第7話 あれって…!?

 中村優斗なかむら/ゆうとは街中にいる。

 あの恐怖染みた環境から逃れ、一応、胸を撫でおろすことができていた。


 校舎内で感じた、あのオーラは一体なんだったのだろうか?


 今も尚、嫌な想いが自身のからだ全体に押し寄せてくるようだった。


 いや、もうそのことは忘れよう。

 と思いつつも、内心モヤモヤとした感情を拭えずにいた。


「ねえ、あの場所とかいいんじゃない? どうかな? 優斗君も寄ってみない?」

「……え、う、うん」


 優斗は遅れた感じに反応を返す。


「どうしたの? 顔色悪いよ?」

「んん、なんでもないよ。本当に……だから気にしないで」

「そうかな?」


 結城芽瑠ゆうき/めるは首を傾げていた。

 そんな彼女は、優斗の右側の方を歩いている。

 距離が近いことで、より一層爆乳具合を感じることができていた。


 優斗は戸惑いながら、少しだけ彼女から距離を取る。

 そして、感情を紛らわす。




「なんでもないならいいんだけど。無理しないでね。もしかして、今日も本当は用事があったとかかな?」

「そういうことじゃないから……」


 やはり、あの黒いオーラのことは忘れよう。

 いくら考えてもわからないことで、無駄な時間を費やしたくないからだ。


「なんでもないならいいのだけど。あのね、話に戻るけど、あのデパートに行きたいの」

「どこ?」


 優斗は芽瑠が指さすところへ、視線を向ける。

 それは数年前に改装し、建物の中に色々な施設や店屋が隣接しているデパートだった。


「あのデパートの中に、新しいお店ができたみたいで入ってみたかったの」

「まだ一人では一度も入ったことはないの?」

「うん。優斗君と一緒に来てみたかったから」

「じゃあ、一緒に行ってみようか」

「ありがと。優しいよね」

「え?」

「んん、なんでもないよ、こっちの独り言だから」


 芽瑠からの発言に、優斗は首を傾げる。

 が、彼女は自然な感じに受け流していた。


 何か隠しているのだろうか?


 でも、そこまで気にするようなことではないと思い、追求することはしなかった。






 優斗は芽瑠とデパートに足を踏み入れていた。

 内装は綺麗な方。

 相当手入れが行き届いている箇所が目立つ。


 施設内の空気感もよく、しっかりとした設備が整っているように思えた。


 こんなにも素晴らしいところで、爆乳彼女の芽瑠と一緒にいるのだ。

 あのオーラ的なことは本当に一旦忘れよう。


「ねえ……」

「ん?」

「あのね、手を繋がない?」

「いいけど……」

「やっぱり、ダメそう?」

「そんなことはないよ。むしろ、嬉しいし」


 優斗は頬を紅潮させて呟く。


 いきなり過ぎて驚いていた。

 まさか、彼女の方から、率先して手を繋ごうとか言ってくれるとは。


 非常に嬉しいことであり、今日は本当についている。


 すぐにでも芽瑠の手を握りたい。

 もっと触ってみたいと強く思える。


 そんな願望交じりの想いを抱き、優斗は手を差し出すことにしたのだ。


「こういうこと初めてで」

「そうなの?」

「うん」

「でも、珍しいね。いつも告白されているイメージがあったけど」


 芽瑠の初めてになれたのは、本当に人生最大級の全盛期と言っても過言ではないだろう。


「あれ? どうしたの?」


 手を繋いでいる彼女から、心配げに問われた。


「え?」

「さっきからボーっとしていたけど」

「いや、これはさ、その、俺も彼女できたの初めてでさ。少し緊張するというか。色々と初めて緊張していて。まあ、ストレートに言うなら嬉しかったんだよね」


 優斗は変に思われないように、素直に伝えておいた。


「そうなんだね、意外」

「そんなことはないよ。俺はそんなに取り柄のない存在だから」


 優斗は少しばかり悲観的になっていた。


「そうかな? でも、優斗君にも普通に取り柄はあると思うけどな」

「え、そうかな?」


 なぜ、そういったことを知ってるんだろうか。


「でも、今は早く移動しよ。ずっとここにいると、他の人に迷惑かかるからね」


 夕方頃の時間帯。

 少しだけ、デパートに訪れている人が増えている印象だ。


「そうだな。それで、どこのエリアに行きたいの?」


 優斗にも、彼女を導いてあげたいところはある。

 けど、自分だけの想いを一方的に押し切るのは、何か違うと思う。


「色々あるんだけど。最初は、あの場所がいいかな?」


 芽瑠は考え込むような姿勢を見せた後。繋いでいる手を引っ張り、彼女の方から導いてくれる。


 彼女が軽く走るだけでも、制服越しでもわかるほどに、その爆乳が揺れ動く。周りにいる一般人の人らの視線を一心に集めることになっていた。






「これ、欲しいんだけど」


 グッズ専門店で芽瑠はとあるモノを手にしている。

 彼女が両手で持っているそれは、熊のぬいぐるみだった。


 可愛らしい感じにデザインされたモノ。デフォルメされていることも相まって、さらに、愛らしさが増して、芽瑠と相性が良く思える。


「これいいよね。可愛しいし。優斗君もそう思うでしょ?」

「うん、それ似合ってると思うから、買ってもいいんじゃない?」


 優斗も率先して話を広げていくことにした。


「それ欲しいの?」

「うん、できればね」


 芽瑠に買ってあげた方がいいかな?




 学校帰り。好きな子と一緒に、同じ時間を過ごせていることに、幸せを強く感じていた。


 今まで願望交じりの夢が、現実で叶っているのだ。

 夢ではないはず。

 二次元のような世界での出来事でもないだろう。


「優斗君も、何か買う?」

「俺は……」


 優斗はグッズ専門店内のぬいぐるみエリアを見渡す。

 本当に品揃えがいいように思える。

 どれもこれも良く見えてしまい、迷ってしまう。

 でも、強いて言うなら。


「これかな?」

「これ?」


 優斗が手にしたそれは、犬がモデルになったぬいぐるみ。

 デフォルメされたものであり、可愛らしい感じだ。

 どことなく、芽瑠に似ているようにも思えて好感を抱けた。


 芽瑠と同じ熊のぬいぐるみでもいいのだが。そのぬいぐるみは彼女が持っている、   それ一つしかなかった。

 購入するなら、注文するしかない。

 そんな手間をかけるなら、この犬のぬいぐるみでいいと思う。




「そうだ。お揃いのにしようよ」

「いいね。でも、何をお揃いにする?」


 優斗も彼女と一緒のモノにしたいという願望がある。

 だから、共有できるアイテムがあるのなら、共に購入したい。


「えっとね。じゃあ、キーホルダーとか? 身に着けられる方がいいかな?」

「キーホルダー。その方が常に持ち歩けるし、いいかもな」


 二人の考えが一致し、店内のキーホルダー売り場へと向かう。

 そこで、二人は互いに好きそうなタイプのアイテムについて話し、選び始める。


 色々なモノが出揃っていて迷う。


「これにする? それともこれ?」


 芽瑠が選んだのは、動物系のキーホルダー。

 彼女は両手にキーホルダーを持っているが、優斗の視線は、そのどちらでもなく、大きな膨らみの方へ向かっていた。


 いや、今はそういうことじゃなくて。


「じゃあ、こっちの方かな」

「こっちね」


 優斗が選んだのは、月の光で輝く仕様の動物キーホルダー。

 作成者のセンスを感じられた。


 必要なモノは購入し終えたのだ。

 二人はレジへと向かい、会計を済ませる。


「よかったぁ。欲しいものが手に入って♡」


 芽瑠は購入したモノが入っている袋を抱きしめていた。

 そのおっぱいの間に挟まれている袋に変わりたいと、一瞬気の迷いが生じてしまうが、首を振って正常さを取り戻す。


「優斗君、これ以上はない?」

「俺は大丈夫だから」


 店屋を後に、二人はデパート内の廊下を歩く。


 この流れ的に、食事できるところがいい。

 あと三〇分ほどで、六時を迎えるのだ。


 時間帯的にも、芽瑠がよければ、一緒に食事をしたいと妄想を膨らませていた。

 そう思い立ち、芽瑠へ話しかけようとする。

 が、嫌なオーラを感じてしまう。


 その視線は別のところから生じているのは明白だった。


 ……あ、あれって……。


 優斗が向けた場所。

 そこには南奈ななの姿があった。

 彼女は壁の角に半分だけ体を隠すようにして、こちらをジーっと見ている。


 え……?


 こ、怖い。

 普通に怖いんだが……。


 オカルトに在籍し、そのような怪しいことをやっているからこその言動。


 学校にいる時は、まだマシなのだが。

 学校という箱庭から遠き放たれた彼女は、途轍もなく恐ろしい。


 やはり、あのオーラ……南奈だったのか?


「……えっとさ。そのまま帰ろうか?」

「え? もう? 他にもよらないの?」

「ごめん、何か具合が悪くて。だからさ。それに明日も学校だから」

「わかった。私はもう少し一緒に居たかったんだけどなぁ」


 芽瑠からの寂しそうな声が耳に届き、優斗は心が痛む。

 けど、明日、南奈から何をされるのか想像しただけでも、お化け屋敷にいるように、ゾッとした。

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