3話 血の恩恵
「おーい小僧、生きてるかー?」
誰かがドアをどんどん叩いている。今日は休日のはずだが。
「おーい、早く出てこいー扉、蹴破るぞー」
そうだった、俺は異世界に来たのだった。で、ガルフとかいう男に拾われたんだった。んでそのガルフが今、そこに来てるらしい。あの男なら本当に扉を蹴破りそうなので急いで扉を開けた。
「おいおい、遊び人の朝は早いんだからしっかりしろよ?」
「俺、まだ遊び人やるなんて言ってないが? で、何の用?」
「遊び人ってのはな、金稼ぐために、時に魔物とかと戦わなきゃいけねぇ時がある。だから、小僧がどんだけ戦えるか俺が見てやるよ。それにお前の恩恵ってのも気になるしな」
「そっちが本音だろ」
でも確かに、俺も血の恩恵については、知っておいた方がいいだろう。それにこの世界に来た時の持っていた刀についても、分からないことだらけだ。
ということで俺達は、食事を済ませて、街の外に行くことになった。街の外ということは魔物かなんかと戦えばいいのだろうか?
「ナツ達、遅い」
森の中の開けた場所についたのだが、そこには獣人の少女ノアがいた。どうやら俺らを待っていたらしい。
「わりぃわりぃ小僧が食うのおせぇんだよ」
「ノアまだご飯食べてない。ずるい」
「あのーなんでノアさんがいるんです?」
「そりゃお前、小僧の相手をしてもらうためだが」
なるほど、俺はこの少女とこれから戦うらしい。いや、流石に、女性に手を挙げるのはちょっと俺でも躊躇ってしまうが。
「いやー流石に女性相手はやりずらいかも」
「ノア強い。大丈夫」
「ああノアはその辺の騎士とかより強いから安心しろ。小僧は全力で戦えよ? お前の実力を見るためにこんな朝早くから動いてんだからな」
ここで俺はあることに気づく。喧嘩の経験がゼロだ。体は普段のランニングや筋トレでその辺の運動部ぐらいは鍛えているが、喧嘩なんぞしたことがない。
「ほれ、剣?みたいなの持ってんだから記憶がなくても剣の扱いぐらい体が覚えてんだろ。それとも、女には剣は向けれねぇってか?」
「ノアは大丈夫。ナツ剣で来て」
刀なんぞ使ったことないが? でもとりあえず、場の雰囲気的に抜いた方が話が進みそうなので一旦抜いてみることにした。
思ったより軽い。いや刀だけじゃない。体が軽い。この刀を抜いた瞬間、体が軽くなった。
「ナツいつでもいい。好きな時に来て」
俺は頷き、刀を構え、地面を蹴った。速い。自分の体とは思えないほどの速さでノアとの間合いを詰めていく。そして刀を振り下ろす。流石に切ってしまったら怖いので峰打ちだが、刀はかなりの速度でノアに迫った、ノアも流石にここまで俺が動けるとは思わず驚いた顔をしている。しかし刀がノアに当たることはなかった。
「ナツ速い。交わすのギリギリだった」
「なんだ小僧意外と動けるじゃねぇか」
なるほど、伊達に一緒にこの世界に来てる訳じゃないらしい。この刀は俺の身体能力を飛躍的に強化してくれるようだ。だがどうしてこんなものを持っているのだろうか。
「だが小僧、構え方、体の使い方がまだまだだな。しょうがないから、それは俺が教えてやる。じゃあ次は恩恵について調べるか」
ガルフがとても戦えるようには見えないが大丈夫だろうか。
「調べるってどうやって調べんの?」
「その剣、ちょっと借りるぞ」
刀を持ったガルフは俺に近づき……刀を振り下ろしてきた!
「うわっ! あぶねぇ! てか掠った!」
痛くはないが、刀が腕に掠ったので少し血が出て来てしまってる。
「小僧その血操れるじゃないか?」
「血を操る?」
「その血を動かすイメージをしてみろ」
よく分からないが言われた通りにかすり傷から出てきている血に意識を集中すると……
「動いた……」
血が思った通りに動いた。円を想像すれば血が円を作る。
思った通りに扱える。
「やっぱりな。ナーゼルは自らの血を扱い戦ったと言われてる。小僧のその血の恩恵ってのは自分の血を自由に扱えるようだな」
「えぇ……ケガしないと使えなくない?……」
「まぁそれはお前次第だな。恩恵ってのは進化するもんだ。本人の成長によって恩恵も成長する。お前の恩恵も進化すれば、ケガせずに血を出せたりできるようになるんじゃないか? それに覚醒したら、ナーゼルのようにもなるかもな」
「ナツ大丈夫痛くない? 傷、手当てしないと」
そういうとノアは傷を舐めてこようとしてきた。いや、あまりよろしくない。男子高校生的にそれは少しよろしくない。
「大丈夫だから、ノアさん気にしないで。後、近いかも」
「ノアでいい。ノア、ナツ嫌いじゃないから大丈夫」
俺が大丈夫じゃないんだが。
「まぁとりあえず、しばらくは、小僧は訓練とその恩恵に慣れるってとこだな。よし、ドーゴンとこ戻るぞ」
恩恵になれるって、毎回血を出す必要があるのか?
「痛いのはやだな……」
「怪我したらノアが治す。安心して訓練して」
なんか楽しそうなノアの横で俺は、深くため息をつくのであった。
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