第11話 これがいわゆる、爆乳専用の下着なのか…

「はあぁ……今日は結構疲れたぁ……」


 中村優斗なかむら/ゆうとは自宅にいる。


 自宅の階段を上り、二階の自室へと辿り着いていた。


 感じていた緊張が疲労へと次第に変わっていき、からだ全体に、堪えていた疲れが押し寄せてくる。


 ようやく、あの魔境みたいな下着専門店から退いてこられたのだ。


 欲しいものを手に入れることは出来たわけだが、ここからが重要なのである。


 優斗は一旦、大いなるミッションをクリアしたかのように、ソファの端っこに腰を下ろす。


「ふうぅ……明日からどうするかだよな。あとは」


 今日はいいとして。

 明日からどういったスケジュールを組むべきか思考する必要性がある。


 土曜日ということもあって、比較的自由に行動できるのだ。

 今のところ特に予定はない。


「……大丈夫かな」


 優斗はベッドの端に座ったまま、スマホを確認していた。


 時間帯的に、夜の七時頃である。

 一般的な家庭であれば、食事をしたり。

 お風呂に入っている頃合いだろう。


「お風呂か……」


 芽瑠が全裸になり、お風呂に入っているところを不覚にも想像してしまう。


「そ、そういうのは早いというか……」


 優斗は照れ隠し程度に左指先で頬を触り、独り言を呟く。


 今日というか。

 この頃、エロいことしか脳内に浮かんでこないような気がする。


 すべての始まりは、ほぼ毎日のように、爆乳の彼女らと関わることになっている事。


 それが、優斗の脳内を変態にしている要因であろう。




「爆乳か……」


 爆乳とは、通常のおっぱいとは明らかに次元の違う大きさを保有している女性のことを示す。


 普通に生活していて、出会うことなんてそうそうない。


 ただ、アダルト的な作品内では多少なりともいる。


 真剣に探せば、意外と多くいる事だろう。


 だが、普通に生活していて出会うことはほぼ0%に近い。


 今までの人生、高校に入学するまでの間に、そういった大きな膨らみを持つ女子と出会ったことがあるのだろうか?


 いや、ない。

 そう断言できる。


 詩織しおりは今や爆乳ではあるが、本格的に今の大きさになったのは高校生になってからだ。


「それにしても、大きくなったよな」


 詩織に対する心の声が、ふとしたところで口に出てしまう。


「んッ、一人の時だからいいけど、他の人がいるところでは気を付けないとな」




 普通の人が経験できないことを、優斗は平然とできている。

 その上、爆乳の子と一応、付き合っているのだ。

 相当僅かな確率だと思う。


 奇跡というべきか。

 そういったことに関しては神がかっていた。


 触ってみたい。

 でも、触って嫌われるのも嫌だった。


 今のところ、遠目で見ているだけでも、目の保養になっている。

 急いですべてを手に入れるより、地道に距離を縮めていくのがいいのだろう。


「……それにしても、このブラジャー、凄いな……」


 何回見ても驚きが勝る。


 優斗は買い物袋から、神々しいブラジャーを手にする。


 紫色のデザイン。

 特に、それ以外の刺繡などもない。

 大きすぎて、種類が少ないのだ。


 爆乳であることは、同時に可愛らしい感じの下着を身に着けることができないという事。

 それもある意味、不幸なのかもしれないと思った。


 芽瑠める本人はどう思っているかわからない。

しかし、おっぱいが大きくて得をするのは、本人ではなく異性だけなのかもしれないと、ふと感じてしまったのだ。


「でも、芽瑠も、やっぱり、大きくてよかったと思っているよね、多分……」


 ブラジャーという人が生み出した代物を見、優斗は不覚にも目を輝かせてしまった。


 なんせ、芽瑠の豊満な、あの胸を包み込んでいる下着とほぼ同サイズのブラジャーを今、手にしているのだから。


 おっぱいのことしか考えることができず、どぎまぎ具合が収まりそうもなかった。




「すん、すぅん……」


 ちょっとだけ匂いを嗅ぐ。

 その下着から芽瑠の匂いがするわけではないが気になってしまうのだ。


「……普通だな」


 普通にブラジャーというか、ただの下着の匂いしかしない。

 まあ、誰もまだ身に着けてもおらず、洗ってもいないのだ。

 当たり前というべき、結論へと至るのだった。




「……明日。デートの約束ができればだけど。この下着と、芽瑠の下着を……」


 その神々しいブラジャーを両手で持ちながらまじまじと見つめていた。

 が、そんな中、ふと気になったことがある。


 今さらかと思うことかもしれないが。


「これと、芽瑠のブラジャー。どうやって交換すればいいんだ?」


 まったく考えていなかった。


 やばい。

 詰んだ……。


 嫌な意味合いで、ドキッとする。


 このままでは、ブラジャーを購入した単なる変態でしかない。


「ど、どうすれば……いや、待てよ。そうか。あの方法がある」


 唯一というべき対抗策が思い浮かぶ。


 どうにかして、芽瑠の家に行けばいいのだ。


 明日、芽瑠とデートの約束をして、何とか家に上がらせてもらえるような展開へともっていけばいい。


 元々、彼女の方から告白みたいなことをしてきたのだ。

 だから、うまく話せば、もしかしたら家に上がることができるかもしれない。


 優斗は唾を飲み、そう作戦を立てるのだった。




≪今時間大丈夫?≫


 優斗はメールにそう書いて深呼吸をした。


 緊張してくる。


 女の子とメールでやり取りをすることがあまりにも少なかった。


 昔からの仲である詩織はいる。

 しかし、彼女とも連絡先を交換はしているが、メールのやり取りをしたことはなかった。


 故に、これが人生初めての女の子とのやり取りなのである。


「この文章で問題ないよな?」


 変な文章ではないかと、そればかりが気になってしょうがなかった。


 でも、こんなところで縮こまっていてはいけない。


 直接目を見て話すわけじゃないのだ。


 メールでの遠距離的なやり取り。

 自信を持とうと強く意気込む。


 優斗は数回ほど文章に目を通した後、大丈夫だと思ったところで送信する。


「ああ、緊張すんだけど」


 どんな返答が帰ってくるのか、それが心配で心臓が波打っている。


 それから数秒後。

 気になって、スマホを何度も確認する。

 さすがにすぐには返答があるわけじゃない。


 でも、待っている時間が、余計に優斗の体を締め付けてくるのだ。


 早く来て欲しいんだけど……。

 同時に、一時間後に来てほしいとも思ってしまう。


 複雑な心境だ。


「……気分転換に、ちょっと夕食でも食べようかな」


 そう思い立ち、ソファの端っこから重たい腰を上げる。


 刹那、ベッドに置かれたスマホのバイブが鈍く響いた。


 優斗はハッと意識をスマホへと向ける。

 まさかと思い、スマホを手にすると案の定芽瑠からの返答だった。

 ワクワクとする高揚した感情のまま、メール文を確認する。


 返答メッセージは、明日一緒にデートしても大丈夫というもの。


 優斗はその一文を見て歓喜するのだった。

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