第6話 この問題は早急に解決しなければ…

 中村優斗なかむら/ゆうとは溜息を吐いていた。


 オカルト部というよくわからない活動に署名した、次の日。


 優斗は通学路を一人で歩いている。


 昨日のことを振り返ると、あの判断でよかったのか、疑問が残っていた。


 辞めたいんだけど……。


 今さら逃れられない事態に追いやられ、強引に退部すると言ったら、呪いとか。そんな不可解な出来事に巻き込まれそうで怖い。


 やるという意思表示を示してしまった以上、自分の口から辞めるとは言わない方がいいと思う。


 朝からここまで不穏な気持ちのままだと、今後が不安になってくる。


 今日はどうしたらいいんだろ。


 通学路を歩いている今、背後から気配を感じる。


 背筋をビクッとさせ、恐る恐る振り返ってみると、そこには結城芽瑠ゆうき/めるの姿があった。


「おはよう」

「お、おはよう……」


 優は気まずい心境のまま返答を交わした。


 彼女は優斗の隣にやってくる。


 今日も彼女からいい匂いを感じる。が、昨日の件も相まって変な気持ちは変わらない。


 顔向けできない事態に緊張が走る。


 でも、制服から凄く強調するおっぱいが、優斗の気持ちを少しだけリラックスさせてくれた。


「昨日は用事があったんだよね?」

「うん」

「でも、急ぎの用事?」

「そ、そうなんだ。ごめん」

「いいよ。そういう時もあると思うから」


 芽瑠は遠慮がちに言う。

 そんな彼女の表情を見ると、胸元が抉られ、切なくなる。


 嘘をつきたいわけじゃないのに。


「無理はしないでね」

「でも、今日は大丈夫だから。時間を作れると思うから」


 今日だけは絶対に成功させたい。

 何とかしてでも、放課後、学校を後にする口実を作らないといけないと思う。


 念願の恋人なのだ。


 何が何でも街中でデートみたいなことをしたい。


 優斗は意気込む。


「あのね……今日、大丈夫であればだけど、ちょっと寄りたいところがあって」

「どんなところ?」

「それは新しくできたお店があって」

「そうなんだ」


 女の子と普通にデートできるのは嬉しいことだと思う。


 本当に今回は、乗り越えなければいけない山場だと思う。

 彼女のおっぱいと関わるためにも。






「今日は何としてでも、逃れる手段を作らないとな」


 優斗は椅子に座って試行錯誤を交わしていた。


 この方法で通用するかわからないけど、早い段階で自分なりの答えに辿り着くしかない。




「何そんなに悩みこんでいるの?」

「ん?」


 校舎の裏庭。

 昼休み時間帯に、ベンチに座っている優斗に話しかけてきたのは、山村詩織やまむら/しおりだった。


「何か悩み事か?」

「まあ、そうだけど」

「相談にのるけど?」

「じゃあ、聞いてほしいことがあって」


 優斗は承諾する。

 すると、詩織は隣に座った。


「どういう風な悩みなの?」


 幼馴染らしく、親切心をもって聞いてくる。


 彼女との距離が縮めば、その爆乳を強く感じるものだ。


 今は相談にのってもらっているのだ。


 そういう気持ちは……できる限り取り払った方がいいだろう。




「女の子の件なんだけど」

「……そういう話?」

「うん」


 少しだけ、詩織の顔つきが変わった。


「……それで、その子とはどうなったの?」

「まだ、そんなに進展がないというか。それで、色々問題があって」

「へ、へえぇ、色々な、問題ねぇ……」


 詩織は簡単に頷く程度。


「まあ、最初っからは上手くは行かないよね……」


 彼女は何かを悟ったように、再び頷いた。


「でも、今日は絶対に成功させないといけなくて。だから、できれば協力してほしいんだ」

「そうか……どんなことをすればいいの?」

「それは簡単なことなんだけど。詩織って生徒会役員だし、できるとは思うんだけど」

「役員の権限を使えっていうこと」

「そういうことになるね。できないなら、それでいいんだけど」

「内容によってはね。私の判断では全部は決められないから。大事にならない程度の事なら、受け入れられるけどね」

「そうか。じゃあ、俺のクラスに夏理って子がいて。その子と会話してほしいんだ」

「会話? それだけ?」

「うん。何かしら理由でもつけてさ。簡単なやり取りをしてほしいんだ」

「……わかった。簡単な話と言っても、初対面だと、話題が」

「それは、本当になんでもいいよ。あの子は、オカルト部とかに所属しているから。それで、話を繋ぐとか」

「お、オカルト?」


 詩織の表情が一瞬、曇った。


「オカルトか……」


 苦い表情を浮かべた後、軽く了承する姿勢を見せたのだった。






 放課後。

 ここからが重要になってくる。

 一度でも失敗してしまうと、大きな打撃に繋がってしまうだろう。


 優斗は今、真剣に人生と向き合っているようだった。

 今回は絶対に失敗できない。

 だから、主人公の目には輝きがあった。


「本当に決行するんだよね?」

「ああ」


 優斗はそう返答した。


 とある一室で最終確認を行う二人。


 できるとかできないとかじゃない。

 やらないといけないのだ。


「じゃあ、それでいいのね」

「うん。でも、失敗しないように」

「わかってる」


 詩織とは昔からの馴染みであり、ある程度のことはわかっている。

 どちらかが裏切らない限り、この関係は崩れることはないと思う。


「私の方から先に動くから。優斗は私がメールを送ってから動いて」

「わかった。後は、詩織の判断に任せるよ」


 やっと話しに決着がついた。

 あとは行動に移すだけ。


「私、行ってくるから」


 詩織はとある一室から外に出た。


 ここからすべてが始まるのだ。

 詩織なら、何とかなると思う。

 彼女は成績優秀で、剣道も得意なのだ。

 秀逸な判断で、困難をも乗り越えられるだろう。




 数分後、“大丈夫だよ”といったメールが届く。


 大丈夫か。


 胸を撫でおろした時、優斗は椅子から立ち上がる。

 扉の方まで向かい、廊下の左右を確認した。


 誰かがいるというわけではない。

 気配も感じなかった。


 詩織からのOKサインが届いた以上、九九%問題はないと思う。


 迷ってばかりでは何も始まらないのだ。


 優斗は臆することなく、率先して廊下を駆け足で移動する。

 このまま廊下を突っ走って昇降口まで行き、そこから校門までと向かう。

 そこまで到達できれば完璧だ。


 あとは、爆乳彼女の結城芽瑠がいる街中へと辿り着ければ、文句のいいようがないだろう。


「……⁉」


 刹那、気配を感じる。


 嫌な空気感の変化。


 でも、背後を見ても、辺りを見渡しても、特に大きな変化はなかった。


 ……なんだったんだろ。


 優斗は闇のオーラを感じながらも、何もないと判断すると、再び正面を向き、戸惑いながら歩き進めるのだった。

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