第14話 だったら、私の揉んでよ

「持ってきた?」

「……いいえ、持ってきていないです」


 すでに新しい一週間が始まっていた。

 月曜日の放課後。


 部室内にいる中村優斗なかむら/ゆうとは素直に話す。

 同級生なのに、丁寧な話し方をしていた。


 やはり、あの代物は盗んでくることは出来なかったのだ。


 最初の内は、芽瑠のブラジャーを何とかして拝借しようと思ったのだが、やめることにした。


 彼女が悲しむところを見たくないという思いが強くなり、気が引けたからだ。


「じゃあ、あなたの秘密、皆に伝えてもいいってこと?」

「それなんだけど、それはやめてほしい」

「やめて欲しいって、約束も守れていないのに、あなたが言える立場じゃないよね」

「それはわかってるけど」


 自分の都合のいい提案かもしれないが、南奈のおっぱいを見たという事は、誰にもバレたくなかった。


 そもそも、最初っから優斗にとって不都合な試練の数々。

 夏理南奈なつり/ななからの提案を達成できなかった自分が悪いのはわかっている。けれども、受け入れられなかった。


 おっぱいを見てしまったことがバレたら、結果的に、その情報が芽瑠に伝わってしまうだろう。


 どの道、引かれてしまうのは明白だ。

 だからこそ、どうしても隠したいのである。




「じゃあ、私と付き合って」

「は?」


 今、なんて?


 聞き間違いなのか?


 無言でかつ、脳内にクエスチョンが浮かんでいる優斗は、一瞬、戸惑う。


 でも、当の彼女は、優斗の方をまじまじと見つめている。


 一人の女の子のような眼差し。


 まさか、これは本気なのか?


「一応、聞いておくけど、付き合うってデートみたいな?」

「そうだよ」


 即答だった。


「でも、なんで?」

「まあ、いいじゃない。早い話ね、私と付き合うなら、一応許すってこと」

「それでいいのか?」

「そうね。あなたには少しハードルが高かったと思って。まあ、少し、あなたのことを配慮したつもりよ」

「なんか、ありがと」


 優斗は一応、お礼を伝えておいた。

 お礼も何も、自分にとって、何のメリットもない。


「それくらいならできるでしょ?」

「そうですね」


 優斗は頷く。

 丁寧な返答の仕方になっていた。


「呪い的な話だけど。ブラジャーがなくとも別の方法があるの」

「だったら、最初っから、そのやり方の方がよかったのでは?」

「そうね。でも、ブラジャーの方が圧倒的に呪いが強いからよ。でも、次やることはもう決めているわ。次のは、少し呪いの威力が低くなると思うけど、多分、問題ないはずよ」


 と、南奈は腕を組んで、未来のことを考え込むように淡々と、恐ろしいことを口にしていたのだ。






「それで、私と付き合うって事でいい?」

「でも、長くは付き合えないから」


 優斗は事前にそう言っておいた。


「それはダメ。ずっと付き合ってよ」

「俺、彼女がいるし、一応」


 優斗は小さな抵抗をして見せた。


「私、これでも結構妥協してるんだからね」

「だとしても……」


 優斗は確実に、彼女から圧倒されている。


 いや、本当にそれは勘弁してほしい。


 一時的な付き合いであればいいが、長期間にわたる関係性は難しいと思う。


「でも、どうしてデートなんて。俺のことが好きとか?」

「まあ、そうね」


 どこか口ごもっている印象だ。

 何かを隠しているような、そんな様子も感じられた。


「どうして?」


 優斗は追及してみる。


「言わないとダメ?」

「一応、聞いておきたいから」


 優斗は問う。


「……」


 迷っているのか?


 彼女は一瞬、口を閉じて、無言になっている。


「わかったわ。言うけど。あなたさ、私の事、知ってる?」

「え?」


 どういう質問の仕方だ?


「知ってるってどういう意味?」

「そのままのことだよ」

「……」


 意味が分からず、優斗の脳内は混乱状態。


 どういう事だ。


 知っているとは?


 知っているという、彼女の言葉の意味が分からなかった。


「あなたさ。私の事を助けてくれたじゃない」

「助けた? え? いつ?」

「あの時よ。本当にわからないの?」


 南奈から逆に疑問がられている。


 なおさら意味が分からなくなってきて、戸惑う。


「昔、あなたと出会ってるの」

「出会ってるの? え? ど、どこで?」

「やっぱり、知らないのね。ずっと、高校入学の時から気にかけていたのに」

「ごめん……本当にわかりそうもないんだ」

「そう。まあ、いいわ。しょうがないものね。その時、私、今と雰囲気が違うし。それに、色々とあったし」


 南奈は悲し気な表情を見せていた。

 それと同時に、意味深な言葉を吐いていたのだ。






 一体、どういう事なんだ?


「まあ、付き合うことは絶対だから。それに関しては約束ね」

「うん、約束だからね……わかった」


 優斗は先ほどの衝撃な真実の連発に、戸惑い、少々硬直していた。


 ブラジャーの件も上手くできていない。

 それに、一緒に遊ぶくらいなら、素直に受け入れるしかないと思った。


 決まってしまった以上、これはもうしょうがないと思う。


 だがしかし、昔、南奈と出会ったことなんてない。

 一体、いつ頃の事だろうか。

 記憶を辿るが、南奈と遊んだ記憶なんて思い出せなかったのだ。




「それで、どこに行く予定?」

「それはあなたに任せるけど」

「全部、俺が決めていいの?」

「いいよ」

「そうか。じゃあ、どこにしようか……」


 優斗は悩んでしまうことになった。


 どうするべきか、ひたすらに考え込む。


 というか、どういう場所が好きなのだろうか。


 那奈は普段からオカルト関係のことを考えている。

 だとしたら、そういうオカルト的なお店とかに連れていくとか、そういうのもいいかもしれない。


「提案なんだけどさ、お化け屋敷とかは?」

「いいよ、そこでも」


 意外と素直な返答が帰ってきた。


「なに?」

「いや、なんでもないよ」


 案外、淡々と話が進んでいき、優斗は少々驚いていたが、彼女にその感情を感づかれないように立ち回る。


「まあ、それより、少し部活らしいことでもしましょうか」


 一応部活に所属しているのだ。

 それらしいことをしないと、生徒会役員から指摘される可能性だってあり得る。

 さっそく取り掛かることにした。


「まずはこれね」


 南奈はとある書物を見せてきた。


「それは何?」

「本よ」

「それは見ればわかるけど」


 本は本である。

 しかし、表紙が黒く、どんな内容の書物か、見当がつかないのだ。


 オカルトであれば、恐怖心を煽るようなモノかもしれない。


 優斗は緊張を和らげるために唾を飲む。


「これはね、おっぱいを大きくするためのバイブルなの」


 謎めいたモノというより、卑猥なモノだった。


「この本の通りにね。やれば、私のおっぱいが大きくなると思うの」

「そういうことは家で、一人でやれば……」

「揉んでほしいの」

「え⁉ い、いや、さすがにそれは……。というか、それだと、俺が得するというか、なんというか」

「そんなことはないわ」


 南奈は至って真面目な顔をしている。


「さっきも言ったでしょ? 好きだって」


 彼女は何かしらの意図があるのだろう。


 でも、今後、面倒なことに発展しなければいいと、内心、思うのだった。

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