第34話 奇襲!悪役令嬢VS宮廷魔術師

人気のない公園で、草むらを這い何かを探す太めの男

そして、その側のベンチで、スマホをいじっている小学生男子がいる


太めの男は、前世でマウンテンだった男

小学生は池波尊士…前世では、宮廷魔術師ナースシスティック

わたくしの父を殺し、自分のために悪の限りを尽くした男


あのネームレスが作ったゲームが、正しい歴史を記しているとしたら

わたくしが離反しプリンセスについた事を、ナースは気づかずに死んだはず…


「こんなところで、何をやってますの?」

「あ、お兄ちゃんのところに遊びに来た子だよね?

 ボクはここでスマホのお散歩ゲームを…」

「下手な芝居はやめなさいな、ナース」

「…はは。何だ、もう目覚めてたのか」

やれやれというポーズをとり、ベンチから立ち上がるナース

…ホントむかつきますわね


「…ちっ。なんだ、ライチェスじゃねえか」

「あらマウンテン、あなたもこちらに来てたのね」

「こっちでまで首輪つけられて最悪だぜ」

「俺に逆らおうとなどとするからだ」

…マウンテンは捕まってしまいましたか……

上手く発見できれば、仲間にできるかもと思ってましたが


「この前も連れてた、そのバカそうな褐色の娘はなんだ?」

わたくしの横に黙って立っている美遊様を指して、ナースはバカと…

…バカ?!

美遊様にそんな事言うなんて、許せませんわ!

…わたくしも似たこと言ってた気はしますが

こいつには言われたくないですわ!


「ふふ、催眠魔法で下僕にした現地人ですわ

 この身体では肉体作業は不便でしてね」

「あんな仲の良い姉妹のように見せておいて、実際は下僕か

 …全く、恐ろしい女だな」

「お褒めにあずかり光栄ですわ」

前々から思ってましたけれど…こいつ、演技を見抜く才能はゼロですわね


「さて…四天王が揃ってこんな世界に生まれ変わるなんて

 …これは、あなたの仕業ですわね?」

「そうだ、竜の転生秘術…保険をかけておいたのが、上手くいった」

上位種の竜は転生秘術を使い、何度もやり直して最強に至る

どこかの絵本で見た話でしたが、まさかそれが本当で、人間にも適用できるとは


「…四天王を同じ地域に転生させるのが精いっぱいで

 まさかこんな世界に転生するとは思わなかったが」

…間違いなく天才ですわね…こんな悪人でさえなければ…


「わたくし、元の世界に戻って、早くプリンセスに復讐したいのですけれど」

「まあ、そう焦るな。準備が必要だ」

「…準備?」

「俺の見立てでは、二つの世界は、まれに魂が行き来するようだ

 おおよそ、千人に一人くらいか」

「…意外と行き来がありますのね

 記憶を保持してないなら、意味は無いでしょうけど」

「俺の魂に四天王を紐づけしたからな

 俺が偶然、その千人の一人だったのだろう」

「…で、どうやって戻るんですの?」

その質問に、ナースはにやりと笑い、瞳孔の開いた目でこう答えた


「だから、五千人くらい殺せば、複数の魂が俺たちの世界に移動するだろう」

「…!」

「その移動しかけた魂に転生術で紐をつけ

 俺たちを引っ張らせて、元の世界に帰還する」

「外道め…!」

「ふん、なかなか心地よい殺気だぞ、マウンテン」

涼しげな顔で微笑むナース

やることがいちいち嫌らしい


「しかし、お前が転生してくれていて助かった

 お前のそのユニークスキル・催眠魔法は、最も効率的に人を支配できるからな」

「……」

「お前なら、五千人を一か所に集めて殺戮することも容易い」

こ、こいつ…めちゃくちゃ殴りたいですわ…!

けれど、まだ我慢…!


「そうですわ。わたくしも独自にこの世界を調べておりましたの

 そうしたらネームレスが…」

「ネームレス!あいつも成功していたか!」

ネームレスの名を聞いて、喜ぶナース

自分が手塩にかけて育てた男がいるのは、やはり嬉しいらしい

父親的な感情では無く、手駒としてなのだろうけど…


「…重大な話なので、近くで…」

「うむ」

誘いに乗って、ナースはわたくしの方へ一歩踏み出し…


「…あ、いや、ちょっと待て」

「?」

「先ほども少し言ったが…先日、マウンテンに反乱されてな

 首輪をつけなおすのに少し苦労した」

ちっ…


「念のためだ、発動体の指輪はこちらに投げろ。話が終わったら返す」

「はあ…肝の小さい男ですわね」

指輪を外し、ナースの方へ投げる

ナースはそれを受け取り、一歩前へ

それを見て、ドサッ…、と美遊様が崩れるように倒れる

催眠魔法による制御が切れた事を、美遊様で確認し

ナースはわたくしの側まで寄ってきた


「それで…ネームレスがどうした?」

「あの方は、実は過去に転生していたらしいのですが…」


ガシッ!


「な?!」

美遊様が起き上がり、ナースを後ろから羽交い絞めにする


「これ以上、話すことはありませんわね!」

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