第14話 露見!悪役令嬢の秘密

いつもの放課後の教室

あたしたちは授業に追いつくための勉強を、熱心にやっていた


「はー…結構頑張ってるわね」

「翔ちゃんはまた部活?」

「そそ、その前にちょっと顔見とこうかな、って」

教室にひょっこり顔を見せた、黒髪ポニテ幼馴染の翔ちゃん

1年でありながら陸上部のエースである

なんというかもう…チートじゃね?とたまに思う


「美遊が勉強教えるって聞いた時は、本気?!って思ったけど」

「美遊様の教え方、すごくわかりやすいですわ」

座ったまま足を上下にパタパタさせる麗ちゃん

…令嬢とは思えないお行儀の悪さ


「自分が躓いたところを、注意深く教えてるだけだけどね」

「なるほど…勉強が苦手だから教えるのが下手、とは限らないのね」

なでなで

…ちょっと得意げな顔をしてたら、翔ちゃんに頭を撫でられた


「ちょ、翔ちゃん何するの?!」

「頑張ったなら褒めないとね」

「も、もー…やめてよー」

あぅ…は、恥ずかしい…


お隣って事もあって、一時期はあたしが翔ちゃんに

妹のように面倒を見られてた事もあったんだけど…

…いや、今でも翔ちゃんにとっては、妹なのかもしれない


「…なんだかわからないけど、胸がスカッとしますわ!

 ありがとうございます、翔子様!」

「何でぇ?!」

恥ずかしがるあたしを見れたことが嬉しいのかな?

いつも立場が逆だから


「あはは、じゃあ、そろそろ行くね」

「あ、うん。また明日ねー」

「また明日ですわー」

翔ちゃんは微笑みながら教室を出て行った


「…ひょっとして、美遊様の撫で癖は、翔子様からの遺伝ですの?」

「そ、そーなのかなぁ…?自分ではよくわからないや」

麗ちゃんの頭の吸引力がすごいだけだと思うよ


そして、しばらくは静かな勉強タイムが続き…



英語の教科書の二章が終わったところで休憩


「それにしても、勉強がすごい速さでできるようになってきたね」

あたしの作った進行予定表が、かなり前倒しになってる

全教科、あとちょっとで授業に追いつく


「ふふふ、わたくしかしこい令嬢ですので、当然ですわよ」

「…あのさ、麗ちゃん」

黙っておこうかとも思ったけど

…やっぱり、聞いておかなきゃいけない


「ひょっとしてだけど…スキルポイント、使ったんじゃない?」

「ぎくっ」

昭和の焦り方!?

プリサガは平成のゲームのはずなんだけど…


「麗ちゃんのスキル、五教科が全部1づつ増えてたじゃん」

「そ、それはわたくしの努力と、美遊様の教育のたまもので…」

「教えてない体育まで伸びてるのは、おかしいと思うんだよね」

「よ、よく見ていらっしゃいますのね」

そりゃもう、ゲーム大好きオタクに優しい黒ギャルですから


「それに年齢が九歳になってた…」

「……」

たぶん、催眠魔法を駆使して、中学校に潜り込んだんだろう


「ねえ、麗ちゃん。急ぐ事情があったのはわかるけど…

 でも、もう急ぐ必要がないってわかったし、無理に中学生やる必要は無いよね」

中学の勉強も体育も、九歳には辛いはずだ


「元の小学生に戻って…」

…そこまで話したところで、麗ちゃんが震えだした


「う…ぐすっ……」

麗ちゃんは、その瞳に大粒の涙を浮かべ…


「うわああああああああああああああああんっ」

「え…が、ガチ泣き?!」

小さな女の子のように…小さな女の子なんだけど…ボロボロと泣きだした


「わ、わたし…突然知らない世界で目覚めて…

 寂しくて、不安で…元の世界に戻りたいって思って…」

悪役令嬢の前世に目覚めた、彼女の心情が語られていく


「でも、潜り込んだこのクラスは、みんな優しくしてくれて…」

それは前世で父が亡くなってから、復讐のために捨てた幸せ


「美遊様はそんなわたしの事を知ってくれて、止めてくれて…」

それは主人公と共に歩めば、得られるはずだった幸せ


「わたし、もう美遊様たちと、離れたくないんですわ…」

奇跡のようにもう一度訪れた幸せを、もう捨てたくないと…ただただ願う、少女の心


「…で、でも、中学校の授業についてこれる?特に体育…」

「スキルを習得したので、むしろ一般の方より上手くこなせると…思いますわ」

「……」

もう、彼女の心情を知ってしまったあたしに

小学生に戻れ、と言う事はできなかった


「…わ、わかったよ…」

これが正しいのかは、わからないけど…


「でも、何か不都合が出たら言うんだよ

 小学校が寂しいって言うなら、あたしが毎日迎えに行くし

 なんだったらあたし、小学生やり直してもいいから!」

麗ちゃんが中学生やるよりかは楽なはず!


「…ぷっ」

あたしの小学生姿を想像してしまったのだろう

麗ちゃんは緊張の糸が一気に解けて、お腹を抱えて笑い出した


「さ、さすがに…美遊、様が、小学生、は…無理、じゃ、ない、ですの?」

じ、自分でも無茶だとは思ったけどさ!

そんな笑う事ないじゃない?!


「わ、笑ったなー。いや、あたしだって1年前は小学生だったんだよ?」

「信じられませんわ…」

「そゆこと言うやつはこうだ!」

「あ、やめっ、くすぐらないでくださいまし…!あは、あはははっ」


そんなこんながあって、ようやく本格的に

現代に転生した悪役令嬢と、オタクに優しい黒ギャルの

学園生活が始まったのだった

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