第8話 サンドイッチ

「さっ、私たちの時間だ。カスミ、行くよ」

「OKです!」


マンションを出ると連休で学校が休暇なのだろう、中学生が複数人集まって話をしている。


発砲事件があったことは知っていて、気になるようで、こちらの会話に耳を傾けているのがわかる。


「気になるよね。わかっていることを教えてあげる!」

クロが中学生たちに声をかけると、身の安全を確保したいためか近くに集まってきた。


クロは、発砲があった場所が現在はもぬけの殻であり、また、警察の方も出入りしていることなどから、この場所では追加の発砲は起こりにくいと感じていることを話した。すると、自然と中学生たちに安堵の表情が戻っていた。


「知ってたら教えてほしいことあるんだけど」

クロが話す。一通り話を聞き終えると中学生たちは


「宿題しなきゃ…、行かなきゃ」

と行って走っていった。


しばらくすると中学生たちが戻ってきて

「これ、住所です。」

と、何処かの住所を教えてくれた。


その住所のマンションに行くと、クロは周囲を見渡し、今いる場所が見える別のマンションの一室に向かった。


そこに弟はいた。


「いたいた!お姉さんが心配してるよ」

クロが笑顔で話しかける。


「姉ちゃんが?なんで?」

とぼけた感じで応対している。同じ部屋にはさらに2人がいて、彼らはマンションの外を睨んでいる。


「無事ならいいんだ。お姉さんには生きてたって伝えとくよ。」

そう言いながらその場を離れた。そして、クロは依頼者に弟が無事であること、何があったかを伝えた。


流れはこうだ

弟の隣の一室で粗悪品のネット販売をしている人がおり、消費者からクレームが来たためネット管理者から依頼された調査人が、調査のために隣(今回の依頼者の弟の住まい)に入らせてもらい、ベランダや壁越しに隣人の様子を睨んでいた。


調査人は弟が不在時に居座ることもできないため、弟は極力家から出ないようにお願いされていた。


しかし、隣人にバレてしまい、調査人がベランダ越しに打たれてしまい、その後、隣人は居場所を変えたが、弟は発砲した犯人にせめて血痕の後片付けをしてほしいため犯人を観察出来るマンションまで着いてきたのだった。


「ところで、なんで中学生たちは戻ってきたのです?なんで住所わかったんです?」

カスミがクロに聞いてきた


「それは、今が連休だからだよ」


「連休には宿があるもので、何日か経つと何とか仕上げなきゃって思って、翌日の宿題をする時間を増やすために誰かの役に立つ行動を探してるもんだよ。だから手伝ってくれるんだよ。」


「住所については、最近の宅配は地元の登録者が連絡あると運ぶシステムも定着してきて、親御さんとか兄弟とかにいるかなって思って聞いてみたんだよ。発砲があってから荷物を取りに行くことが増えた場所について」


「なるほどです。」


弟さんの無事がわかり、追加で詐欺まがいの商売も止めることができ、クロはホッと一息ついた。こんなときは、いつものバー「くろの巣」に飲みに行くことにしている。


「久しぶり、カスミちゃんは?」

バーのマスターが声をかけてくれる。


「サンドイッチで気に入らないことがあってね。さっき、具がパンの10倍くらいの凄い量のサンドイッチをあげたとこなんよね。今、ニンジンが山盛り入ってるのを頬張ってた。食べ終わったらくるかも。」


「マスター、聞いてくれる?」

「誰でも販売出来るって、そのままだと中身を充実させにくいって感じたよ。サンドイッチやネット販売をみてね。見てほしい一番を前面に押し出したいから、顧客の期待、お得感に応えにくいような気がしたよ。」


「このバーは安心してリピートしてもらうことを大事にしてますから、逆ですね。お連れさんも有難いですよ」

マスターが話を始めたところ、扉が開いた。


「私の話してた?」

頬にニンジンが付いたままのカスミがやってきた。


ここは、くろの巣、ときの世界。

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