2話 英雄ルート? 遊び人ルート?

「なんだその顔、まるで何が起きたか分からねぇって感じだな」


目の下にクマがあり、右手には酒、上下黒のよれよれとした服を着た、無精髭のおっさんが、こっちをニヤニヤしながら見てきている。


「いや、実際何が起きたか全く分かんないんだが」


恩恵を調べてもらったと思ったら、有無も言わせずここに放り出された。 


「ナーゼル……って言ってたな……」


「なんだ? 陰の神がどうかしたか?」


「いや、俺がナーゼルと同じ血の恩恵? ってみんなが騒ぎ出して……って おっさん誰なの?」


「ああ、俺はガルフ。この街で遊び人として生きてる男だ。ところでお前、血の恩恵って言われたのか?」


「そうなんだよ、そしたら外に放り出されて」


「てかなんで小僧、その歳で恩恵なんて調べたんだ?」


見るからにだめオヤジのオーラが出ているガルフだが、悪い人では無さそう(多分)なのでガルフに今までの経緯を話すことにした。


「なるほどな、記憶がねぇなら、分からないでも無理はないわな。いいか小僧、お前のその血の恩恵ってのはな、陰の神ナーゼルが得意とした力って言われてんだ。だからお前はナーゼルと同じ力を持ったものとして王都を追放されたんだ。ここまでで質問あるか?」


「その、ナーゼルってなんでそんな嫌われてんの?」


「まぁ簡単に言うとナーゼルは人間嫌いの神様って言われてるからだな」


どうやら俺は、悪者の神様と同じ力を持ってるから外に出されたらしい。俺は悪者としてここに召喚されたのか? よく分からない。


「まぁ、王都の連中は恩恵に拘るからな、不運だったな。とりあえず、記憶がねぇんだったら、俺たちの酒場に来な。腹も減ってんだろ。」


色々起きて忘れていたが、夕飯前のランニング中にここに召喚されてるせいで確かに腹がめちゃくちゃ減っている。


「他に行くあてもないしな……」


とりあえず、食事にありつけそうなので、俺はガルフについて行くことにした。




ガルフが連れてきてくれた酒場に入ると、中には数人の人がいた。


「どうだ、ドーゴン儲かってるかー?」


「なんだガルフか、酒もう切れたのか?」


どうやらあの褐色の肌のでかい男がこの酒場の店主らしい。


「ちと面白いガキを拾ってな、腹減ってるみたいだから、なんか飯作ってやってくれ」


「はいよ、ちょっと待ってな兄ちゃん」


しばらくすると、というか、ものの数分で、ピラフのようなものが出てきた。


「うまっ!!」


「だろ、ドーゴンの飯はこの辺じゃ一番だ」


「そこは世界一だろが」


「二人とも仲良いんだな」


「まぁ腐れ縁だな、というか小僧、まだ名前を聞いてなかったな」


「そうだっけ、俺の名前はナツ。カンザキ ナツ」


「パッとしねえ顔のくせに、いい名前だな小僧」


パッとしないは余計だろうが。このパッとしない顔のせいで俺は、青春を謳歌出来なかったと言っても過言ではない。まぁ他にも問題はあるだろが。


「ナツ、面白い匂いする」


「いや近っ!」


気づいたら、一人の少女が俺のすぐ横まで来てすんすんと匂いを嗅いでいる。


その少女は俺より少し低い背丈で、青白い目、目と似た色の長い髪、そして何より俺を驚かせたのが、


「耳……ケモ耳だ……」


「なんだ獣人についても忘れてんのか小僧。そいつは、ノア。普通獣人は恩恵を貰えねぇって言われてるがそいつはちょっと特別でな、訳あって俺たちと同じ遊び人してんだ」


どうやらこの世界には魔物だけじゃなく獣人もしっかりいるらしい。


「その遊び人ってのはなんなの?」


「遊び人ってのはなー、何にも縛られず、自由に生きてく、誇り高い人々をさす言葉だ」


なるほど、いうなれば浪人ってことか。しかしこれはどうやら俺は、英雄ルートではなく、遊び人ルートへと進んでいる気がする。


「ノアはガルフと違う。ナツ大丈夫。ガルフがだめだめなだけ」


良かった。俺は遊び人ルートと言ってもガルフルートって訳ではなさそうだ。


「兄ちゃん、これからどうすんだい。行くあてもないんだろ。」


「それなら小僧、隣の宿に泊まりな、なに心配はいらねぇよ。お代はとらねぇから、な! ドーゴン!」


「おいおい、ノアの時もそうだが、連れてくるなら責任取れよなお前」


どうやら、隣の宿もドーゴンさんが経営してるらしく、俺はそこで寝泊まりさせてもらえることになった。急に異世界にきて、王都を追放され、どうなるかと思ったが、なんとか泥水をすすり、野宿することにはならなくて済んだ。


「まぁひとまず、最悪の状況って訳じゃないよな……」


そうして俺は安心したからか、深い眠りについた。

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