第30話 注意!幼女誘拐犯の才能!?

そうやって奥さんの許可を得て、プリサガの資料を見せてもらえる事に


「これが夫の作った設定資料です。彼女の役に立つかはわかりませんが…」

手渡された資料は、コピー用紙がパンパンに入った青いファイル

ファイルの表面に『ユグドラシルサーガ 設定』とシールが貼ってある

中にはびっしりと書かれた文字と、たまに本人が書いたであろうスケッチが


「おおおお、すごい…お宝じゃん…!」

目を輝かせるあたしを見て、奥さんもなんだか嬉しそうだった

…残念ながら、これの価値がわかるのは、あたしとwikiの仲間たちぐらいだろうけど…


各キャラの隠された関係や設定なんかもかなり載ってる


『シーダーは裁縫が得意で、戦場から帰還したらまず、自分の服を縫い直してる』

使いどころがなかったんだろうなー、って設定がちらほら

彼の中で、登場人物たちは確かに生きていたんだな…

と、一瞬感慨にふけったが…彼らはホントに生きていたんだった


あたしはキラキラしながら資料を拝見させてもらっている

おかげで目的の、転生の秘密を探る方は、なかなか進まない…


「うえっ…こ、こいつ、カウンティング・ウッズですわ!」

麗ちゃんが何か写真を見つけたようだ

『会社の会計さんたちと飲み会』って、麗ちゃんが手に持つ写真の裏に書いてある

写真の表を覗き込むと、そこに映ってるのはネームレスと

ちょび髭おじさん、バーコードおじさんが乾杯してる姿だった


「え、そうなの?この人も顔違うけど…」

ウッズはこんなちょび髭でもバーコードでもなかったかと


「ウッズとネームレスは、一度も顔合わせしたことないので

 …ゲームのは、たぶん想像のイラストでしょうね」

「同じ会社にいたのに気づかなかったのか……」

なんというニアピン


「あ、ちなみにちょび髭の方ですわよ」

「ご親切にありがとう」

これは知りたくなかったような…ゲームだと結構美形なんだよね……


「ウッズは記憶取り戻してたのかな…?」

「うーん…記憶を取り戻してたら

 自分が出てくるゲームを作った男に、あれこれ接触しそうなものですわね」

「…奥さん、この方と信也さんは、よく会ってたりしました?」

「いえ、全然…」

「なら、記憶は戻ってなかったっぽいかなー…」

前世を思い出さなかったのは、それはそれで幸せ…なのかな?


「まあ、口を開けば銭、銭とうるさい奴で、わたくしは嫌いでしたが…

 あの宮廷魔導士と組まなければ、まともな人生を送れてたのではないかしらね」

写真を見つめ、おだやかな表情をする麗ちゃん

嫌いと言っても、同僚に対する友情は感じていたんだろうか


「…確かに最後の方は、宮廷魔導士の悪辣さにドン引きしてたね…」

そのへんはゲームでもやってた

モンスターを引き入れ、国民を皆殺しにする計画を立てた魔導士に対して

『俺は金儲けがしたいだけなのに、国民を皆殺しにしてしまったら

 これから俺は誰を相手に金儲けすればいいんだ…』って


とりあえず、ウッズの話はそこで区切って、新しいヒントを探し始める


「…あ、これ初回特典用のドラマCDの脚本?!

 プリンセスがレイシィ含む学友の皆と海水浴行く話の!」

「そんなとこ、行った覚えないんですけれど?!」

「まあ、販促用にキャラが水着になるのはよくあること…」

「あ、ちょっと!何でわたくしよりプリンセスの方が、胸が大きいんですの?!

 実際は逆でしたわよ!」

「…ホントかなぁ~?」

「ほ、ホントですわよ!」 


………

……


やがて日が暮れ、あたしたちは残念ながら帰路についた


「うーん…いや、あたしとしてはすごい満足だったんだけども…!」

手がかりはあれ以上見つけられなかった…


「今のところは、四天王の三人が転生してるって事だけですわね」

そのへん、何か関連性がありそうだけど…


「とりあえず、また来週に、続き調べさせてもらおうか」

そもそもネームレスが、転生の秘密知らなそうな感じだなぁ…


そんな話をしつつ、駅前を歩いて、バスの停留所まで向かう途中


「ほへぇー…何ですのあれ!?ぬいぐるみがいっぱい入ってますわ!」

麗ちゃんが指さしたのは、ぬいぐるみキャッチャー

あたしがよく通ってるゲーセンの店前に置いてある機械だった


「ボタンで上の円盤とアームを動かして、ぬいぐるみを穴に落とすゲームだよ」

「ほほぅ…」

「落としたらそのぬいぐるみがもらえるんじゃん」

「…つまりこれは…誘拐犯になるゲームですの?!」

「え、いや、そんなの考えたことなかったけど…」

UFOのキャトルミューティレーションを手伝うゲーム…だったりするのこれ?

製作者の人そこまで深く考えてないと思うよ


「…やってみますわ!」

「お、何か気になる子でもいるじゃん?」

「あのクマ子さんがいいですわ!」

お嬢様のような恰好をしたクマのぬいぐるみ

あれが麗ちゃんの狙いのようだ


「ぐへへ…クマのお嬢ちゃん…飴玉あげるから、わたくしのものになりなさいですわ」

「ロールプレイが中途半端で、誘拐犯から高飛車お嬢様になってる」

「う、うるさいですわね…」

クレーンをゆっくり動かして…クマをつかんで…


「あー!落ちましたわ!?」

「おおおー…いや、最初で掴むところまで行くなんて、すごいよ」

「…やはりわたくしに誘拐犯の才能は無かったようですわ…」

「早っ」

「今月はシュークリームの食べ過ぎで、おこづかいが厳しくて…」

…どうやら、あたしがいない時にも食べに行ってるようだった

まあ、おいしいからしょうがないかな!


「あー、でもちょっと待って。今のでいい位置に来てるから取れそう」

「ホントですの?!」

「やってみるね…」

「ごくり」

アームをこの位置に…んで、こう動かせば……タグが引っかかって……


「え、それアリですの?!」

吊るされたぬいぐるみは、そのまま出口の穴まで運ばれ……


「取れたー!」

2発でいけるとは、なかなかついてますよこれは


「うう…諦めていなければ、わたくしのものになっていたかもなのに…」

「はい」

「?」

「麗ちゃんにあげるよ」

「ええ…なんでですの?!美遊様が取ったものなのだから、美遊様に権利が…」

「あたしは麗ちゃんにあげたくて取ったんだよ」

あたしはどっちかと言うと、フィギュアとかの方が欲しいんで


「え、えと…そ、それならありがたくいただきますわ…」

あたしから渡されたクマぬいぐるみを、ぎゅーっと抱きしめる麗ちゃん

…うん、かわいい!

取ったかいがあるってもんだよ~


「…美遊様には、誘拐犯の才能がありますわね」

「あまり嬉しくない才能だね…」

「わたくし以外に、使ってはダメですのよ?」

クマを抱きしめながら、ちょっと嬉しそうに

あたしに注意をする麗ちゃんなのだった

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