第23話 発散!ボーリング少女翔ちゃん

プリサガの電源を初めて入れた

その時のことを、あたしは今でも覚えている


緑と青と白の混ざった綺麗な風景、ハードの限界に挑戦した音質

デモで流れる、登場人物たちのステータスと、必殺技の乱れ飛ぶ戦闘画面

良作ゲームの匂いだった


オタクくんはこんないいゲームをクリアできなくて、さぞ無念だっただろう

あたしがその雪辱を晴らすんだ

そんな思いでゲームをスタートした


これが最後のゲームになるだろう…そう予感をしながら


あたしの病状はかなり悪化していて

この頃にはもう、外に出歩くことができなくなっていた


プリサガは手ごわいシミュレーションだった

仲間は死んでも復活できないし

1マス移動を間違えたら集中砲火で殺される場面も多々あった


人生の意味なんてわからない

けれど、このゲームは…このゲームだけはクリアして、人生を終えよう

あたしはそんな、枯れ葉が散ったら死ぬ少女のような気持ちになっていた


………

……


「へぇ、ボーリング?」

「そうですわ。美遊様と一緒に行くんですわ」

放課後の教室

黒髪ポニテ幼馴染の翔ちゃんと、いつもかわいい麗ちゃんとでお話してたのだが

うっかりボーリングの事を話題に出してしまったのだ

…やばい……麗ちゃんに言い含めるの忘れてた…!

他の事はともかく、翔ちゃんの前でボーリングは…!


「…ちょっと美遊」

「は、はいっ!」

ほらきた!


「何で私を誘わないの?」

「い、いや、翔ちゃんは部活で忙しいかなと思いまして、はい!」

「ボーリングなら私を呼びなさいって、言ったでしょ?!

 部活なら休むわ!」

いや、だから遠慮してたんですけど?!

なぜそんなにボーリングが好きなの…?


「そ、それに翔ちゃん強すぎるし…」

「ハンデあげるから」

「わ、わかったよもう…」

翔ちゃんはボーリングとパズルゲームが異常に上手い

ゲームの方はまだ、手練手腕を駆使してなんとか勝てるけど

ボーリングは差が大きすぎて相手にならない…


なんていうか…対戦格ゲーで上級者に一方的にボコられる

初心者のような気持ちになるのだ

現実もレーティングで上級者と住み分けしてくんないかな…


麗ちゃんはまた「?」という顔で見つめてらっしゃる

何も知らないのは幸せなことだよ…




「ふおおお?!なんですの翔子様、全部…えと、全部倒すやつ…」

「ストライクだよ」

「…ストライクですわよ?!」

パズルゲームと違って、ボーリングは邪魔なんてできないからなぁ…

ボーリングのきっちりとした正装に身を包み

ストライクを連発する翔ちゃんを、我々はただただ見つめていた


「ほらほら、次美遊が投げる番よ」

「あ、はーい」

「あんまり元気ないわね…

 私がちょっとミスすれば勝てるぐらいのハンデはあるでしょ?」

「ま、まあそうだけどさ…万一ハンデで勝っても盛り上がらない、というか…」

「ふむ…まあ、たしかに…」

考え込む翔ちゃん


「あー、じゃあこうしましょ。次のゲーム、ハンデありで美遊が勝ったら…

 あの次世代ハードを購入する権利をあげるわ」

「え…それどういう…?」

なんかどっかのゲームで聞いたようなセリフだなぁ…偶然だろうけど


「ほら、あのハード抽選販売になってるじゃない?」

「うんうん。あたし全然当たらなかったよ…」

「私、色んなところに応募して…2件当たっちゃってね」

「ふわ?!」

変なところで運いいな翔ちゃん!


「2台目は誰かに定価で譲ろうと思ってたんだけど…」

「や、やる!やります!」

これでやらなきゃ黒ギャルがすたる!


「ちなみに、美遊が負けたら…私が美遊を100回なでなでするわ」

「ええええ?!」

「美遊がお姉ちゃんしてるの見てるとねー

 私も久しぶりにお姉ちゃんしたくなっちゃったのよ」

…昔は翔ちゃんの方が背が高かったから、翔子お姉ちゃんって呼んでたっけ

病気がよくなって学校に通うようになって

実は同級生だったと気づいたときは驚いたけど


「おおおおおお…こ、これは負けられぬじゃん…」

それはそうと、麗ちゃんの前でかわいがられるのは、なんか恥ずかしいからヤダ!


「翔子様がんばれー」

「麗ちゃん?!」

裏切りの悪役令嬢!


………

……


「けっかはっぴょー!ですわー!」

麗ちゃんがテレビで見た芸能人の物真似で結果発表してくれる

子供はすぐ真似するよねそういうの


翔子様 253点

美遊様 119(+100)点 

わたくし 48点


「うああああああああああああああああ!」

「はい、私の勝ちー♪」

「ぐぬぬぬぅ…」

いやまあ、投球結果は常にモニターに表示されてて、勝敗もわかってたので

わざわざ言い直す必要はなかったのだけど…雰囲気ってやつで


「…あたしの勝敗はしょうがないとして…

 麗ちゃんが楽しめたかどうかが、ちょっと心配」

「いえいえ、すっごい楽しかったですわ!」

麗ちゃんは例のキラキラした瞳で答える


「鉄の球を投げるだけで遊べる競技があるとは…!」

ボーリングの球は鉄じゃないわ!ホントは…と

うんちくを言いたげな翔ちゃんに目配せをして止める

こういうのは後から訂正するもんだよ


「こう、なんというのか…ボールがピンに届くまでの

 あのワクワク感はたまりませんわね!」

「…」

「……」

「…ねえ、真の勝者は麗ちゃんなんじゃない?」

「楽しんだという意味では、間違いなくそうね」

楽しんだもの勝ち、はゲーム大好きオタクに優しい黒ギャルとして、忘れずにいたい


「…私も、ありし日の自分を思い出したわ…」

遠い目をする翔ちゃん

翔ちゃんも、ワクワクしながらボーリングをしていた時期が、あったのだろうか


「じゃあ、今日は勝ち負けなしという事で…」

「待ちなさい」

「あ、ダメ?やっぱり」

「ダメよ」

ダメかー


「…ちょ、ちょっと先にトイレ行っていいかな?」

「いいけど、帰ってくるまで、この子は人質に取らせてもらうわ」

「きゃー美遊様ー、おたすけー」

「楽しそうだね麗ちゃん?!」

即座に捕まったお姫様ムーブかましてきたよこの子


「待っててね、妹の結婚式に出席したらすぐ戻ってくるからね!」

「トイレじゃなかったの?」

「トイレって言ってましたわよね?」

「二人して急に正気に戻るのやめてくれる?!メロスだよメロス!

 この前、国語の授業でやったでしょ?!」

「あー、そんなのもありましたわね…」

純粋に気づいてなかっただけか…


「ま、まあ、ともかく行ってくるね」

ギャグが滑って気恥ずかしい思いをしながら

あたしはトイレに向かうのだった






美遊様がその場を離れて、翔子様と二人になった、その時


「…麗ちゃん」

翔子様が、わたくしにお話してきましたわ


「は、はいっ。何でございましょう、翔子様」

「ちょっと聞いてくれるかな?」

そう問いかける、翔子様の目は真剣で…


「…な、何をですの?」

「昔の…美遊の話」

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