4話 ナーゼル教
訓練開始から数週間が経った。ガルフの訓練は荒く、雑な教え方だったが、不思議と身に入ってきた。おかげで俺の身体能力や恩恵の扱い方はかなり上昇した。たまにノアも手伝いに来てくれることもあった。傷を舐めようとするのは、本当にやめてほしいが。
「おい小僧、小遣い稼ぎするぞ」
この男は本当に色々と急すぎる。せっかくこちらが、訓練がないというから、優雅な休日を過ごそうとしているのに、何を言い出しているんだ。
「いやだ、今日は日頃の傷を、お前につけられた傷をゆっくり癒すんだ」
「それはお前がなかなか成長しないからだろうが」
訓練を通じて分かったが、このガルフとかいう男かなり強い。俺はまだ一度もガルフに一撃を当てたことがない。
「お前、誰のおかげでここに住めてんだぁおい」
「ドーゴンさん」
「俺が紹介したからだろうが、くそガキ。それにお前もそろそろ金の稼ぎ方を覚えてもいいだろ」
まぁ確かにいつまでも働かずに生活するのはいささか罪悪感がある。しかしこの男、金を稼ぐ方法など知っているのか?
「何すればいいんだよ」
「よしよし、素直でよろしい。まぁ簡単にいうと賞金首狩りだな」
「賞金首?」
「最近この辺で人が殺されてんのは知ってるか?」
「ああ、あの女性ばかりが殺されてるってやつか」
最近この辺で連続殺人事件が起きてるって話は、酒場に来てる人達が、話していた。どうやらその犯人は、夜に女性ばかりを狙っていてまだ捕まっていないらしい。
「どうやら、騎士団もなかなか足を掴めてないらしくてな。今朝、指名手配書が張り出されてた。それがいい額なんだよ。だからそいつを俺達で捕まえるぞ、小僧」
そんなこんなで俺達は、連続殺人犯を捕まえることになった。そのための手掛かりを集めるためにとりあえず二手に分かれることにした。
「って言ってもどうすっかなー」
事件の捜査なんてしたことがないので何をすればいいか分からない。まぁでも立ってても何も進まないので、とりあえず、事件があったっていう現場に行ってみることにした。
「あっあんた、生きてたの」
現場に着くと、この世界で初めに会った騎士見習いがいた。
「いや、まぁ何とか。あんたはこんなとこで何してんの?」
「何してんのって、騎士団として事件について調べてんのよ。あんたこそこんなとこで何してんの」
「いやまぁ、小遣い稼ぎ?」
「小遣い稼ぎ? まぁいいわ、ちょっとあんた顔貸しなさい」
「いやだから、小遣い稼ぎしないといけないって、おい」
そんな俺の言葉を無視してルーイは俺の腕を引っ張っていく。どうやら、俺の意見は、聞いてくれないらしい。
ルーイと俺は街の外れの小さな食堂に来ていた、てか、連れてこられた
「ほら好きなもの頼んでいいから」
騎士見習いと言っても女性に奢らせるのはなどという考えが浮かばないわけではなかったが、騎士見習いと遊び人では騎士見習いの方が儲けてそうなのでお言葉に甘えることにする。
「じゃあこの二頭鳥のグリルを」
「私は、ベリーティーを」
「で、こんなとこに来て、なんか話でも?」
「まぁそれは食事をしてからでもいいでしょう」
何だか怪しいがとりあえず出てきた料理をいただくことにする。二頭鳥という鳥の肉に甘辛いタレがかかった簡単な料理だが、タレが自家製かなんかなのか、なかなかに美味しい。
「ドーゴンさんの料理も美味いがここのも美味しいな」
「そりゃ私の行きつけのお店だもの。それよりあなた、それ食べたわね?」
「え? 食べたけど……?」
「じゃあ協力してくれるわね? まさか、恩を返さないほどクズな人間じゃないわよね?」
やられた。こいつ俺の男子高校生としての食欲を利用しやがった。
「お前のやってることも相当だぞ騎士様」
「まんまと引っかかるあなたが単純すぎるのがいけないのよ」
「協力って? 何すればいいんだ?」
「別に近くにいてくれるだけでいいの。最近、女性が襲われてるのは知っているわね? 犯人は女性しか狙わない、だから私が囮となって引き寄せるの。でも剣を持っていたら、騎士って分かって犯人も来ないかもしれないでしょ。だからあなたには、近くで隠れて私の剣を持っていてくれたらいいの。で犯人が来たら私が切るから剣を渡すだけでいいわ」
「そんなん騎士団の人にお願いすればいいじゃんか」
「騎士団の人はみんな私を危険に晒すなんてできないって、私が王家の娘だからって……とりあえずあなたしかいないのまぁ、選択権なんて元からないのだけど」
ここに至るまでの方法に少し物申したいが、まぁ目的は一緒らしいのでまぁいいか。
「まぁ協力してやるよ。でも懸賞金は俺がもらういいな?」
「あなた、貧乏なの?」
ということで夕方にまた合流する約束をして、俺は一度宿に戻った。ガルフはまだ戻ってきてないらしい。
「ナツ、どこ行ってたの?」
「いやちょっとそこらへん散歩してただけだよ」
「怪しい」
ガルフと話してノアは今回のことについて教えないことにしている。一応今回の事件は女性が狙われてるためノアには関わらせないと決めたのだ。本当のことを言うと、ノアなら、賞金首を殺しかねないからだが。
「今日、ちょっとガルフと夜に訓練するから一緒に夕食を食べれないから、一人で食べてくれる?」
「むぅ、わかった。でもナツ今度、ノアとも訓練する」
「分かったけど、手加減してね? 俺の血で遊ばないからね?」
夕方、俺はルーイと一緒路地裏に来ていた。
「本当にこんなんに引っ掛かるかね」
「いいから、あなたはそこの木箱に隠れてて」
「いやあれゴミ入れるやつやん」
俺はゴミを入れる木箱に隠れる。中にゴミが入ってないのはルーイの優しさか。なら他の箱なり樽を用意してもいいのでは?
日も暮れてしばらく経った。夕食は後で食べればいいと思っていたが、こんだけ時間が掛かるなら先に食べておけばよかった。
「お姉さん、こんな遅くに何をしているの?」
「おいおい、本当に来たよ」
「あなた、何ですか……? こっちに来ないで!」
演技上手いなこいつ。じゃないここからが俺の出番だ。俺はルーイの剣を持って木箱を飛び出す。そして盛大にヘッドスライディング。
「足が…足が…痺れて……」
「何してるのあなた……早く剣をちょうだい、全くもう」
「な、なんだ、誰だお前!」
そういうと男はナイフを取り出す。なんとも不気味な装飾のナイフだ。
「あなた、ナーゼル教徒だったのね…!」
ナーゼル? 教徒? どういうことだ?
「ナーゼル教徒って?」
「ナーゼル教徒っていうのはナーゼルを信仰するナーゼル教の人のこと。そして彼らはみんなあの黒いナイフを持っているの」
「悪の組織か何かなの?」
「そりゃあの陰の神ナーゼルを信仰しているのよ、頭のおかしい人しかいないわ。平気で人を殺すような人しかいない集団よ。」
「うるさい!ナーゼル様は私に力をくれた。このナイフが私を強くする!クソ女が殺してやる!」
そういうと男はこちらに走ってきた。というかルーイに向かって走っていた。しかしルーイはそれをかわすと剣を鞘に入れたまま、男のスネを打ち抜く。
男苦しそうな声を上げながら倒れるのですかさず、俺が持っていたロープで縛り上げる。
「捕まえたぞ、賞金首」
「あなたほとんど何もしてないでしょ……」
俺だって戦おうと思えば戦えるぐらいにはなっているのだが、その必要が今回はなかっただけである。
「それじゃあ早くそいつを騎士団に連れて行って……」
「おやおや、乱暴はいけませんよあなた達」
「あなた誰……?」
「私めはナーゼル教第五位信徒 ブル、と申します」
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