第36話 発動!先制反撃(カウンターアタック)

準備を済ませ、ドラゴンの去った西の方角に向かうあたしたち

そちらには、三森山という草木の生い茂る山があり

宮廷魔術師…ナースの乗るドラゴンは、そこに降りていったのを確認している


途中でタクシーを拾い、急ぎ三森山へ

学生には痛い出費だけど、そんなの言ってる場合じゃない


「うわ、久しぶりに来たけど、随分木が多いなぁ…」

三森山に来たのは、前に学校行事でキャンプした時以来だ


「…このままガン逃げされると困りますわね…」

この山で鬼ごっこされると、非常に探すのがしんどくなる


とはいえ、幼い少年の身体だ

隠れたまま逃げる体力は少ないだろう

…と、なったら…


ビュオオオオオオオオオオ!


三森山の空に舞い上がる大量のドラゴン

二十体はいるだろうか…

その中央には、ドラゴンに乗った怒るナースの姿


…あたしたちを全滅させた後、ゆっくり治療しようとする!


「おのれレイシィめ…叩き潰してやる!」

不意を打たれたこと、一時撤退をせざるを得なかった事に怒っている

警戒はしていたのだろうが、まさか指輪無しで魔法が使えるとは

思わなかっただろう


プリサガには装備バグというものがある

装備ができる箇所は頭、胴体、手、足の四か所なのだが

一か所の装備を高速で入れ替えしてると…

なぜか下の装備欄に装備されていることがある

それを利用して、『魔法の指輪を足に装備』した

投げた方の指輪は、よく似たやつを百均で見つけて飾り付けしたやつだ

装備さえしていれば魔法は使える!

指輪を高速でハメたり外したりしたから

ちょっと麗ちゃんは指が痛くなったけれども…


…麗ちゃんがバグ顔になった時から、まさかとは思ったんだけど…

プリサガのバグ、現実世界にも適用されてる!

偶然なのか意図があったのか、世界法則的な何かが働いたのか…


もちろん裏技を使って不意を打てたのは、前世の麗ちゃんが頑張った成果だ

最大限に警戒されていたら、何をどうしようと、近寄りすらしなかっただろうし


「…残念ながら、シャドウは抜かれてしまったようですわね」

催眠魔法は、シャドウを相手に憑りつかせて、シャドウ経由で命令を聞かせる


「ヤツの所持スキルに『解呪』があったからね」

ゲームでは、ドラゴンの秘術を盗む際に、魔法で閉じられた扉に使用

ボス戦でも、魔法のデバフは解除されてしまうので、地味に厄介


「理屈としては、シャドウが完全に浸透しきる前なら

 痛みで命令に逆らい、『解呪』を行うことも可能…ですが

 あいつにそんな根性があったとは…」

自分より上に立たれることを何より嫌う…

そういう人間の意地なのかもしれない


「ナース!『そこから飛び降りなさい!』」

麗ちゃんがナースの注意を引き付けるために

あえて効かないだろう、シャドウへの命令をする


「…ほほぅ…そこにいたかぁ…レイシィ……」

にちゃあ、と瞳孔の開いた嫌らしい笑みを浮かべるナース


「くっ…シャドウが動かないですわ?!」

「残念だったなぁ…すでにそいつは解除済みよぉ」

ゲームでステータスを確認したので、予想済みです

転生術の事も書いておいてくれたらなぁ

…シナリオライター・ネームレスは優秀だけど

知らないことまでは書けないか


「お前のユニークスキルが惜しくて、転生させてやったが

 …もうこうなれば用済みだ。俺は力で、全人類を支配する」

支配することに誰よりも貪欲で…

だからこそ麗ちゃん…レイシィの催眠魔法が欲しくてしょうがなかったのだろう


「また、言う事を聞かないやつは殺すのですか…!

 …わたくしの父上のように!」

麗ちゃんも、もはや隠すことなく、ナースを非難する

しかし…


「…はあ、何だ…そんなつまらん恨みで逆らったのか」

「な?!」

「折角、人を支配する才能を持ったのに、心底つまらん」

自分の恨みは正当化するが、誰かの恨みはつまらんと切り捨てる矛盾


「お前を支配する親という存在から解放してやったのだ

 むしろ感謝するべきだろう?」

「こいつ…!」

常に自分を中心に考える思考


「もういい、お前を殺して、死体からスキルを奪う研究でもするとしよう」

悪のフリをする存在ではなく、真に邪悪たるもの

悪辣さは、ラスボスよりはるかに上…!


「行け、ドラゴンA!」

ろくな呼び方もされないドラゴンが、命令に従い、麗ちゃんに襲い掛かる


ギシャアアアアアアア!


…だが!


「残念だったね!」

あたしは用意していた包丁を持ち、右から左へと振る

そうすると、刃がなぞった空中から緑の風が発生

それは斬撃となり、ドラゴンに襲い掛かる!


ザシュッ!


「グォオォォォォォオォォォォォ?!」

ドラゴンはあたしたちに届く前に、真っ二つになって、地面に落下した


「麗ちゃんには指一本触れさせないよ!」

「な?!」

包丁をナースに向けたカッコいいポーズをとる

…いやまあ、ポーズはともかく、包丁じゃカッコよくならんかな…

このスキル『刃のある装備』が必要なんだよぅ


「それは…『先制反撃(カウンターアタック)』…?!

 た、ただの現地人がなぜ…!なぜ俺たちの世界のスキルを使える?!」

スキルポイントを使ったからさ!

異世界の魔力をもらってウインドウ開いたら

異世界のスキルにポイント割り振れるんだよ

…とか、あんなことしなけりゃ、なかなか気づかないだろう


「あんまり現地人を舐めないでもらいたいね!」

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