第10話 いいくるめ!イケメンと用務員さんと令嬢とあたし

「あ、起きましたわ!」

「よかった…なかなか目を覚まさないから、どうしようかと思ったじゃん」

ベッドに寝かせていたイケメン生徒会長が目を覚ました


「…あれ…?ここは…」

「ここは保健室ですわ」

あの後、イケメンは保健室に、用務員さんは用務員室に運んだ

用務員さんはまだ猶予があるが、イケメンは早く家に帰ってもらわないと

親御さんが心配するだろうし


「じ、実はわたくしが、会長様に…」

「実はこの子がさ…生徒会室に忍び込んで」

「…え?」

麗ちゃんは正直に謝ろうとしたんだろうけど…ごめんね

ちょっと横やりを入れさせてもらうよ


「それをイケメンに見つかって、慌てて逃げようとしたらぶつかっちゃって

 イケメンが転んで気を失ったまま、起きてこないんでどうしようって事になって」

あたしってこんなに嘘が上手かったっけ?

なんかペラペラ喋れるぞ


「わ、わたくしそれで美遊様に手伝ってもらって、とりあえず会長様を保健室のベッドに…」

「そんなことあったかな…?」

「覚えてない?」

覚えてる訳ないんだけど、あえてこう言おう


「うーん、覚えてないけど…かわいいレディのいたずらなら、笑って許すよ」

そう言って、麗ちゃんの頭をなでなでするイケメン

疑問はちょっと残るけど、飲み込んでくれるようだ

ありがとう…会長はホントにイケメンだよ


「ほ、本当に申し訳ありませんでしたわ」

「…おっと、もう9時じゃないか…ボクは急いで家に帰るよ」

周りの暗さに気づいて、保健室の時計を見て、慌てだすイケメン


「二人も、家に早く帰るんだよ」

「は、はいですわ!」

「じゃあまたね!」

会長は、あたしがそばに置いておいたカバンを持って、足早に保健室を出て行った


「美遊様…何であんな作り話を」

「正直に話しても、たぶん信じてもらえないよ」

「う、確かにそれはそうかも…」

「あたしが勝手に話したことだから、麗ちゃんは悪くないよ」

彼女には気に病むことなく、第二の人生を歩んで欲しい

プリサガファンの勝手な願いだけど

続編で前作のキャラが不幸になる展開とか、見たくないんだよ!

ねえ、あのゲームとかあのゲームとかさあ!


「今度またお詫びにお茶菓子持っていこう。お金はあたしが出すからさ」

「そ、そんな…悪いですわ」

「いいのいいの。それぐらい、お姉さんに甘えなさい」

麗ちゃんをぎゅーっと抱きしめる


「はぅ…い、いえ、わたくしは美遊様のクラスメイトなのですわ…

 決して年下などでは…」

今は反発もなく、素直に抱きしめられてくれる

彼女のぬくもりが普段より暖かい…そんな気がした


「それはそうと…今から用務員室に寝かせてる用務員さんにも

 同じ流れでいくからね」

イケメンと用務員さんが、お互いに会って話して今夜のことを怪しむ

…なんて機会は無いだろうし、たぶん大丈夫


「それが終わったら解散!家帰って寝よう!」

「は、はいですわー!」

あたしも麗ちゃんも疲労でぐったりしてきたけど、もうひと踏ん張りだ!





「…ふぅ…たいへんな一日でしたわね…」

わたくしは、自分のベッドの上に倒れるように寝転がりましたわ


「まあ、全部わたくしのせいなのですが…」

プリンセスと黒幕との対決

冷静になれば、もう終わってるだろうことは、想像できたはずでしたわ

ゲームになっているのは驚きでしたが…

まあ、勇者の活躍が本にまとめられてるのと同じですわね


カチ、カチ、カチ…

時計の音が静かな部屋に響く


転生先の来知家は、両親が共働きで

残業も多くて夜遅くにしか帰ってこない事が多い

思うところはあったが、おかげで今回は、両親の帰宅前に帰ってこれた


「…悪いことはできないものですわね」

一度目は父の仇を討つため

二度目はプリンセスのため

わたくしの才能…禁断の催眠魔法を使う

わたくしの正義は、わたくしだけが知っていればいい

たとえ世間から悪と蔑まれようとも

…そう、思っていた…のに


『あたしは!知ってる!』

『レイシィが!仇討のために!悪女を!演じていたのを!』

美遊様が、知ってくれたのを思い出す


『本当は!罪悪感に!苛まれている!ことも!』

美遊様が、理解してくれたのを思い出す


『だから!あたしが!』

『止める!』

美遊様が、止めてくれたのを…


「んあー!なんなんですのなんなんですの?!」

なんだかわからない衝動に駆られて、枕をぽふぽふと叩くわたくし


「さっきから美遊様の声が、頭の中をぐるぐると…」

顔が熱い

今日は、頑張りすぎたせいでしょうか

心は令嬢時代に戻っても、身体はまだ幼い少女なのですわ

体調管理には気を付けませんと…


「…美遊さまぁ…」

枕をぎゅっと抱きしめる

そんなこんなを考えながら、わたくしはいつの間にか眠りに落ちていました

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