第2話 セナ・リンゴ

「スッゾコラー!」恐ろしいヤクザスラングと共に、ヤクザの握る拳銃から弾丸が発射された。耳をつんざく轟音が鳴り響き、鉛玉がセナの身を隠す幅広のコンクリート製車止めを容赦なく抉る。


「めちゃくちゃやってくれちゃって」セナはぼやきながら、ヤクザに向けて狙いをつけた。手に握られているは、愛用の四十五口径マシンピストル。それを彼女は片手で撃った。弾倉に込められていた十五発の弾丸が一瞬で吐き出される。三十メートル先にいるヤクザ二人に全弾命中。ブルズアイ! 常人では反動で当てることすら困難だろう。だが彼女は苦も無くそれをやってのけた。なんたる剛腕と射撃能力か! すべては高度に機械化された彼女の肉体の為せる技である!


「オバサン、開いたよ!」中華料理屋の厨房へと通じる扉の方から、少年の声がセナに呼びかける。

「誰がオバサンだ!」セナは異議を唱えながら拳銃に弾丸を再装填。少年の方へと移動する。その時、拳大の金属塊が背後に飛び込んできた。手りゅう弾だ!

「入んな!」セナと少年は中華料理屋へと滑り込み、扉を閉めた。次いで外からはくぐもった爆発音。間一髪!


 二人は驚いた表情で見てくる料理人たちを無視し、店内を抜けて大通りへと出た。「手を握っていて」セナは少年の手を握り自分の方へと寄せた。


「止めてよオバサン。……恥ずかしいから」少年が頬を赤らめて抗議する。だがセナが構うことはない。「誰も気にしないから大丈夫。それよりもこんな人混みの中ではぐれる方が問題よ。我慢しなさい」そう言って、身を離そうとする少年の体を自分の腰のあたりに押し付けて、人混みを抜けるために歩みを進めた。


〈なるべく早く繫華街から離れないと。ここはまだヤクザの縄張り。二メートル高身長にジーンズと黒ジャケットでキメた黒髪短髪美人と、手術衣みたいな服を着たほとんど違法行為な生意気美少年なんて、いやでも目立つ〉探偵兼個人傭兵であるセナ・リンゴはうぬぼれが強かった。〈あのクソあほ野郎。まったく話が違うじゃない。絶対に追加料金とってやる〉セナは、傍らの少年を守ることになった経緯を思い返した。

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