第39話 断罪!悪の宮廷魔術師

暴風に巻き上げられ、雲の上まで上がったナースが

ドラゴンと共に地面に叩きつけられる


「ぐべああっ!」

全身に風の傷を作り、ボロボロのナースは、それでも死んではいない


「い、生きてる…?なぜですの?!」

「『峰打ち(ストップ トゥ ヘル)』のスキルだよ!

 HP1残して、死亡させずに無力化する!」

「そ、そんなの取ってましたっけ…?」

「麗ちゃん、催眠魔法を!」

「わ、わかりましたわ!」

麗ちゃんがシャドウを呼び出し、今度こそナースの中へ浸透させる

これでようやく、決着がつく…


「さて、色々喋ってもらおうか」

「ぐ、ぐはっ…あ、ありえない…!

 俺を倒すためだけに、一体どれだけのスキルポイントを使った…?!」

これだけ次々とスキルを使われたら、そりゃ疑問も湧くだろう


「35ポイント」

「…は?」

「35ポイント全部だよ」

「な、なぜそんなにスキルポイントが余ってる?!」

「さあ、どうしてかな…?ひょっとして、お前を倒す運命だったのかもね」


……麗ちゃんが言っていた事を思い出す

この大量のスキルポイントは、あたしの未来の可能性だったんじゃないか、って



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「…生徒会長様のスキルを確認した時、スキルポイントは

 わたくしと同じ8ポイントしか残ってなかったですわ」


「へぇ…普通はそんなにスキルポイント残ってないんだ

 あたしは何で35ポイントも…」


「みなさん、生活に便利なスキルを取りますわ

 この世界でも、自然と鍛錬した何かに

 スキルポイントが割り振られるのでしょう」


「…思うに美遊様は、成長期にご病気をされたせいで

 スキルポイントがゲーム以外に使われていなかったのではないかと」


「健康になり中学に上がり

 これから才能を伸ばすために使われるはずだったスキルポイントを

 わたくしのために…」


「いやいや、気にすることないよ!

 ゲーマーとして、ゲームのスキルを覚えれるなんて感激だよ!

 むしろ感謝するくらいだよ!」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「さて…この世界で何を企んでたか、話してもらおうかな?」

「誰がお前らなどに…!」

「『話しなさい』」

「ぐ、ぐうっ…!くそ、口が勝手に…!」

もはやお前に黙秘権は無い!


「邪魔者のいないこの世界で、現地人共を使い転生術を研究

 力を再び集め存在を高め、俺たちの世界に戻る

 …そして俺の邪魔をしたプリンセスどもに、復讐する…!」

…具体的なプランは無かったようだけど…思想が危険すぎる


「転生術の外道な使い方以外で、元の世界に戻る方法は無いんですの?」

「無い…そもそも、この世界に転生すること自体が稀なのだ」

「…まあ、しょうがないですわね」

麗ちゃんには、もう向こうで気がかりだったことはほとんどない…

親は亡くなって、親友は無事と分かり、仇は今ここにいる


「さて…もう、よろしいですわよね?

 わたくし、この時をずっと待ちわびていましたの…ずっと…ずっと……!」

暗い憎悪をむき出しにした麗ちゃんは

自分のカバンから包丁を取り出し、ナースに向ける


「ひ…ひいいいいいい?!」

無力な自分に殺意を向けられるのが、いかに怖いか…

今、ナースは自分がやってきた事の報いを受けようとしている


「す、すまん!悪かった!

 俺も本当は、死ぬ寸前に自分のやった事を後悔してたんだ!

 だが、生まれ変わってからは

 その事を忘れ悪行を繰り返そうとしてしまった!

 もう、二度としない!だから許してくれ!頼む!」

後悔…?

ネームレスの作ったゲームのシナリオでは

微塵も後悔など、していなかったけど


「俺が死ねば、あの兄はきっと悲しむ…

 あいつを騙してる事に、罪悪感を感じ始めてたんだ…!」

…あの罪もないショタコンイケメンには、悪いと思うけど…


「そう、ですか…

 あなたも罪悪感があったのですね…」

「あ、ああ…」

「じゃあ…」

「ゆ、許してくれるのか?!」

緩みかけた雰囲気に、ほっとするナース


「『本音をしゃべりなさい』」


…けれど、彼女の恨みは、小手先の謝罪よりずっと、重い


「は、ははっ!

 こう言えば、人を殺したくない甘ちゃんは、許してしまうんだろう?

 こうやってプリンセスに許されてる奴、何人も見てるぜぇ?

 オラ!さっさと許せよ!後ろから刺してやるからよぉ~!」

…清々しいまでの悪人っぷり

仇を討つ者にとって、これほどありがたい存在は無いだろう

一切の躊躇なく、仇が打てる


「どうしようもないクズですわね…」

「く、くそぉ…!」

もはや流れは止めようもない…

観念したかのようにうなだれるナース


「ならば、何のためらいもなく殺れますわね…!」

包丁を持つその手を、麗ちゃんはナースに…

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