第35話 遁走!魔の囁きと竜の咆哮

「こ、こいつ、なぜ動く?!」

魔法なんて使って無いのだから、当たり前ですわ!


『ジャアクナルチカラヨシッコクノヤミヨソハココロノシンエンヲミタスモノ』

「高速詠唱?!指輪をして無いのに、どうやって…!」

タネも仕掛けもありますが、言ってやる義理は無いですわね!


「へっ…そういう事かライチェス!俺もまんまと騙されたぜ!」

「おい、マウンテン!こいつを止めろ!」

「誰が止めるかバーカ!」

「くそ、こいつ…!爆破するぞ!」

「やるならやれ!…行け!やっちまえライチェス!」


『影に潜め!魔の囁き(デビルズウィスパー)!』


青い魔法陣が出現し、そこから黒い靄が出て、ナースに吸い込まれ…


「う、うおおおおおおおおおおおおおお!

 竜の咆哮(ドラゴンズロアー)!」

竜の咆哮は、大量のMPと引き換えに、叫ぶだけでも唱えることのできる竜魔法

しかし、竜以外が叫んで使っても、人間にはわずかな恐怖しか与えられない…!

悪あがきですわね…!


と、思ったわたくしの読みに反して

奴のポケットから、何かが巨大になって出てくる


「ぐっ?!」

わたくしと美遊様は、膨らんでいく巨大な何かに弾き飛ばされる


「…な?!これは…ドラゴン?!」

膨らんだものは、わたくしの世界にいるはずの、下級のドラゴン…!

想定外ですわ…!どうやってこの世界にドラゴンを…?!


「ちっ!今は引き上げる!」

ポケットを引きちぎられ、片足を負傷したナース

召喚したドラゴンに乗り、この場から逃げようとする


『止まりなさい!』

わたくしは、シャドウの入ったナースに、命令を強制する


「ぐはっ…!」

ナースは負傷した片足に、自ら包丁を刺し、痛みで命令を拒否する


「くっ…『止まれ!』『止まれ!』」

「と、止まるな!急げ!」

ドラゴンを操り、わたくしの声から逃れようと、空へ…


「行かせるか!『八拳連舞』『双拳連打』!」

そこに立ちはだかる、マウンテン

得意の技で、一瞬立ち止まらせるが…


「くそ…!もういい死ね!ディトネーション!」


ボウウウウウウウウン!!


「ぐああああああああ!」

首輪を爆発させられ、吹き飛ぶマウンテン

炎と砂煙が舞い、視界が遮られる


「くうっ…」

視界が戻った頃には、ドラゴンははるか西の空に移動していた


「マウンテン!」

「へへ…や、やっぱり魔力少ないから、火力も足りねえじゃねえか…

 俺はまだ生きてるぜ…」

首輪をつけられても、なお立ち向かい、そして死ななかったマウンテン

その胆力と生命力は、やはり感心しますわ


「すまねえ、力になれなかった…」

「そんな…気に病むことなどありませんわ」

本当に…先に協力できていれば、どんなによかったか


「あいつは転生させたドラゴン…この世界ではトカゲになってるが

 竜の咆哮で恐怖を与えることで、ドラゴンに戻すことができるらしい」

「転生術…そんな事まで、できるのですね」

あいつの術の応用力の高さは、異常ですわ


「…そして、ダメージをほぼ完全に防ぐ障壁を使える」

この世界には存在しない、ドラゴン殺しのキーアイテムが無いと

無効化できない竜の障壁…


「ダメージを与えない組みつきと

 ダメージを与えない魔の囁き(デビルズウイスパー)

 …偶然とはいえ、上手くいきそうだったのにな」

「…マウンテン……」

…と、ここで再会してから気になっていたことを、つい口にしてしまう


「あなた、随分かしこくなってますわよね?」

「それ奴にも言われたよちくしょう!」

前世では『俺、メシ、食う』とか単語で喋るキャラでしたわよ?


「生まれ変わってからは、ちゃんと勉強したんだよ俺は!」

「ああ…確かに、いずれちゃんと勉強したいって、言ってましたわよね」

彼もなんだかんだで、望みを叶えてたんですわね…


「おう、あんた」

「美遊だよ」

「ミュー、いいコンビネーションだったぜ

 あの意地っ張りのライチェスに親友ができるとはな」

「み、美遊様は特別ですわよ」

わたくしをからかうようにまでなるとは…

嬉しいような…前の純朴なマウンテンが懐かしいような…


「…俺がわかったのはさっき言ったことぐらいだ

 頼む…奴を、奴を倒してくれ…!」

「うん…任されたよ」

「俺の事は放っておいてくれたら、いずれ治る」

「知ってるよ。『自動回復』のスキルだよね」

「ああ、今ではレベル1になっちまったから、時間はかかるが…

 って、何で知ってるんだお前」

「マウンテン戦は、そのスキルに苦戦したからねー」

「…おい、ライチェス…何なんだこの娘は?」

「ふふ、ナースを倒して帰ったら、教えて差し上げますわよ」

しかし…どうするべきか……

もはや奴の隙はつけないでしょう

弱っている今、追いかけて倒すのが最善、ですが…


「麗ちゃん!プランBでいくよ!」

まともに戦うとなると、やはりプランBしかない

…プランBは、美遊様が多くのものを賭けなければいけない

それなのに、美遊様はわたくしの…皆のために使っていいと言っている


「美遊様………わかりました。今は頼りにさせてもらいますわ!」

このせいで、美遊様の今後に暗雲が立ち込めるなら…

わたくしが一生、お支えしますわ!


決意を胸に、わたくしたちはプランBの準備を始めました

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る