第10話 この下着って…現物を見ると、さすがにデカいんだが…
放課後。
普段は訪れる事のないエリア。
学校を後に、幼馴染の
運がいいことに店内にはお客の数が少ない。
少ないというより、奇跡的、今の時間帯いないのだ。
だがしかし、そんな環境下であったとしても、先ほどから緊張感に襲われ、心臓の鼓動が早くなっていると実感する。
変態的な思考は辞めた方がいい。
できる限り、平常心でいること。
でなければ、この環境下では行動できなくなる。
この環境は、むしろ、堂々としていた方が、逆に変に思われないかもしれない。
やろうと思っても、やはり、無理そうである。
なんせ、優斗がいる場所というのが、衣服専門店内の女性の下着が売っている場所だからだ。
こ、これって……。
息が明らかに荒くなってくる。
いや、そういうことは考えなくていい。
冷静さを保つんだ。
今はそういう試練を与えられていて、それを乗り越えないといけない瞬間なのだろう。
必死に平常心を胸に抱こうとするが――
難しかった。
本能的に、女性用の下着に興奮してしまう自分がいる。
なんせ、通常以上サイズのブラジャーを前に、興奮しない奴なんていないだろう。
「ねえ、早く決めたら?」
「うん……」
わかっているけど。
なかなか決められない。
芽瑠のおっぱいの大きさがわからないから迷っているのだ。
どれくらいの大きさなんだろ。
見た感じFカップ以上はあると想定される。
けど、正確な大きさは把握できていなかった。
学園内でも、議論されている内容だが、未だにその大きさを知り得ている人はいないとされているのだ。
仮に大きさを間違ってしまったら大問題である。
今、購入しているブラジャーの用途方法がなくなる。
自分で使うわけにもいかないし。
そもそも、一度も身に着けた事のないブラジャーを保有していて何になるのだろうか?
例えば、詩織にあげるとか?
いや、そんなことは出来ないだろ。
さすがに……。
優斗はチラッと隣にいる彼女を見やった。
あれ?
もしや、このブラジャーと、詩織の大きさって同じなのか?
制服越しでしか見た事のないおっぱい。
その膨らみ的に、このブラジャーと同じ大きさを保有しているのかように思えた。
でも、聞けないよな。
いくら昔からの馴染みとは言え、性的な発言はこれ以上、自分の口からは発言できなかった。
学校にいる時も、変なことを言って頬を叩かれているのだ。
この下着専門店に、詩織と一緒に居られる時点で奇跡に近いのだが。
一応、今のところ、彼女は芽瑠のブラジャーを購入することには協力的ではあった。
「なに? 早くしてよ……」
また、詩織から問い詰められる。
優斗がブラジャーを手にしていることに苛立っているらしい。
今思えば、すべて詩織に頼めばよかったのではと、ブラジャーを触っている今、そう思う。
けど、もう遅い。
今さら、そんな結論にたどり着いたとしても後の祭りなのだ。
「えっとさ、それ、多分、私のと同じかも」
「え?」
「……な、何でもないから」
詩織は頬を紅潮させている。
何事もなかったかのように振舞っているが、先ほど確実に、私のと、と口にしたはずだ。
やはり、芽瑠と、詩織のおっぱいの大きさは同じなのかもしれない。
詩織とは昔からの仲であり、小学生低学年の頃。
一緒にお風呂に入ることは、当然のようにあった。
でも、その時期は、そんなに異性の体に興味を示すような年頃ではなかった故、互いの両親もそこまで気にはしなかったのだろう。
今振り返れば、詩織が幼い頃は、そこまで爆乳ではなかった。
次第に大きくなってきたのは、中学生に入った頃からだったと思う。
成長期に入り、一気に成長した。
そんな昔の彼女と比較して考えてみると興奮してしまう。
ありえないほどの大きさを所有する身近な存在ということもあって、触ろうと思えば、触るには一番近い関係性にあるのだ。
だが、確認のために触らせてとは口が裂けても言えない。
詩織は真面目な性格なのだ。
そんなことを言って、揉ませてくれるほど緩い感じの子ではない。
先ほどの詩織の発言が確かであれば、実際に触ってみた方が芽瑠の大きさと比較ができるというもの。
触りたい……。
いや、違うから。
これは性的なこととかじゃなくて、ブラジャーを購入するために必要な行為であって。
正当化する感情と、触ってはいけないという正義の心に、優斗は葛藤を重ねていた。
「あのさ、ブラジャー持ったまま、ずっとそこにいると、色々とヤバいと思うんだけど」
「そ、そうだな。早く決めないと」
優斗は一度深呼吸する。
「えっとさ。それ、私に貸して」
優斗は手渡しする。
「……」
「どう?」
「まあ、いいんじゃない? この大きさで」
詩織は恥じらいを持ったまま、口にする。
それ以上、そのブラジャーについて語ることはしなかった。
やはり、そのブラジャーと、普段から身に着けている詩織のブラジャーが同じという意味合いなのだろうか?
冷静に考えれば、詩織のブラジャーをさっきまで触っていたことになる。
妄想を膨らませそうになるが。
ここは女性の下着コーナーであり、下半身が変に反応するのを極限状態まで抑えることにした。
「これにする? 色合いは? デザインとかは。それでいいの?」
「多分……」
「なに?」
「……いや、なんでもないよ」
「そう? だったらいいけど」
詩織は優斗から視線を逸らす。
二人は店内で気まずい関係になった。
いつまでもここにいるのはさすがにまずい。
早いところ、どこかへ移動した方がいいだろう。
「お願いがあるんだけど。これ、買ってきてくれない?」
「私が? 別にいいけど」
「お願いするよ。お金は後で払うからさ」
優斗はそう言って、その女性コーナーを後に、周りを気にしたのち、店屋自体から出ることにした。
それから数分後、ブラジャーが入った袋をもって彼女が店屋から出てくる。
「はい、これ」
「ありがと……領収書は?」
「これね」
「じゃあ、これお金ね」
「うん。受け取っとくから」
二人は店屋の前で怪しいやり取りをすることになった。
卑猥な感情を抑制するために、淡々とした会話で事を終わらせる。
でも、このままブラジャーを持って行って、芽瑠のブラジャーと交換したとしても、芽瑠には絶対にバレるのは明白だ。
だから、最後にアレをしないといけないだろう。
そんなことを思考し、優斗は下着の入った袋をリュックに入れる。
二人は特に会話することなく、帰路につくことになった。
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