第28話 取材!名もなき暗殺者

シナリオライターかもしれない候補者の一人、森山信也さんから

…いや、正確にはその奥さんから返信があった


『森山信也の妻の裕子です

 主人は一月前に交通事故で他界しております

 SNSは気が付かず放置しておりました、申し訳ありません 

 ですので、本来ならご期待には沿えないのですが…


 『マヨ卵かけライス』のお話はどこでお耳にしたのでしょうか?

 それは主人の設定の中にしかない

 ゲームでは削ったエピソードだと言っておりました』


…一足遅かったか…

森山さんがプリサガの誰かであることはわかったけど…

誰なんだ森山さん…

麗ちゃんは一目でわかったのに…

せめて写真があれば…


…写真?


「…そうだ、森山さんの顔写真!探せばどっかにあるかも!」

プリサガはともかく、フォレストエンブレムは有名なゲームなんだ

どっかの記事に顔出ししてるかも…!


「ゲーム情報サイトにフォレストエンブレム制作者インタビューが…」

検索をかけると、意外とあっさり、インタビュー記事にたどり着いた


「あった!この右側の人か…」

ソファーに座ってる男性の写真を見て

頭の中でプリサガキャラの顔とイメージを重ねてみる


「うーん…誰とも似てないなぁ…」

顔出ししてないモブキャラとかかな…?

いやでも、それだったらこの方法では候補絞れないな…


「詰まってますの?」

パソコンにかじりついて検索してるあたしの横に、麗ちゃんがやってくる

さっきまで、前回と同じくスマホをいじっていたのだが、飽きたらしい


「あー、うん。今、行けるかなー、とちょっと思ったんだけどね」

「おや、この殿方…」

麗ちゃんがインタビュー記事の写真を見て反応をした


「え、麗ちゃん心当たりあるの?」

「…間違いないですわ!ネームレス・フォレストですわ!」

「え、あの暗殺者の…?!でもゲームと顔違くない?」

面影全然残ってないー


「自分をそのままゲームに出すのは、恥ずかしかったんではなくて?」

「あー…確かにあるかも

 自分そのまま出すとか、自己顕示欲強すぎるよーって、プレイヤーに言われそう」

あたしだって言う

…制作者の顔写真を、そのまま貼り付けて

敵キャラとして出すゲームもあったりするけど…


えーと、じゃあ…ここはこうメールして……


『信也さんは『前世』について、何か話していませんでしたでしょうか?


 にわかには信じられない話ですが…

 私の友人に、プリサガの登場人物だった『前世』を持つ少女がいるのです

 『マヨ卵かけライス』の話はその少女から聞いたものです


 彼女は信也さんが前世で「ネームレス・フォレスト」

 だったのではないかと言っております


 …本当は、制作秘話なのではなく

 その『前世』の話をしたくてメールをしました

 できれば電話などで、直にお話をしたいのですが…』  


彼が奥さんにも何も話してないって可能性もあるけど

ここは、怪しくなっても正直に伝えよう

最悪、頭のおかしい子の話として、ごみ箱行きになるだけだろうし…


そうやってメールの文面をひねりだしたあたしは

また麗ちゃんをひざまくらし、癒されながら返信を待つことにした


「美遊様~、わたくしもひざまくらやりたいのですが」

「え?う、嬉しいけど…その、警察呼ばれたりしない?」

「?誰も呼ばないと思いますわよ?」


そうしたら、今度は1時間くらいで、返信が返ってきた


『そうだったんですね

 …確かに主人から、前世の話は聞いております

 電話越しでなく、できれば直接お話ししましょう


 下に自宅の住所を記載しておきます

 ご都合がよければ、今月の金曜日、16:30以降に

 こちらへ訪問いただければ幸いです』


…よし!




そんなこんなのメールのやり取りの後…

あたしたちは、森山信也さんの自宅に来ている

初めは少し用心していた奥さんだったが

インターホンのカメラ越しに見える訪問者が

中学生と幼女だったので安心したようだ


奥さんは髪をうなじのところでまとめた、綺麗な人だった

木材がふんだんに使われている、洋風の書斎に通される

…プリサガの図書館もこんな感じだったな…

四角い机を挟み、並べられてる2つのソファの1つに、あたしと麗ちゃんが

もう片方に奥さんが座る

机の上にお土産のシュークリームを置いて、あたしは話し始めた


「えっと、さっそく本題なのですけど…

 信也さんは生前、何か危険にあった直後から

 前世を思い出した!とか、おっしゃっていませんでしたか」

「!」

びっくりする奥さん

思い出すシチュエーションも近いようだ

やはり何か、意図的なものを感じる…


「え、ええ…そうです…!

 高校の時、トラックに轢かれそうになってから突然…!」

そこから、奥さんは信也さんの事について、話し始めた


「主人は不思議な人で、高校の時、突然前世を思い出したと言い出しました

 それはどこか中世のような世界で、悪の手先として、暗殺を行っていた記憶で…」


「罪悪感に苛まれ、やせ衰えていく行く彼を、幼馴染の自分が支えました」


「あの時、私は彼にこう言ったのです

『忘れようとして苦しむのなら、一度、きちんと紙に書いて整理しよう』

 そして、それと向き合いながら、生きていこう、と」


「彼は物語として俯瞰することで、ようやく自分の中で答えを見つけられたようでした

 それをゲームのシナリオとして提出したのが、プリンセス・ユグドラシルサーガ

 …残念ながら、評判の悪いゲームになってしまいましたが…」


「……流石に、ちょっと信じられませんよね、こんな話」

自嘲気味に呟く奥さん

…ひょっとしたら、家族には話したのかもしれない

けれど、信じると言ったのは奥さんだけで…


「…わたくしも、前世を思い出した人間なのですわ」

「メールではそう拝見しましたけど、本当に…?」

夫の言う事は信じたが、見ず知らずの少女の言う事は、信じきれない奥さん

…彼女の送ってきた人生を考えると、それは仕方のないように思う


「わたくしは同じく悪の手先となっていた女…前世で旦那様の同僚でしたわ」

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