クロがそんなことを考えながらミカをみている。
「じゃあ、謎ときに行こっか!ミカさん、駅ビルまで案内お願い出来ますか?」
「はい、それでは、ついてきてください。」
「あっ、ミカさん。新しい絵についてなんだけど…」
現場に着くと、盗難にあった会社の社長が画商のミカに話しかけてきた。
「あっ、この度は災難でしたね」
クロが社長に話しかける。まるでミカと同業者で絵を用立てる話しのような口ぶりだ。
「そうなんだよ、気に入っていた絵だったんだけど…」
「そういえば、絵の下にあった布って、まだありますか?」
クロが社長に、あたかも何度も出入りしてるような口ぶりで聞くと
「あっ、あのシーツか。そういえば、ないな。カイトに聞くとわかかるかも」
関係者と思ってもらえたのか、すぐに教えてくれ、カイトが呼ばれてきた。カイトは白髪で歳は初老かもっと上か。その割に肌艶はよく健康な感じだ。
「シーツは警察の方が絵の周りを調べるため、こっちに移動しました。ここにあります。」
と、近くの物置から白いシーツを取り出してきた。
「物置の中、見てもいいですか?」
と言いながら、クロは持ってきてもらったシーツには目もくれず物置に入って行った。
「このシーツ…」
と言いながら、物置の隅にあった白いシーツを取り出してきて広げると
「シーツに絵が描いてあるです!」
「睨んだ通り、清掃員が犯人だ!」
振り向くと、すでにカイトはいなくなっていた。その後、カイトを探したが白髪のカツラが落ちていただけで、手がかりは見つけられなかった。
事務所に帰ったカスミが
「クロ、清掃員を疑っていたのは何か理由があるのです?」
「清掃員って、日によって時間が長くなったりして、時間が変化しやすい仕事なんよね。だから、周りから業務量が読み取りにくく、もしかしたら午前中とか前もって細工出来たんじゃないかなって。」
「ふ~ん。」
カスミはすでに聞いていない。
数日して、盗難があった場所には新しい絵画が飾られていた。
「ミカさん、犯人、見つかってないけどいいんですか?」
受付スタッフが気になって聞くと
「問題ないですよ、盗られやすい状況じゃなくなったのなら。私は絵画をもっと見てほしいんですよ。犯人は捕まってもそうじゃなくても、いいんです。」
「そうなんですね。」
受付スタッフは応えるが、すでに話を聞いていなかった。
そう、ここは時間が変わる国、人に持ち時間が読まれにくい国…
ゆらぎの国のクロ 難波とまと @NAMBA_TMT
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