第8話 小さい方が断然いいに決まってるでしょ?

「ねえ、昨日って、なんだったの?」


 翌日、朝の時間帯。

 中村優斗なかむら/ゆうとはオカルト部の室内にいる。


「そ、それはさ、普通に……」

「普通に? なに?」

「デートしていたっていうかさ」

「なんで? 私がいるじゃない?」


 南奈がグッと距離感を縮めてくる。


 顔が近いんだが……。


 室内で二人っきりの今、彼女の圧倒的な存在感に、内心怯えていた。


「……俺だって、普通に彼女が欲しいし。それに、あの子とは付き合いたかったから……」


 優斗は恐る恐る口にする。


 何を返答しても、よい状況にはなりそうもない。


 けど、何もしないわけにもいなかった。


 夏理南奈なつり/ななの表情は怖い。


 昨日、デパートで観察するように睨んでいた彼女。


 怪しい部活をやっているだけに、猶更存在自体が怖く思えてきた。


 やっぱり、この部活、続けられそうにもないんだよな。


「付き合いたいって。だったら、私としようよ」

「デートを?」

「うん」


 那奈は愛らしい笑みを見せる。

 さらに顔と顔の距離が近くなった。


「でも……」

「でもって。あなたには拒否権はないと思うけど?」


 以前、南奈の全裸姿を見た。

 その件もあり、断ることができないのはわかっている。

 しかし、南奈とこのままの関係性を続けていくのは色々と厳しい。


 上手に断ることができればいいのだが、優斗には、そういったスキルは持ち合わせていなかった。


「ねえ、私と今日付き合ってよ」

「すぐには無理だけど」

「無理? じゃあ、あなたが変態ってこと拡散するしかないけど?」

「それは……脅迫じゃないか」


 刹那、優斗はハッと閃くことがあった。


「で、でも、このまま脅迫するなら生徒会役員に――」

「それは無理だと思うよ」

「……ど、どうして?」


 優斗はきょとんとしつつ、彼女から距離を取るように、こっそりと後ずさる。


「だって、私。生徒会役員のあの子の情報知ってるから」


 え?

 なんで?

 ああ、そういうことなのか?


 昨日の疑問が奥底から解消されるかのように、脳内が鮮明になる。


 昨日、詩織に南奈の足止めを頼んでいた。

 けど、それが機能していなかった理由に気づいてしまったのだ。


「私、あの子の弱みを把握してたし。あの子って元々、怖い話とか、そういうのに弱いでしょ?」


 那奈はわかりきった感じに、余裕ある態度を見せてきた。


「もしかして、そういった話で脅したのか?」

「うん。そうだよ。その方が効率いいしね。でもダメだよ、優斗。私だって、優斗の内緒のことを誰にも言っていないのに。生徒会役員のあの子に相談するなんて。けどね、今回だけは許してあげる」

「……」


 優斗は唾を飲んだ。


「けど、今後変な言動を見せるなら、もっと大変なことになるかも。それでもいい? 嫌なら気を付けてよね?」

「……はい」


 優斗はついには何も言えなくなり、小さく頷くように首を縦に動かす。

 脳内では、絶望という文字が浮かんでいるのだった。




「あのさ、私とこれから、しよ」

「な、何を?」


 優斗はドキッとした。

 卑猥なことが脳裏をよぎる。


「だから、オカルト的なことよ」

「そ、それ? やるのか……」


 卑猥なことを想定していた自分を殴りたくなった。

 この流れ的に、エロいことではないのは明白なのに。


「だって、この前入部届に書いていたでしょ? 書いたからには、部長である私に従うのが当然じゃない」


 確かにやるとは承諾したが、いざ行うとなると怖い。

 呪い的なことに、からだ全体が怯えている。


「私ね、どうしても、爆乳みたいな子を排除したいの」

「そんなのやめた方がいいよ。誰も得しない気が」

「得はするわ。私が」

「夏理さんはそうかもしれないけど」

「けど何?」


 南奈はグッと、優斗の方へ顔を近づけてきた。

 突然の行為に何も言い返せなくなり、口ごもる。


「一先ず、こっちの方に来て」


 優斗は浮かない表情で、彼女と共に、室内の別の場所へ向かう。




 おっぱいとは大きい方がいいに決まっている。

 小さいよりも、大きい方が普通に考えれば得をした気がするからだ。


 だからと言って、優斗は決して貧乳を否定しているわけじゃない。

 ただ、小さいより、大きい方が好きというだけ。


「確か、ここにあったはずね。あ、これこれ」


 そういうと南奈は、本棚から一冊の本を取り出す。


「この本にはね、爆乳の子を貧乳にする呪いのかけ方が載ってるの」

「そんなのあるの?」

「ええ。私が、とある場所から取り寄せたの」


 その本のデザインを見た瞬間、一発で怪しい雰囲気のある本だと察した。


 あまり、そういった特殊な概念とは関わりを持ちたくない。

 本能的にそう思う。


 でも、入部という形で契約を交わしているのだ。

 その上、今のところ逃れるすべを、優斗は持ち合わせてはいなかった。


「優斗、これを見て」


 中身を見たくなかったが、しぶしぶとその本を覗き込む。


 それには女の子らを貧乳にする呪いのかけ方が丁寧に記されてある。


 本当にやるのか?

 男子生徒からしたら、不都合なことを。




 優斗は乗り気ではなかった。


「それで、必要なモノはね、その子が身に着けているモノを手に取ってくること」

「身に着けているものって?」

「それは、下着とか?」

「え。でもそれ難しくないか?」

「だって、デートをしたんでしょ?」

「そ、それはそうなんだけど」


 彼女の前で、芽瑠とデートした件について口にするのは非常に気まずい。


「ある程度親しいと思うし、取ってくるくらい簡単でしょ?」

「でも、さすがに難しいって。でも、取ったら絶対にバレるって」

「大丈夫よ」

「なぜ?」

「別の同じモノと交換すればいいでしょ?」

「別の?」

「そう。あの子が身に着けているブラジャーと同じものを交換すればいいだけ」

「いや、それ自体が難しいんだが」

「けど、呪いのためには、それが必要なの」

「そんなこと、俺には……」


 優斗は消極的に返答した。




「でもやると言ったらやるの」

「本気?」

「当たり前よ。これが部活として、最初の活動になるんだから。私の野望のためにね」


 嫌な活動内容だなと思う。


 南奈は普通にしていれば、可愛らしいのに、どうしてこんな恐ろしい子になったのだろうか?


「だから、取ってきて。明日までに」

「明日⁉ い、いや、無理だから。そもそも、結城さんの代わりとなる下着もないし」

「準備すればいいでしょ」

「ど、どこで?」

「それはデパートとかで」

「それはハードルが高いよ」

「できないなら、あなたの立場がどうなるか」

「わ、わかった。できる限りはやるから。やらせてもらいます……」

「じゃ、お願いね。今後の活動に必要だから♡」


 と、南奈は満面の笑みで言うが、彼女の後ろに出現している黒いオーラからは、さらなる不気味さが出現しているかのようだった。

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