第15話 昔の事、あまり思い出せないんだよな…

 これ、どうしたらいいんだよ。


 中村優斗なかむら/ゆうとはまだ自分なりの答えを見つけられずにいた。


 先ほど学校から帰路につき、夜七時頃の今、自宅近くの道を歩いている。


 今日の部活中に彼女から突然言われ、南奈と付き合うことになった。

 そこまでなら、ギリギリ何とかなる。

 デートという名目だが、彼氏彼女の関係じゃない故に、そこは問題ないと思う。


 がしかし、おっぱい発育のために、南奈の胸を揉むことになった。


 彼女は見る限り、何もない。

 真っ平な胸。

 揉むところがないとは、彼女に直接言えるわけもなく。平らなおっぱいを育てるためにもやっていくしかないだろう。

 触るというか、どこを触ればいいのかという問題に直面しているわけだが。


 さすがに揉むというのは、気が引けた。

 けど、やらないという選択肢も皆無なのだ。


 おっぱいとは大きいのをおっぱいというものだと思っていた。

 平でも女の子の胸についているのなら、それはおっぱいなのだろう。


 無いのに、どうやって揉めばいいのかは、あまり考えない方がいい。

 間違って口にしてしまうかもしれないからだ。


 ブラジャーを調達できなかったことで、そのような試練を与えられた。

 芽瑠が傷つかない状況へと持っていけたのなら、それでいいのかもしれない。


 優斗はそう考えることにした。




 さすがに今日は、揉むことはしなかったが、明日から揉まないといけないとなると色々と気まずい。


 これも、芽瑠を悲しませない方法ではある。

 が、もし、その状況を芽瑠に見られてしまったら言い訳のしようがないだろう。


「まさかな。そうそう、そんな状況にはならないだろ……」


 優斗は独り言を呟く。


 これ以上、運が悪くはならないだろうと思いたい。そして、良い方向へ物事が進んでいるのだと強引に思考することにした。


 やっと到着する。

 自宅前に立ち、そこの扉を開け、中に入った。


 意外と八時近い頃合い。早く夕食を済ませて休もうと思う。


 優斗はキッチンに向かうと、そこで夕食の準備を整えるのだった。






 それにしても、あの二人と昔、出会っていたことが驚きだ。


 優斗は夕食の準備をしながら思う。


 いつであったか不明。

 しかし、二人とも、そのことについては深くは教えてはくれないのだ。

 色々な思いがあり、言えない事情があるのかもしれない。


 でも、知りたいという欲求は、自分の中にもある。


「こんなものでいいか」


 一応夕食の準備はできた。


「そう言えば……」


 芽瑠の家にはアルバムがあり。

 もしかしたら、それに過去に関する何かしらのヒントがありそうな気がした。


 真実を知るためには、昔出会った場所に行った方がいいと思う。

 だが、その場所を優斗は知らない。

 知らない時点で、そこに向かうのは現実的ではない。


「あれ? ああ……そうか。結城さんの家にアルバムがあったという事は、もしや、自分の家にもあるとか?」


 探さないとわからないが、できる限り、情報を集めたい。

 だから、優斗はリビングで夕食を取り終えてから、二階の押し入れに行こうと思った。






 先早に終わらせると、皿を洗い、二階へ急ぐ。


 二階には日常的に使われていない部屋が一か所だけあり、そこを押し入れ替わりに使っている。


 基本的には、その部屋と接点を持たずに生活していた。

 学年終わりに、使ったモノを入れて置く程度。


 この前入ったのは、二か月くらい前だったはずだ。


 毎年、一、二回くらいしか入らないこともあり、深く室内の状況は把握していない。

 ただ、使わなくなったモノを置く場所で、あまり印象に残っていなかった。




「どこにあるかな」


 優斗は扉を開けて、入る。

 そして、辺りを見渡した。


 室内が暗かったことで電気をつける。


「あーあ、ごちゃついてるな……」


 室内には、大きな棚が数台ほど設置されていて、その棚に色々なモノが置かれている。

 殆ど掃除とかもしておらず、埃まみれだ。


「あとで、時間がある時にやらないと」


 優斗はそんなことを呟いて、散らかっている床を歩き、奥の方へ進んでいく。


「えっと、ここか?」


 辺りの棚とかも探る。


「違うか……」


 アルバムかと思ったのだが、全然違った。

 中身はただの本である。

 形が似ていて紛らわしい。


「本当に、埃臭いな……」


 むせそうだった。

 少しでもモノを動かすだけでも、埃が舞う。


「全然わからないな」


 優斗はもう少し探る。


「昔って、いつ頃の事なんだろうな」


 記憶が殆ど思い出せず、一向に事が進んでいきそうな気がしない。


「……母親とかに連絡でもしようか」


 両親は仕事の出張で自宅にはいない。


 現在、夜九時頃。

 こんな遅くに連絡したら絶対に怒られそうだ。


 両親は仕事が忙しく、何か話しても時間がある時にしてくれないというのが口癖である。


「やっぱ、明日とか後日だな。さすがにどこに何があるか全然わからないし」


 優斗は諦めがちに大きな溜息を吐くのだった。






 過去の自分って、何をしてたんだろ。

 お風呂に入りながら、そんなことを思い返す。


「ん? そういや、何かどっかに行ったことがあったような」


 昔、どこかの街に訪れたことがあった気がする。


 それがどこにあるかはハッキリとは思い出せないが、そんな経験があったと、なぜか今になって思い当たる節があった。


 確か、両親と一緒に、訪れたことがあったはず。

 でも、それ以外、ハッキリと思い出せないのだ。


 雰囲気的に、夏だった気がする。

 夏というか、雪が降っていた記憶がなかったこともあり、比較的、気温が温かかったと思う。


 そこを訪れたのは、その時が初めてであり、同時に最後だった。

 両親と一緒に行ったこともあることから、多分、小学生の三年生くらいだろう。


 両親の仕事が忙しくなったのもその頃からであり、最後に家族で旅行したのも、その時が最後だった。


「それも後で聞いてみるか」


 あの部屋の散らかりようとかを鑑みると、すぐにはできない。






「はあぁ、お風呂上りのアイスが一番、いいんだよな」


 優斗はお風呂から上り、リビングでアイスを食べるのが日課である。

 アニメとかでも、そういうシーンがあり、その行為に憧れ、普段から食べるようになった。


 体温が高くなっている状況での冷え切ったアイスが最高に丁度いい。

 体がそれを求めているからだ。


 あとはゆっくりとしてから、十一時くらいに就寝につく。


「明日も色々と忙しくなりそうだしな……でも、あれ? ……そういえば、あの子って誰だっけ?」

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