第9話 決着!令嬢のお尻と福笑いバグ

「…麗ちゃん」

「ぐっ…」

あたしは、睨んでくる麗ちゃんの身体を持ち上げて…


ぱあん!


「んひゃん?!」

イケナイ子のお尻を叩いた


「気軽に人を操っちゃいけません!」

「き、気軽などでは…!」


ぱあん!


「ひんっ?!」

「反省しなさい!」

「い、いやでもわたくしは…!」


ぱあん!


「んやんっ?!」

「そ、そうですわ、わたくしのおこづかいあげますから、見逃して…」


ぱあん!


「んああんっ!」

「ご、ごめんなさい!ごめんなさいっ!もうしませんわ!許してですわ!」


ぱあん!


「んひいっ?!」

「…よし!反省したね!じゃあ、私は許す!」

「最後の一叩きいりました?!」

「指輪はあたしがしばらく持っておくからね。反省したってわかったら返します」

「うう…」

「それと、後で生徒会長と用務員さんにお詫びしとくこと、いいね!」

「は、はい…」

痛みに涙を浮かべながら反省する麗ちゃん

…ちょっとやりすぎたかな…?


「うう…悪の令嬢もヤキが回りましたわ

 まさかお尻ぺんぺんで降参させられるなんて…」

そりゃまあ、屈辱でしょうけど


「そうそう、疑問なんだけどさ、なんでそんなにちっこいの?

 元の世界ではすらっとした美少女だったじゃん」

「…美遊様は何者ですの…?」

ただのゲーム好きの、オタクに優しい黒ギャル…なんだけどなぁ


「と、とりあえずわたくしの事情から話しますわね」

「うん、お願い」


「…ひと月ほど前、トラックに轢かれそうになった時に、前世の記憶が戻りまして…」

「前世?」

「わたくしの前世は、レイシィ・ライチェス…こことは違うある国の、悪の令嬢だったと」

「あー、転生……なるほどねー…」

たしかに彼女は、ゲーム内で決戦前に亡くなっている


「驚かれませんのね…」

「…いや、驚いてはいるけど、納得もしてるって感じかな」

何でプリサガから現代に転生したのかは、よくわからないけども


「そ、それで…わたくしの親友…プリンセスが、まだ戦いの途中ですの!」

親友…ゲーム内でそのセリフは聞けなかったけど

主人公とは和解できたんだなぁ…


「ど、どうしてニヤニヤしてますの、気持ち悪い」

…おおっと、顔に出てた


「ともかく、わたくしはプリンセスを助けに行きたいのですわ!

 もう、間に合わないかもしれないですけど…」

「……」

「だ、だから、この学校に潜り込んで、生徒会を乗っ取り

 そこから政治家連中を催眠し、元の世界の情報を集めさせようと…」

「なるほど…」

やっぱりこの子は、大事なもののためには

小さな悪いことを許容してしまうタイプのようだ

催眠魔法なんていうチートスキルを持ってしまったら、そうもなるか…


「美遊様はなぜか色々ご存じですけど…ひょっとして

 元の世界に戻る方法も、ご存じだったりしますの?!」

「いや、それはわからないけど、安心して」

大切なもののためには、悪いことをするしかない時もあるだろう

けど、少なくとも今回は、彼女が悪いことをしなくてもいい…!


「プリンセスは無事に、レイシィの仇も、諸悪の根源も倒したよ」

「ほんとですの?!」

「…うん」

「よ…よかったですわ……」

長年の緊張の糸が解けたように、ほっとする麗ちゃん

その優しい顔、浮かぶ涙を見れて、本当によかったと思う

ファンディスクで、登場人物の幸せなその後が見れたような、そんな感じ


「というか、美遊様はなぜそこまで詳しいですの?」

「あー、うん、えっとね……」

うーん…どう話したらいいか、非常に悩むけど…

いいか、正直に言っちゃおう


「君たちの冒険がね、ゲームになってるんだ」

「………………………はい?」

驚いた声をあげる麗ちゃん

まあ、無理もない

あたしだって、自分の人生がゲームになった、なんて聞かされたら、目が飛び出るくらい…


「……」

あたしはその時まで忘れていた

プリサガはクソゲーだってことを

画面はバグるし、セーブはすぐ消えるし

裏技を使ってクリアしないと、ハードが破壊される面があるし

その中でも特別に面白いバグ


『立ち絵のキャラが、目が飛び出るほど驚くと

 目の位置がずれて、本当に飛び出る』


わからない人に説明すると…

ゲームキャラは、制作の手間を減らすために

目を閉じたり開けたりする時、福笑いのように、のっぺらぼうの顔の上に

『閉じた目』『開けた目』を乗せて表現するのだ

その目の位置が、ゲーム制作側の不手際で、まさに福笑いのようにずれることがある

プリサガの場合、『すごく驚いた時の目』が、前方にずれてしまうのだ

美形たちの顔が一瞬で崩壊するこのバグは

クソゲー愛好家たちにひと時の安らぎを与えたとか


何でこんな話をしたかというと…わかるでしょ?

驚いた麗ちゃんの顔から、ゲームと同じように目が飛び出していた


「ぶふーっ!」

思わず吹き出すあたし


「ど、どうしましたの?!先ほどの争いで、お腹を痛めましたの?!」

「い、いや、違うんだけど…ぶーっ!」

だ、だめだ…一旦飛び出ると、しばらくどんな目をしても飛び出たまんまなんだよね

どういうプログラムしてるんだよ…?!

というか、現実でこのバグ見せられるとは…!


「ご、ごめん、ちょっとトイレ行ってくる…!」

「わ、わかりましたわ…」

申し訳なさそうな顔をしつつ見送りしてくれる麗ちゃん

たぶん『傷が痛むのでしょうか、わたくしのせいで…』

とか心配してくれてるんだろうけど

その顔も目が飛び出てるから、面白顔になっちゃってて…!


し、しばらくしてから戻ろう…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る