5話 刀と血

「ブル様お助けください! 此奴ら俺を騙して……!」


「おやおや、それは可哀想に。しかしあなたも気をつけなければいけませんよぉ。私が、ここに居るのは単なる偶然なのですからぁ。しかし導きともいえるでしょぉ」


 黒のローブに紫色の頭をした男はそう言いながらこちらを見て微笑んでいる。


「なに? あなた仲間を助けに来たのかしら?」


「えぇ、可愛い子羊を助けるのも私、第五位信徒の役目ですからぁ。」

 

 とりあえず、話を聞いていて分かったが、こいつ頭が少しおかしい。まるで、何かにずっと酔っているような。


「あなたがナーゼル教の何なのかは知らないけど、ナーゼル教徒だというならあなたも捕まえるわ。痛い思いをしたくないなら動かない方が……わぁ!」


 俺はルーイを突き飛ばした。後ろから鎖のようなものがルーイに向けて飛んできていたのだ。それは壁にぶつかると、深く壁に突き刺さった。


「おやおや、当たりませんでしたかぁ。あまり抵抗はしてほしくないんですよねぇ、私も、出来れば痛み少なく、殺して差し上げたいのですぅ」


 これには、流石にルーイも驚いているようだ。そしてこちらを見て……


「もっと優しく助けなさいよね」


「お前、友達にないだろ絶対」


 とりあえずあちらは、大人しく捕まってくれるようなタイプではなさそうだ。ルーイと俺はそれぞれ剣と刀を構える。


「あなた、足引っ張らないでよね」


「お前を助けたばっかだが?」


「ナーゼル様見ていてくださいませぇ、私めが今から、愚かな人間に報いを受けさせますからぁ」


 それと同時にブルから数本の鎖が飛び出てくる。先ほどより速い……! しかし俺は何とか刀でそれを弾く。どうやら訓練はしっかりと意味をなしていたらしい。


「間合いが詰めれねぇ……!」


 おそらくブルの恩恵はこの鎖だろう。ルーイの恩恵は近接特化だと思うのでこの中距離戦は分が悪い。


「いてーけど、やるしかないか……」



 ガルフとの訓練で恩恵について分かったことがいくつかある。まず今は怪我をしないと血を出せないということ。

 そしてこの血で攻撃をするのは難しいということ。血で斬撃や弾丸を作り出せるのでは? と思ったがそれはどうやら俺にはまだ早いらしく、できてBB弾程度の威力の弾を飛ばしたりできる程度だ。それと血の強度は血の量によって決まる。血の盾的なことをしようとするにはそれなりの血液が必要となる。

 とまぁ今のところ戦闘において使い道がなさそうな恩恵だが、一つだけ有用な使い方がある。


「いっってぇぇ」


 俺は刀の刀身を握り締めて手のひらを刀で斬りつけた。そして刀に付いた血を刀身に纏わせるようにイメージする。そして、その刀で空を斬りつけた。


 すると俺の血は血の刃となり、相手に飛んでいく。


そう、この刀に血を付着させることで、刀の属性を血に付与できるのだ。


「ぐあぁぁ」


 俺の血の斬撃は相手も読めなかったらしく、肩に命中していた。


「今だ!」


 掛け声よりも速く間合いを詰めていたルーイが相手に斬りかかる。その剣身が燃え出し――


 ルーイの背後から何か迫っている。炎に照らされ、それがはっきり見えた。


「ルーイ後ろ!」


 その声に、ルーイは驚いた様に背後を見た。寸前で気づいたことで何とか背後から迫る鎖を弾く。が、無理矢理、後ろの鎖を処理したことで、体勢を崩してしまう。数本の鎖がルーイに襲いかかる。


 俺は刀を握りしめ地面を蹴った。そしてルーイと鎖の間に入りそれを受け止めようとする。が、今まで二人に向いていた鎖を、一人で対処しきれず――




「いっっ……!!」




 左腕をもがれた。声にならない。痛い、いたいいたい…?


「おぉ、可哀想な人間よぉ。今楽にさせてあげますからねぇ」


「ナツ危ない! 避けて!」


 ルーイが叫んでいる。まさか初めての戦闘で腕が飛ぶとは。しかし痛すぎるからか、意外と冷静でいられる。死の間際に人は絶望すると聞いていたが、どうやら俺はそんなことないらしい。


「出血が多いな……」



 俺はドーム状の盾をイメージする。すると、傷口から出ている血、とれた腕から出ている血が俺とルーイを囲む様にドーム状の盾を作り上げる。


「あなた、その力はぁ、血の恩恵ではないですかぁ……!     あなたは選ばれし者なんですねぇ……! ならば早くナーゼル様に捧げねばぁ!!」


 俺は今度、盾に使った血を刀に纏わせるイメージをする。

そして先ほどと同じように血の斬撃を飛ばす。しかし今回は血の量が多いおかげで、先程より多くの刃を作ることに成功する。


「二度も当たりませんよぉ」


 それは今度は相手に当たることはなかった。



 もう少しか……そろそろ来てもいいだろうが。


「次こそ、殺してあげますからねぇ」


 鎖がこちらに向かってくる。ルーイが俺の前に立とうとする。が、俺はルーイを突き飛ばした。いくら騎士様でも、この鎖の数は処理できないだろう。


 鎖が俺の身体を貫く………ことはなかった。


「やっとかよ」


「ノアがナツの血の匂いするって言うから先に来てみりゃ、小僧、酷くやられてんなぁガハハ!」


「ガハハじゃねぇよ、腕ねーんだよこっちは」


「まぁ後は任せろ」


 いつも訓練の後ノアは俺の血で遊ぶのが好きだった。おかげで血の匂いも覚えたらしい。遠いから無理かと思ったが獣人の鼻恐るべし。


「誰ですかぁあなた、お仲間さんでしょうかぁ。それならば殺して差し上げますよぉ」


 そういうと、ブルは鎖を出してきた。が、ガルフはそれをとてつもない速度で切っていく。てか見えない。


「生捕りの方がいいかね」


 そういうとあっという間に間合いを詰めたガルフがブルの腕を切り落とし、地面に叩きつけ、鎖で縛り上げた。


「これは小僧の分だ」


 なるほど、かなり強いと思っていたが、かなりじゃなくてめちゃくちゃ強いらしい。


「ナツ!」


 どうやらノアも心配してきてくれたらしい。がノアが二重に見える。


「ちょっと血出しすぎ………たかも……」


「ナツ!!ナツ!!」


「早く、ルーナ様のとこに連れてかなきゃ」


 騒ぐルーイとノアを見ながら俺は気を失った。

 

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