8話 剣技大会開幕

「……きて……起きてナツ」 


 誰かが呼んでいる気がしなくもないが、このベッドから出るというのはなかなかに無理な話だ。あと5分は行けるな。うん。


「さっさと起きなさいこのバカ!」


 その声と同時に頭に激痛が走り急に現実に戻される。俺の身体の上にはノアがまたがり、隣ではルーイがこちらを睨んでいる。どうやら俺が起きないから起こしにきてくれたみたいだ。


「お前絶対今その剣で殴っただろ。俺がバカになったらどうすんだよ」


「鞘から抜かなかっただけ感謝しなさい。ほら早く、食事の時間がなくなるわよ」


 そういえば今日から剣技大会だった。流石に、体を動かすのに朝飯を抜くのは俺にはキツすぎるので急いで準備しなくては。


「おぉ、朝から豪華だな」


 食堂に向かうと、テーブルには、朝食がしっかりと用意されていた。ふわふわのオムレツのような物に、サラダ、ロールパンなど沢山ある。ちなみに、ノアは、フルーツが好きというのを昨晩聞いてくれていたらしいこの騎士団のシェフは、しっかりとフルーツの盛り合わせも用意してくれている。


「なんか来る前は、邪険に扱われるかと思ったけど、ちゃんともてなされてるな」


「まぁルイーザ団長直々の推薦だからね、感謝しなさいよ、あなたがきて嫌な思いをしないように、みんなを説得して回ってたんだから」


 確かに明らかな悪意だったり、敵意を向けられたのは副団長様以外ではない。団長には感謝しなくてはいけないな。


「あ、いたいた坊や。今日から試合よね! 私も推薦してるんだからしっかり勝ってくれなきゃダメよ? それに坊やの試合も見たいし」


 優雅で贅沢な食事を楽しんでいると、ルーナさんが話しかけて来た。王位第三位って聞いたけど以外と暇なのかなこの人?


「ルーナさんも試合見に来るんですか?」


「王家の人達はみんな準決勝から見に来るわよ」


「そうなんだ。てかさルールとかってあるの?何にも知らないんだけど」


「え? 招待状と一緒に案内用紙も渡されてるはずよ?」


 ガルフの馬鹿野郎が。どうせ、賞金と酒のことばっか考えて忘れてたな。今回もし勝っても絶対に賞金はやらん、1ロイたりともやらん。(ちなみにこの世界の通貨はロイって言われてる)


「しょうがないからこのルーナお姉様が教えてあげる。この剣技大会ではね、ケガなどをできるだけ避けるために準決勝まで恩恵と武器の使用を禁止してるの。だからそれまでは、大会側が用意した木剣で戦ってもらうことになるわね」


 なるほど、俺のアドバンテージである刀の力も、恩恵も使えないと。しかしまぁ純粋な戦闘力もバカとの訓練で上がっているので大丈夫だろう。


「とりあえず、坊やとルーイちゃんはしっかりと準決勝まで勝ち残ってね、それじゃあまたね」


しかしまぁいざという時の保険として考えていた刀を使えないのほんの少し不安ではある。


「じゃあそろそろ私たちも行きましょうか」





「うおおお、すげー! 屋台とかめっちゃ出てるじゃん!」


会場である闘技場についた俺たちだが、そこはすっかりお祭り騒ぎとなっていた。


「それは年に一度の大会だもの。他の国から商人が来たりもするのよ」


「なんだこの匂い、めっちゃいい匂いがするぞ」


 どこか懐かしい匂いが俺の本能に語りかけてくるのでそれに従い進んでいくと……


「トリカラ?」


 トリカラと書かれた屋台が目の前に現れる。


「どうだい、兄ちゃん、出来たてのトリカラ食べてくかい?」


 トリカラ、そうどこからどう見てもあれだ。日本男子に聞けば3人のうち3人は好きと答える鳥の唐揚げ。それが俺の目の前にある。


「トリカラじゃない。私も好きなのよねこれ。確かキバザの国の料理だったかしら」


「おうよ、キバザの英雄アオが作り上げた、至極の料理さ」


「英雄アオ?」


「おう、昔ナーゼル教がキバザを攻め落とそうとしたことがあってな。その時にキバザを救ってくれたのが英雄アオっていう人なんだ。彼は戦闘だけでなく商人としても一流でな、こういう料理だったりを作り上げたすごい人なんだぜ」


 偶然だろうか? 確かに鶏の唐揚げぐらいならこの世界の人が思いついても不思議じゃない。そもそもこの世界の料理は元の世界と似てる物が多い。しかしトリカラという名前をつけるだろうか?うーーん………


「ほらトリカラは後にして、試合そろそろ始まるわよあなた」


 少しどころがかなり引っかかるが今考えても答えは出ないので一度置いとくことにする。


「せいぜい頑張りなさいよ」


「ナツ頑張って」


 二人に送られ俺は会場に入る。一度待合室的なところに連れてかれたが、すぐに呼ばれ、ステージに連れてかれる。


「すげー人の数だな」


 よくある闘技場って感じだ。俺らを囲むように観客席が用意されてたくさんの人が俺らにヤジを送っている。


「なんだガキじゃねぇか」


 どうやら彼が俺の対戦相手らしい。身体はガッチリとしていて背丈もあるスキンヘッドのおじさんだ。どこかドーゴンさんに似ている。


「それでは商人マーティン対遊び人ナツの試合を始めます。試合の勝敗は審判が決定致しますので、やめの合図がかかったらすぐに止まってください。それでは両者構えて……試合開始!」


「遊び人ナツかぁ」


「よそ見とは、気楽だな!」


 そう言いながらマーティンという男は突っ込んできた。体格差的に、鍔迫り合いになったら不利そうなので、躱すことにする。実践での戦いというのは駆け引きだ。素人はそれをしてこないので躱しやすい。まぁ俺もちょっと前まで素人だったけど。

 どうやら全体重一撃に乗せたらしく、相手は耐性を崩したので、スネに一撃お見舞いする。


「ぐっ!生意気なガキがぁ!」


転ぶと思ったが振り向き、木剣を横薙ぎに振ってくるので、しゃがんで回避。そして――


「小手ぇ!」


 手首への痛みに耐えきれず相手は木剣を落とす。ちなみに剣道はやったことがない。


「そこまで。勝者、遊び人ナツ!」


「うおおおいいぞガキーやるなー!」「遊び人のくせしてやるじゃねぇか!」


 観客からの歓声を聞きながら俺はステージを後にする。




「剣士とかにしてくれないのあれ?」


会場を後にするとナツとルーイがトリカラをつまみながら待っていた。


「無理ね。私がそれで登録しといたから」


「ナツどんまい。これあげる」


「お前のせいかよ……うまこれ、俺も買ってこよ」


その後ルーイも試合があったが難なく勝っていた。まぁ相手の木剣を折るのは流石の俺もビビったが。





「なんとかお互い準決までは来れたな」


「運がいいわね。あなたの相手みんな素人だったじゃないの」


 そう言われると、反論したくなるがまぁ確かに剣の腕はみんな素人だったので、運が良いというのもあるだろう。まぁ運も実力のうちっていうし。


「準決勝の相手は……げっ」


 アバルテン・サーズ。どうやら俺の準決勝の相手は、あの副団長様らしい。


 

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