第16話 あの子って、一体…それに、俺は今、どこにいるんだ?

 中村優斗なかむら/ゆうとはとある場所にいた。

 どこかわからないけど、その道を歩いているのだ。


 懐かしさを感じられるところではあるのは確かである。


 辺りを見渡すと、建物の数は少ない。

 都会ではないようだ。

 どちらかといえば、田舎のような空気感が漂う。


 何もないわけではないが、少し歩けば、小さな店屋がある程度。


 でも、なぜ、こんな場所にいるんだろ。


 意味不明すぎる。


 早く帰りたい。

 そんな思いが、内面から湧き上がってくる。


 でも、どこからここにやってきたのさえも思い出せないのだ。

 なんの理由で、ここを訪れる事になったのかも不明。

 どこにバス停があって、どこへ行けば、別の場所へと通ずる道があるのかもわからない。


「それにしても、何か暑いな……」


 優斗は右腕で汗を拭う。

 そして、気づいたことがあった。


「あれ? え?」


 気が付けば、腕が妙に短い。それに普段よりも細いのだ。


「な、なんで⁉」


 優斗は慌てて、両腕を確認した。

 小学生の頃に戻ったかのような体系になっている。


「どういうこと? どうして、子供の姿に?」


 よくよく見てみれば、今着ている服装も、小学生の頃よく好んで着ていた服に似ている。


 懐かしいというよりも怖かった。


 これは夢であってほしい。

 そう思い、右手で頬を引っ張るのだが、強く痛みを感じた。


「マジか……本当に? 本当に、夢じゃないのか?」


 こんなの嫌だ。

 こんなわけのわからないところで一人のままなんて。


「み、皆がいる場所に。誰か、人は?」


 優斗は焦って走り出す。

 何もない田舎の道を移動する。


 小さな建物は見えるのだが、人がいる気配を一切感じない。


 ずっと、こんな場所にいるなんて御免だ。


 誰とも接触することなく、息を切らしながら走っていると不安さが勝ってくる。


 誰でもいいから、誰かと出会いたい。

 そんな一心で、ひたすら走り続けた。






 何とか、ここまで来たけど。


 優斗はとある場所まで到達していた。


 本当に、ここはどんな場所なんだ?


 なぜ、こんな場所にいて、自分の体系が幼くなっているのかも理解できていなかった。


「……」


 優斗は木々だらけの場所にいた。

 本当に田舎は、木が多い。

 土地勘がないまま、迷い込んでしまったら帰れなくなる。


 夕暮れになる前に帰る方法を探らないと。


「本当にさ、ここはどこなんだよ」


 刹那――、優斗は、水の音を耳にした。

 もしかしてと思い、音がする方へ向かう。


 想像通り、そこには小さな湖があった。

 森に囲まれた綺麗な水が存在していたのだ。

 優斗は水へ、恐る恐る近いて、そこを覗き込む。


「……やっぱりか……」


 湖の水に映る自分の姿は、本当に幼くなっている。

 小学生の頃の自分を見ているようだった。


 どうしてこんなことに。


 何もわからないまま、時間だけが過ぎ去っていくようだった。




「はあぁ……」


 優斗が落ち込んでいると。


「そこでしてるの?」

「え?」


 女の子の声が近くから聞こえた。


 草木が揺れる音が響き。

 気になって振り返ってみると、二人の女の子がそこには佇んでいたのだ。


 初めて見る感じの子。

 自分と同じく、小学生らしく控え目な体系をしている二人。


 小学生故、胸が小さいのは当然のことなのだが。この頃、おっぱいの大きさを堪能することが多く、物足りなさを感じてしまっていた。


 いや、おっぱいは大きいからといって、全年齢の女の子の魅力に繋がっているわけじゃない。


 女の子の可愛らしさは、おっぱいだけじゃないと思う。




「探したんだからね」

「え?」


 少々優しめな子から言われ、優斗は彼女の方を咄嗟に見やる。


「勝手に、どっか行くんだから。私たち探したの。もう、勝手に一人で行動しないでよ」

「ごめん」


 心はすでに高校生ぐらいなのに、自分の見た目が小学生という、ちぐはぐな現状。


 優しい雰囲気があるが、その子の口調は、少々厳しめだった。




「そう言えば、二人はどうして、この田舎にいるの?」

「なんでって。あんたって、両親から連れられてきたんじゃないの?」


 行動的な雰囲気を醸し出す子から、そういった返答が帰ってきた。


「そうなのか?」

「そんなの知らないわよ。あんたの事なんだし、なんでわかんないのよ」

「ごめん……」


 優斗は意味も分からずに謝る。


 なんで小学生から怒られてんだろ。


「そもそも、田舎に泊まろうっていう、街のイベントでやってきたんじゃないの?」

「そうなのか? 街のイベントで?」

「本当にわからないの、あんたって」


 行動的な彼女から突っ込まれる。


「そこまでにした方がいいよ。少し疲れているのかも。少し涼しいところに行こ」


 優しめな子が率先して、場の雰囲気を何とかしようとしていた。


「ね、動ける?」

「うん」


 優斗は頷いた。


 その子の手は少々温かったのだ。

 少しだけ、心が優しくなった気がした。






 三人は森から抜け出し、田舎道を歩いていた。


「ねえ、そろそろ、お昼だけど、どうする? 一旦、帰る?」

「どこかのお店で買えばいいじゃない」

「でも、一旦、帰った方がいいかも」


 優しめな子の問いに対し、行動的な子が、そのことについて返答していた。


「君はどっちがいい? そのまま行く? それとも戻る?」


 急に二人の子に振り向かれ、そのことについて問われた。


「どちらでもいいけど。あれ? 戻るってどこに?」

「それは、親がいるところでしょ」


 そうか、ここにいるという事は、親と一緒に来ている事なのか。

 と、自分の中で理解する。


 あれ?

 そういえば、この展開、昔あったような。


 気にかかった。

 その時、何かが自分の中に蘇る。


 小学生の頃、確か、どこかの田舎に、イベントでキャンプみたいなことをしに来ていた。


 もしや、今は、過去のことを振り返っているのか。


 やはり、これは夢?


 でも、現実的なことが多い。


「私は、戻った方がいいかな」

「戻るとか。そんなことをしていたら暗くなってしまうでしょ」


 また、二人の女の子の間で口論になる。


「だったら、どこかのお店で買おうよ」


 優斗はその場の空気感を宥めるように発言した。


「そうだよね。その方がいいよね」


 積極的な子はパッと明るくなった。


 もう一人の子は、しょうがないといった感じに、諦めがちな態度を見せていたのだ。


「確認だけど、どこに行くの?」

「それはね。この田舎にあるお屋敷みたいなところよ」


 屋敷?

 こんな田舎に、そんな洒落た建物があるのか?


 想像がし辛い。


「ここ場所に来る前にね。私、調べてきたの。この場所にはお屋敷があって。そこに行けば、なんでもくれるって」


 積極的な子は淡々と楽し気に話してくれる。


「なんでもくれる? 何を?」

「それはお菓子とかでしょ」

「でも、何か怪しいな」


 自分の心は高校生くらいかもしれないが、彼女ら二人は小学生なのだ。


 だから余計に、不安な感情に襲われてしまう。


 彼女ら二人に何かあったどうしようかと、そんなことを思うのだ。


「ね、試しに行こ」


 優斗は、積極的な子から手を引っ張られ、彼女が言うお屋敷の場所へ向かうことになったのだ。


 心が苦しくなる。


 なぜ、そんな気分に陥るのかは不明だけど、そんな胸騒ぎを感じていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る