第9話 俺は私用でブラジャーが欲しいわけじゃないんだ

 ブラジャーとは一体、どれくらいの大きさになるのだろうか?


 昼休みの時間帯。

 中村優斗なかむら/ゆうとはそんなことばかり考えていた。


 未知数な大きさを持つ彼女のおっぱいに、頭を抱えている。


 結城芽瑠ゆうき/めるのおっぱいは深海よりも、いや、宇宙よりも壮大かもしれない。


 それほどに計り知れない二つの膨らみを保有しているのだ。


 恐ろしい……。


 でも、同時に、どぎまぎする。


 誰も知れないモノに、自分だけが直面しようとしているからだ。


 芽瑠のブラジャーを奪うのは心苦しいが、やはり、今後の学校生活がかかっている。

 内心、悪いとは思っているのだが、結果としては芽瑠のことを裏切らないといけなくなるだろう。


 でも、どうしたらいいんだ。


 悪いと思っているからこそ、良い心が自分を抑制し、先へ進む自信が消失していくようだった。




 個人的に芽瑠のブラジャーが欲しかったりする。


 い、いや、そんなこと。

 さすがに、一応付き合っているのに隠し事をするなんて絶対によくないだろ。


 芽瑠のおっぱいはどれくらいの大きさなのだろうか?


 ダメだと、頭では理解しているが、卑猥なことばかりを妄想してしまう。


 背徳感に襲われながらも、高校生徒は思えないあふれんばかりの、芽瑠のおっぱいを見たい。


 そんな不埒な思いに今、悩まされているわけなのだが。


 ダメだって、そういうのは。


 触りたいと思うのは、本能から湧き上がって感情の高ぶり。


 爆乳を所有している女の子なんて、そうそうお目にかかれるものではないのだ。


 その上、そんな子と今、付き合っている。


 逆にエロいことを考えないなんて、男として終わっていると思う。


 だからといって、如何わしいことをしてもいい理由にはならないともわかっているのだ。




 おっぱいのことを一度でも思考してしまうと、芽瑠の爆乳ばかりが脳内を駆け巡る。


「部活としての試練って言ってもな。やっぱ、南奈の考えはさすがによくないことだし。でも、断れもしないし。どうしたら、二人の考えを崩さず、ブラジャーを手に入れられるんだ」


 ふと、声が漏れてしまう。


 欲望交じりの声。


「⁉」


 ベンチに座っている優斗は辺りをキョロキョロする。


「……だ、誰もいないよな」


 ここは普段から愛用している、自分だけのテリトリーのような場所。

 校舎の裏庭こそ、至高。

 唯一の心の安らぎの空間だった。


 基本的に誰かが訪れる事はない。


「聞かれていなければ問題ないんだけど……」


 見渡した感じ、誰かがいるような気配すらもなかった。


 ホッと胸を撫でおろした刹那――




「何が聞かれていなければなの?」

「――⁉」


 ドキッとし、心臓が急激に震える。


「な、なに、というか、だ、誰⁉」

「私だから」


 山村詩織やまむら/しおりが背後から優斗の前に姿を現す。


「……な、なんだ、詩織か」


 本当に驚かせないでほしい。


「でも、さっきのは独り言?」

「そ、そうだね。うん……独り言」


 何とか誤魔化そうと思う。


「そう? だったらいいけど。何か考えてたんでしょ? なんだったの?」

「い、いや、なんでもないから」


 優斗は何事もなかったように、話を進めることにした。


 気が付けば、彼女は隣に座っている。


 幼馴染で、昔からの付き合いなのだが、詩織のおっぱいにばかりが気になってしょうがなかった。


 で、デカい……じゃなくて。

 こういう変なことは考えないようにしないと。


 優斗は全力で不埒な思いを断ち切ろうとするのだが、微妙にエロい思惑が心に残ってしまっているようで、モヤモヤする。


「どうしたの?」


 詩織が不思議そうに問いかけてきた。


「そ、それより、昨日はどうして、あの子を引き留められなかったの?」


 逆に話の路線を、自分の方向性へと持っていくことにした。


「そ、それはごめん。私、怖いのは苦手で。でも、これでも一生懸命頑張った方だから」


 詩織は少々泣き目がちになっていた。

 そんな顔を見てしまうと申し訳なくなる。


 もう少し彼女の気持ちを配慮しておけばよかった。


 確かに昔から、怖い映画とか、お化け屋敷に対して、拒絶反応を見せていたことを思い返す。


 でも、南奈って、どんな怖いことをしたのだろうか?




「優斗。私、頑張ったんだから。何か、お礼とかないの?」

「お礼か……何がいい?」

「なんでもいいけど」

「なんでも?」

「本当になんでもいいわけじゃないからね」


 詩織から強めの口調で言われた。


 長年の付き合いだが、彼女は何を考えているのかわからないところがある。


 幼馴染だからといって、あまりにも親しい感じではいけない。

 親しい関係でも礼儀は必要だ。


 しかし、何をお礼として渡せばいいんだろ?




「優斗。今日、一日でもいいから私に付き合って」

「付き合うとは、友達として?」

「……う、うん。それでいいわ。優斗って、一応、付き合っている子がいるから。それでいいけど」


 詩織の活舌が悪くなっていた。


「でも……」

「でも?」

「んん、なんでもないわ」

「そう? だったらいいけど」


 何か言いたいことがあれば、話してもいいのにと思う。


「俺から少しいい?」

「え⁉」


 優斗が急に話しかけ、距離を詰める行為をしたことで、彼女は動揺してしまっていた。

 頬を真っ赤にしているのだ。


「ちょっと、いきなり何?」

「何もないけど。どうした?」

「な、なんでもないんだけど」


 え?

 どういうこと?


 優斗は彼女の心が読み切れず、脳が混乱する。


「……」


 詩織は無言のまま、表情が硬くなってきている。

 その上、まだ頬を真っ赤だった。


「……ごめん、ちょっと色々あって。あの何か話したいことがあるんでしょ、優斗って」

「うん、一緒に手伝ってほしいことがあって」

「また? どんなことよ」

「えっと……言いづらいんだけど。下着的な」

「⁉ し、下着⁉ し、下着って、あの下着⁉」

「そ、そうだけど」

「な、何に使うの?」

「使うって。別に変なことじゃないよ。普通に」

「普通?」

「部活で必要というか」

「使うって、私用で?」


 詩織は慌てていた。


 優斗の口から下着発言があるとは思わず、動揺しているらしい。


 彼女の頬がさらに火照ってきていた。


 急速に頬を真っ赤に染めたのち、詩織の右手が優斗の頬を直撃する。


 彼女の中で、とんでもない誤解をしているのだ。


 普段からスポーツをしている詩織からの攻撃に、優斗は耐えきることは出来なかった。

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