第9話 時間が変わる国でのアリバイ

《事件》

「絵がない!」


鍵を開けて入った受付スタッフがエントランスに飾っていたHOKUSAIの絵画が無いことに気づいた。


「お昼前にはありました。昼休憩の後、建物に入ったときに無くなっていることに気づきました。」

駆けつけた警察官の質問に受付スタッフが応える。


「他に無くなったものはありますか?」

「今のところ、ここの絵だけです。絵もここにしか飾ってないです。」

「この場所には誰もが入れますか?」

「いえ、出入口は施錠されており、鍵は3つあり、誰でも入れない場所です。」

「誰が鍵を開けられますか?」

「鍵は1つずつ3人が持っていて、私と社長と、あと1人、清掃員のカイト」


「それでは3人にお話をお聴きしたいと思います」



「つまり、3人とも一緒に昼食を食べており、昼休憩の間にいなくなる人はいなかったんですね。全員アリバイありなんですね。」

そう言いながら、警察官は一息ため息をついた。



《事件の2日前》

カスミは病院にいた。

先日、関わった仕事で銃で打たれていた調査人のお見舞いで来ていた。


「カスミ、調査人さんは左足を打たれているだけで他に異常はないって。明日には退院みたいだよ。」

「良かったです!」

すでに来ていたクロが病院から出てきて、カスミのホッとする顔がそこにあった。


病院は特殊な場所とクロは思っていた。


ここは命を預かる場所。怪我、病を癒やし、回復する場所。そのため、医師、看護師、その他の方も軒並み使える時間は長くなりやすく、この国では人気の職業であり、休暇も多く人手不足とは縁遠い職種の一つだ。


『貯められる通貨があったら…、使ってもっと分配できる通貨があったら…、この職種の周りも良くなるのかな』

クロはそう思いながら清掃員たちの働きを見ていた。


クロの視線の先にいた清掃員カイトは清掃の掛け持ちをしており、今日は病院の外にある広場の清掃をし、ベンチ、テーブルに癒やしになる絵を描いたりしていた。


「いい絵だね」

病院、ホテルなどに絵画を納品している画商ミカがカイトの絵を褒めている。


「ありがとうございます。たいした絵じゃないですよ。」

「いえいえ、和む感じがいいですね。きっと皆さん癒やされますよ、私、買って取り扱いたいくらいですよ」

「ほんとですか?本気にしますよ」

カイトは笑いながら応えている。


クロとカスミはそんなやり取りを横目にしながら病院をあとにした。


《事件翌日》

事務所に画商のミカが相談にきた。

「HOKUSAIの絵画を販売した先で盗難があり、関係者にはアリバイがあるため解決に時間がかかりそうなのですが…」

 

「盗まれた絵を探すことですか?ちょっと難しく時間がかかるかもしれません」 

クロが短期間では解決しにくいため、先に謝っていると


「いえいえ、実は依頼したいことは少し違って、代わりのHOKUSAIの絵を要望されていまして…ただ、解決していないので、また盗まれたらどうしようって思っていまして。犯人逮捕や、犯行方法がわかって再発しないようになれば用意しやすいのですが」


「なるほど。たしかに、盗まれそうな場所に大切な絵を置きたくはないですよね」

調べて見ましょう。


「さっ、時間だ。カスミ、行くよ」

「OKです!」

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