第13話 俺は、絶対に…実行するんだ…ここで

 中村優斗なかむら/ゆうとは彼女の家に訪れていた。

 芽瑠の家の廊下を見れば、少し洒落た感じの置物が目立つ。


 結城芽瑠ゆうき/めるは爆乳であるのだが、自宅の内装は至って普通だ。

 彼女が爆乳であることと、自宅の雰囲気には相関性はないだろう。


 ふと思うのだが、芽瑠の母親とかはどうなのだろうか?


 遺伝的な感じで、母親の方も大きかったりするのかと思ってしまう。




「優斗君。聞いてる?」

「う、うん。聞いてたよ」


 別のことを考えて、少々ボーっとしていた。

 本当に申し訳なく思う。


「そうであればいいけど。あとね、ここ、私のお部屋なんだけどね。入って待ってて」

「わかったよ。そうする」


 優斗は芽瑠の部屋に入る。

 彼女の室内は綺麗に手入れされている印象だ。


 それに以前、デパートで購入した熊のぬいぐるみが、部屋の棚のところに置かれている。

 大切にしていることが伺えた。


「優斗君、飲み物は何がいい?」

「何があるの?」

「オレンジジュースとか、お茶とか。他にはね、紅茶とかも」

「じゃあ、オレンジジュースの方がいいかな? それ、頼んでもいい?」

「わかったわ。ちょっと待ってて。準備してくるから」


 芽瑠はそう言い、階段を下って一階へと向かって行く。

 彼女がいなくなり、場の雰囲気が静かになった。


 優斗は胡坐をかいて、部屋の床に座る。


 芽瑠の室内の匂いを直接的に感じられ、心地よくなった。


「んッ⁉」


 いや、こんなことを平然と考えていたら普通に変態だ。


 今日の朝から女性用の下着をリュックに入れて、デートしていた時点で変態なわけだが。


 というか、ようやく芽瑠の部屋に一人でいられる状況を作れた。


 や、やるしかないか。


 優斗は唾を飲んだ。


 緊張する。


 脳内で試行錯誤していた時は、そこまで心臓が震えることはなかった。

 がしかし、現実と向き合い、実行するとなると体が動揺し、うまく行動に移せなくなるのだ。


 緊張を上回り、怖いと感じるほど。

 今後の学校生活のためにも、絶対に成し遂げないといけない。

優斗は一旦立膝になり、リュックのチャックを開けるのだった。




「これを……えっと、下着……」


 優斗はリュックからブラジャーを取り出す。


 神々しいブラジャーを手にしているだけでも、脳内が変態化してしまいそうだ。

 すでにしているような気はするけど。


「それより、下着だよな。下着って、どこにあるんだろ」


 辺りを見渡す。


 下着があるのは多分、タンスか、または押し入れだと思う。

 優斗は立ち上がって室内にあるタンスの場所を探る。


 どこだろ。

 ああ、もしかして、これかな?


 優斗はブラジャーを片手に所有しながら、それらしいタンスの前に立つ。


「えっと……ここかな?」


 凄く不審者みたいなことをしているようで、本当に嫌なんだけど……。


 自分でやっていてリアルに胸の内が苦しくなってくる。


 親しい間柄の女の子が大切にしている室内で、変態行為をしているとか、自分のことが嫌になりそうだった。


 これも自分の為なのだ。


「ん……ここは」


 タンスの引き出しを片手で開ける。


 けど、そこには下着の類はない。


 今、開いたところには、本のようなものがあるだけ。


 なんだろ、アルバム?


 不思議と気になってしょうがなかった。


 それを手にすると、少しだけ重さを感じる。


 見てはいけないものだとは思ってはいるのだが、どこか懐かしい。


 一ページ目をめくってみると写真があった。


 二人の子供が映っている。

 男の子と、女の子だ。


 あれ?

 これって、俺……じゃないのか?


 なぜ、芽瑠が幼い時の写真を持っているのだろうか。


 懐かしさを感じている時、足音が聞こえる。


 優斗はハッとした。


 今まさに、彼女が階段を上ってきている。


 このままではまずいと思い、優斗は咄嗟にアルバムを元の場所に戻そうとした。




 な、何とか間に合ったかな。


 心臓の鼓動が激しく波打っていた。


 優斗は最初に座った床へ、再び胡坐をかいて腰を下ろしていたのだ。


「……」


 優斗は緊張のあまり、無言になっていた。


「どうしたの? 汗凄いよ」


 部屋に丁度現れたのは、トレーにジュースとお菓子を乗せて戻ってきた彼女。


「んんッ、な、なんでもないよ。それより、お菓子まで持ってきてくれたんだね。そんなに気を使わなくてもよかったのに」

「一緒に食べたいと思って」

「ありがと」


 優斗はカタコト言葉で対応する。

 そして、芽瑠は優斗の隣に座ってくれた。


「一緒に食べよ」

「そうだね」


 優斗は汗を拭った。


 怖かった……。


 今でも心臓の鼓動が収まらないほどである。




「……」

「……」


 二人は妙に緊張してばかりで、無言状態だった。


 さすがに、この部屋でブラジャーの交換を行っていたとは漏洩できない。


 ……あれ?


 不穏な空気感に襲われた。


 そういや、自分が用意したブラジャーって、どこに行ったんだっけ?


 今になってから気づく。


 あ、そうか。

 さっき、アルバムと一緒に、先ほどのタンスの中に入れてしまったのだと、今更ながら気づいてしまった。


 どうすりゃいいんだよ。




「優斗君って、私の事、どう思ってるのかな?」

「え? どうって……えっと……」


 突然の問いかけに、優斗は焦る。


「俺は、普通に好きだというか」

「好き? 本当に?」

「う、うん」


 芽瑠は優斗との距離を縮めてくる。


 その爆乳が、右腕を襲う。


 凄い膨らみだ。


 いつものことだが、どぎまぎする。


 い、いや、感心している場合じゃ、ないだろ。


 にしても、デカいよな。


 色々なことが脳内を駆け巡り、優斗の頭は混乱状態。


 意識すればするほどに、冷静さを保てなくなる。


「私、優斗君のことが昔から気になっていて」

「気になって? え、でも、結城さんとは高校生になってからの出会いじゃ?」

「そう思う?」

「え……違うの?」

「うん」


 芽瑠は頷いた。


「どこかで出会ってたっけ?」

「どこかではなくて、昔、一緒に遊んだ仲なんだけど」

「そうなのか?」

「本当に覚えていないの?」


 爆乳を押し付けられながら耳元で囁かれる。

 耳の性感帯を刺激され、胸元が熱くなった。


 けど、まったく思い出せない。

 こんな美少女と昔出会っていたとしたら、絶対に忘れる事なんてないはずだ。


「でも、わからないのなら、しょうがないかな」

「ごめん」

「本当なら、優斗君の方から思い出してほしかったんだけど」


 芽瑠の悲し気な表情を見ると、心が痛む。


 今まで自分は芽瑠と向き合っていなかったのかもしれない。

 だから、ブラジャーを交換するためだけに捕らわれてばかりで、本当の意味で彼女を理解していなかったのだろう。


 こんなことやめようかな……。


 どんな時でも素直で、優しく接してくれる彼女からブラジャーを奪うなんて。やっぱり、そんな外道みたいなことはしたくない。


 仮に、南奈の影響で、自分の学校生活の流れが変わってしまったとしても、芽瑠を傷つけたくはないのだ。


 優斗は心を落ち着かせるため、用意してもらったオレンジジュースを一口飲み。気分を入れ替えるのだった。

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