第25話 慈愛!ちびっこ令嬢の包容力

「…という訳で、悪魔のゲームを攻略した美遊は

 ついでに病気をも克服し、学校に通えるようになったの」

「えええ……」

「後から聞いた話が多くてね。当時は半信半疑だったわ」

確かに…にわかには信じられない話ですわ


ただ、謎の病気…わたくしには心当たりがありますわ


わたくしの世界におけるモノクロ病…通称『ダークエルフ』

その病にかかると、はじめは風邪のような症状が続く

しかし、症状は全然収まらず…やがて髪の毛が白くなっていく

そして病を克服できず死亡すると、その死体の身体は真っ黒になる…

魔法による高額な治療を受けられた数名のみが助かったという病


それを根性で克服したという美遊様

滅茶苦茶な話ですわ…

もちろん、わたくしの知っているソレとは違う可能性も、大いにありますが…

もしかしたら、わたくしの世界の門がどこかで開いていて

それによって病原体が持ち込まれ、美遊様が感染したのやも…?


「あの…どうしてそのような話をわたくしに?」

「美遊ってさ、あんまり自分の事話さないから」

…たしかに、わたくしをしょっちゅうかまってくださるのですが

美遊様は自分を『オタクに優しい黒ギャル』としか言いませんわね

オタクさんがクラスにいないので

それが真実なのかどうか、確かめる術が無いのですが…


「美遊が大好きなあなたには、知っていて欲しかったのよ」

「…え?あ…え、えと、その…」

い、今のどっちですの?!

『美遊様がわたくしを大好き』なのか…

『わたくしが美遊様を大好き』なのを見抜かれているのか…

日本語難しいですわ!

ユグドラ語なら、そのようなことはないのに…


「ふふ、すぐ赤くなっちゃうのね。かわいいわ」

「はぅ…」

ほんと、どうしたことでしょう…

前世ではクールビューティな悪の令嬢でしたのに…


「美遊の事、よろしく頼むわね」

「わ、わかりましたわ!美遊様のこと、幸せにしますわ!」

「あ、え…えと、そういうニュアンスとはちょっと違うような…」

「違いますの?!」

翔子さまのニュアンスは難しいですわ…


「楽しそうにおしゃべりしてるけど、何の話?」

「ひょわっ?!」

こっそり帰ってきた美遊様がいきなり

翔子様とわたくしの座っている席の間に、入り込んできましたわ

び、びっくりしましたわ…もう


「あたし夢渡美遊、中学一年生。百合の間に割り込みたい黒ギャル!」

「そーゆー横恋慕的なのは良くないわよ」

びっくりさせられて、ちょっとぷんぷんなのか

翔子様は美遊様のほっぺを両手でむにーと引っ張りましたわ


「じょ、冗談だよ翔ちゃん」

「気が変わったわ。今から百回撫でるから覚悟しなさい」

「えー?!せ、せめて人気のないところで…」

「だーめ♪」

「人気のないところでなんて…

 ちょっといかがわしい匂いがしますわね…」

「麗ちゃん?」

そんなつもりは無かったのに、と言いたげな美遊様の声

いやいや、そもそもいかがわしい恰好をして

わたくしを惑わせてらっしゃるのは、美遊様ですのよ?


「そ、そうだ。あたしも麗ちゃんを撫でてれば

 ギリギリ精神が保てるやも…」

「あ、わたくしジュース買ってきますわね」

「麗ちゃんーーーー!?」

に、逃げるが勝ちですわー


そうやって、3人分のジュースを買って帰った頃には

真っ赤になって顔を両手で覆った美遊様と

大変大満足なお顔をした翔子様がおりましたわ

翔子様…恐ろしやですわ……




翔子様は学校の陸上部に寄ってから帰るという事で

帰り道の途中で別れましたわ

わたくしたちは夕焼けの中、土手を歩きながら帰っておりました


「翔子様に聞きましたわ。あのプリサガというゲーム

 とんでもないクソゲーだという話」

「あー……うん。実は…そうなんだよね」

「わたくしに見せてくださった時は

 上手にバグが出ないように、進めてくださっていたのですね」

美遊様はお優しいですから…

わたくしたちの出るゲームのいいところだけを、見せてくださっていたんですわ

…最初の暗号のような開始方法だけは、隠しようがなかったみたいですが…


「わたくしが代表して、こう言っていいのかは、わかりませんが……」

代表にするなら、間違いなくプリンセスなのですが…

彼女はここにはいない

ですからわたくしが、美遊様に…


「わたくしたちの歩んだ物語を、愛してくれて…ありがとうございますわ」

誰かに自分の人生を知ってもらえること

それを愛してもらえること

それが、どれだけ稀有で、どれだけ救いになるか


…ぽろっ


「あ、あはっ…や、やだなぁ…何泣いてるんだろ、あたし」

零れ落ちる涙

それは、美遊様も同じだったのかもしれない

自分が全力でやったことを、知ってもらって、感謝されて…


わたくしは、背伸びして美遊の頭を撫でましたわ

ゆっくりと…彼女を慈しむ様に


「今日はいつもの逆が多すぎるよ…翔ちゃんのせいかな」

「そうですわね。翔子様のおかげですわね」

生真面目で優しい彼女に、感謝を

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