第24話 『セーブデータを読み込むことができません』

もう自分が長くないことは、あたしが一番よく知っていた

最後に、このプリサガに出会えて良かった…

そう思えるほどの、素晴らしいゲームだった


熱で頭がぼうっとしてくる…そんな状態で

あたしはてごわいシミュレーションを一歩一歩攻略していき、そして…





『セーブデータを読み込むことができません』





…破局が訪れた


「え、えええええ?!どういうことなの?!

 何かまずいことやっちゃった?!」

プリサガのたちの悪いところは、体験版の部分はきちんと作ってあるのだ

そこを超えるとバグの嵐

タイトル画面も変わって、顔面がずれたり

カーソルを合わせただけで強制終了になる敵が現れたり

セーブデータが破壊されたり…

そんな事は露知らず、セーブデータ消失にうろたえ

あたしは初めて、プリサガについてネットで検索をかけたのだった


「ええええ…」


そうしたら、出るわ出るわ…プリサガの不評とバグの検証報告

メーカーも、もはやバグは直しきれないので、修正はあきらめます

ソフト送ってくれたら返金しますとまで言っている

有志の挑戦者も、バグの多さに挫折して、クリア人数は未だにゼロ

今年のクソゲーランキング優勝候補筆頭、それが世間でのプリサガの評価だった


「け、結構前のセーブデータだけど、セーブデータ2からやり直そう…

 バグゾーンに来たら、メモカ何枚かに分けてセーブすれば、1つ2つ破損しても…」


『セーブデータを読み込むことができません』


「…は?」

あたしは知らなかった

このゲームで、セーブデータが読み込めない、と一つのデータで出たなら

すでにメモカのデータ全部が破損してしまっているのだ


「じゃ、じゃあセーブデータ3を…」


『セーブデータを読み込むことができません』


「あびゃあああああああああああああ?!何で…何でこんな……?!」

セーブデータはすべて消失

あまりの出来事に、叫びながらベッドの上を高速で転がりまわるあたし


「ひどい……ひどすぎる……!」

あたしが何をしたというのだ

病弱少女が最後の楽しみにしておいたゲームまで取り上げるというのか

神はなんと傲慢で残酷なのだろうか

きっと天上で『ばっかでーwwwぷぷぷ』とか言って笑ってるに違いない


「許さない…!」


「絶対に許さない!神様と転々堂!

 絶対にこのゲームをクリアして、天から見下してる奴らの鼻をあかして見せる!」

販売と制作会社は別であり、転々堂は販売担当なだけで悪くはないのだが…

当時のあたしには、そんなことはわからなかった


「お母さん!」

「み、美遊、どうしたの?!寝てなきゃダメじゃない!」

急に部屋から出てきたあたしに、びっくりするお母さん


「ごはん…お願い」

「あ、ああ、おなか空いたのね。待っててね、今用意するわ」


病気になってから、普通の量を食べると気分が悪くなり

仕方なく減らしていたご飯を、無理やり多く食べ始めた


食べろ…とにかく食べろ…

栄養をつけなきゃ、あの悪魔は倒せない


咳き込むので避けていた運動を始めた

スクワット、腕立て伏せ、ラジオ体操…


動け…痛みを避けようと、怠惰に伏していた、自分の身体を動かすんだ

スタミナが無けりゃ、あの悪魔は倒せない


先駆者たちの情報を集めろ

いや、集めるだけじゃ不足だ…ネットワークを作るんだ

掲示板で心折れかけた有志達を再び集め、攻略wikiを立ち上げる

一人で挑んでも、あの悪魔は倒せない


勉強をしろ…

別のゲームだが、バグを利用して、ありえない状況を作り出す変態たちがいる

似たようなゲームなら、似たようなプログラムを使ってる可能性は高い

バグを持ってバグを征せ!あの悪魔を倒すんだ!


クソゲーに対する怒りが、あたしの心と体を突き動かした

やってやる…!必ずこのクソゲーを仕留めてやる…!

人生で初めて激怒したあたしは、命の炎を燃やし攻略に挑み…





……そして十か月が過ぎた


病気はついに根負けしたのか、あたしは快方に向かっていた

戦いの中で、あたしの髪は燃え尽きたかのように、真っ白に染まっている

そう、本当に燃え尽きるぐらい戦った

その成果…


『みなさん…本当に、本当に長い間……ありがとうございました!』

プリサガ攻略wikiに集う者たちが、掲示板で最後の会話をする

あたしの…いや、wikiに集うあたしたち念願の

プリサガのエンディングが…ついに、見れたのだ


『ミュー殿がおらなんだら、とっくに我々は挫折しておりました

 あなたこそ、このwikiの真の救世主です』


『いえ、違います…

 「バグでセーブデータを書き換えて、始まったと同時にストップする面を回避する技…」

 「カーソルを合わせるだけで強制終了になる敵を、オートで倒す工夫…」

 「攻撃の99%をカットする敵のバリアを突破するアイテムが、バグで手に入らないから

  攻撃力をバグらせて99%カットでもダメージを押し通す…」

 どれもこれも、皆さんの創意工夫無しにはたどり着けませんでした』  


『攻略動画は、動画サイトに載せております

 ぜひ、感動のエンディングをご覧ください』


『本当にいいシナリオでした…ライターさんに感謝します』


『うんうん…開発スタッフは、ライターさんに土下座しろよな!ホントに!』


『www』


…皮肉なことに

あれだけ憎んでいたプリサガに…今では感謝している

全力で戦い抜いた10ヵ月

wikiのみんなと、多くの障害を乗り越え、たどり着いたエンディング

そこには多くのドラマがあり、感動があった

あの体験版のまま、プリサガが普通のゲームであったなら…

この答えには至らなかっただろう

そう…



生きていて、よかった…と



あたしは涙をぼろぼろと零しながら、掲示板に来るお祝いのコメントを

一つ一つ、読んでいくのだった

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る