9話 金剛の誇り

「あいつってどんな恩恵使ってくるとか分かります?」


 大会1日目を終えた俺たちは騎士団に戻り夕飯を食べていた。神様のいたずらかまぁって言っても三分の一の確率で当たるんだけど、俺はあの副団長様と準決勝で当たることになってしまった。


「あいつの恩恵? 簡単に言えば石かしら」


 準決勝からは武器と恩恵の利用を許可されているので俺の戦闘力はかなり上がるだろうが、相手は騎士団副団長。

簡単には勝てるという相手ではないだろう。


「石? 石化的な? それとも飛ばしてくる?」


「だいたいそんな感じだけど、石というより結晶、宝石?みたいな感じかしら。兄さんは剣や腕などを結晶化させて戦うの。ちなみに本人曰く、自分の結晶は何よりも硬く強いらしいわ」


「攻守便利そうで良いなその恩恵」


 体や武器の一部を石化やら結晶化出来るというなら、簡単な鎧を作ることもできるのだろう。だから他の人より若干軽装だったのか。硬さというより強度面では、俺の恩恵はまだまだの所がある。


「やりずらそうだなぁ」


「あんな奴に負けたら許さないからね!死ぬ気でやりなさい!」


 そんなこと言われたって相手は副団長である。それに対して俺はただの遊び人。普通に考えれば勝てないだろう。まぁしかし俺としてもあいつに負けるのは屈辱的なので、頑張ってみるか。


 翌日、会場で準決勝前に、国王様からお言葉をもらうという、まぁなんとも面倒くさそうな、じゃないありがたい式があるというので俺とルーイは会場内のステージに来ていた。


「なんとか、勝ち進んだみたいだね。おめでとう」


「そりゃどうも」


 なかなか国王が来ないので暇になったのか副団長様がわざわざ話しかけに来てくれた。しかしこう、若干イライラする喋り方だ。


「しかしまぁ運がなかったねぇ、準決勝の相手が私で。まだ出来損ないの妹の方がマシだったろうに」


「あんたこそ、こんな遊び人に負けたら面子丸潰れじゃないっすか」


「面白いことを言うねぇ、まぁ君は負けた時の言い訳を考えておくと良いさ」


 なるほどこんなのが兄ならまぁ確かにあんな攻撃的な妹が誕生するわけだ。


「いてぇ!」


「馬鹿にされた気がしたわ」



国王様からのありがたいお言葉を頂いた後、すぐに準決勝が始まった。最初はルーイの試合からだったが、元傭兵だと言う大男相手に、圧勝していた。


「おい小僧、応援しに来てやったぞ」


「ナツ緊張してる?」


 昨日は一度も顔を見せなかったガルフとすっかりトリカラのファンになってしまったノアが応援しに来てくれた。


「相手は副団長様だってな、どれだけぼこぼこにされるか楽しみにしとくよ。まぁせいぜい頑張れよ」


 応援じゃなくて冷やかしだった。




ステージに立つと昨日より多くの人が観戦に来てくれてることが分かる。


「ガキ、期待してるぞ!」


「せいぜい頑張れよ!」


「サーズ様ー!頑張ってー!」


 沢山の歓声が聞こえてくるが、明らかにサーズを応援する女性の声援が多い。負けられない戦いになったな。


「怪我をさせてしまったらすまないね」


「言ってろ」


「それでは、騎士団代表副団長サーズ対遊び人ナツの試合を始めます。それでは両者構えて………試合開始!」


サーズの武器はとても細いレイピアだった。なんだもっと宝石ギラギラの剣が出てくるかと思ってたのに。


「来ないのかい? それなら僕から行くよ!」


 そう言うとサーズは空に突きを放つ。しかし俺とサーズの間には俺の刀三本分ぐらいの距離があるが……


「っぶね!」


 突き出されたレイピアから結晶が凄い勢いでこちらに迫って来た。なんとか躱したが、なるほどこれが結晶化か。


 このままやらせておくわけにもいかない。俺は攻撃を躱しすぐに地面を蹴り、間合いを詰める。


「ほう、なかなかのスピードだね。昨日は手を抜いていたのかい?」


 なんとか鍔迫り合いに持ち込んだが、刀の力を借りている今の俺でも押し切ることができない。


「剣に意識が行き過ぎだよ」


 その瞬間右脇腹に激痛が走る。結晶化したサーズの腕の一撃をもろに喰らってしまった。


「まだまだ行くよ!」

 

 そう言うと今度は右足から蹴りが飛んでくる。防ごうとすると、別の方から攻撃が。どうやら相手の方がスピードが高いらしい。


「なら……!」


 俺は一度サーズから距離を取り、手を少し刀で切る。すると少しばかりの血が出てくる。が俺は、ここからさらに血を出すイメージをする。すると小さな傷口からそれなりの量の血が出てくる。

 そう俺はあの戦いから、出す血の量をコントロールできるようになっていた。まぁもちろん傷口は必要だし、出し過ぎると貧血を起こすが。

 俺はこれを薄い膜をイメージし体の周りに浮かばせる。


「ほう、これが血の恩恵とやらなのかい? まぁ随分と不気味な力だ」


 そういうと先ほどと同じように突き攻撃をしてくる。それを回避すると、いつのまにか間合い詰めていたサーズの蹴りと拳がほぼ同時に飛んでくる。が今回はそれを防ぎ切ることに成功する。


「ほう、どんな小細工だ」


 俺は先ほど作った血の膜から意識を離していない。こうすることによって、相手が血の膜を破ると、目で確認せずとも、感覚で攻撃の方向がわかるという、いわばこれは防御技である。

 きっとまだこいつは俺を舐めている。叩くなら今。

俺は相手に向かい刀を振り下ろす。すると相手は後ろに飛びそれを回避しようとする。

 かかった。俺は先ほどまで膜に使っていた血を今度は刀に纏わせるイメージをし、斬撃を飛ばす。


「くっ!」


 空中で身動きの取れないサーズはそれを細剣で、受け止めようとする。

 が、俺は飛ばした斬撃をあたる手前でロープのようなものに変えるようイメージする。そして相手の細剣もろとも両手を縛り上げる。血の量的に、強度はそこまでないので、このうちに間合いを詰めなければ。


「このガキがぁ!」


 すぐに血の縄を解き、反撃に出ようとするサーズだが、一歩遅い。すでに俺の刀はサーズの首に触れている。


「そこまで!勝者は………遊び人ナツ!」





「戦いではなんでも利用しろ、相手の慢心も力の差もだ」


 まさかガルフの言うことが役に立つなんてなたまには、やるじゃないかあいつ。


「良くやったぞーガキー」


「このまま優勝かぁ!?」


 血の恩恵を見せたらみんなに引かれるかと思ったが、祭り騒ぎのお陰でテンションが高くなっているからかみんな気にしてないようで良かった。変に騒がれても面倒くさい。




「ナツすごい!かっこよかった!」


「俺の教え方が天才すぎるのか」


 会場を出ると二人とルーイが出迎えてくれる。


「まぁ今回に関してはよくやったわ。まぁどっちが来ても私が勝つからどうでよかったのだけれど」


 まぁルーイにしては、素直な方だろう。まぁもう少し普通に褒めても良いと思うけどね!てかなんならちゃんと褒めてんのノアだけじゃね?

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