第18話

 いつものように、しょうたくんの所へ行く

 コンビニのカステラを一つ渡してお話タイム。

 頭のないしょうたくんは話せないけど、俺はベラベラ一方的に喋る。

 一度ちゃんと「ウザかったらやめるけど」って聞いたら、そんなことないよって両手を振ったので大丈夫だと思う。


「双子に殺されまくってさー。準備はできたんだけどさー、このまま殺しちゃっていいのかなーって」


 するとしょうたくんは、ずんぐりした装置をカバンから出してきた。

 ゲームーイ。

 調べたら1989年発売。

 大昔のゲーム機のようだ。

 しょうたくんが買ってもらえたとは思えないので、過去のプレイヤーの誰かがあげたのだろう。

 え、電池式? 単三電池あったかな……え? 電源アダプターあるの?

 外の洗濯機用の電源にACアダプターを差してスイッチを入れる。

 白黒の画面が表示される。

 画質は悪く画面がハッキリしない。真っ黒だ。

 俺が子どものころ持っていたニンテンドーDSとは大違いだ。

 え? 横のダイヤルで濃さを設定。あ、ホントだ。

 ゲーム機はカートリッジ式。

 年代を考えるとダウンロード版はおそらくない。

 カートリッジは黒く変色していてなんのゲームかわからない。

 画面は砂嵐を表示したと思ったら、映像が流れる。

 うん? 荒くてよくわからないけどカメラの映像?

 駐輪場みたいなところが映っている。

 白飛びしまくってるな……え? 4階調しかないの? 了解。

 見ていると双子が映った。


「もういやだ! 人なんて殺したくない!!!」


 姉が叫んだ。

 音が割れたキーンという音が鳴る。


「せっかく友だちが出来たのに!!! 何度も殺すなんて!!!」


 俺のことか?

 それとも美海あたりが友だちフラグを立てたのか?

 そんな姉に妹が冷徹に言い放つ。


「まがつ様に逆らったりしたら……死ぬこともできず永遠に奴隷のままですわ」


「わかってる! わかってるけど……もう嫌だ……もう死にたい」


「もう何十年言ってますの! あいつらを始末してもらった代わりに、まがつ様の人形になるって望んだのは私たちですわ。それに死んでも地獄に行くだけですわ!!!」


「このままじゃ地獄すら行けないじゃない! だいたい、お母さんの顔思い出せる!? 思い出せないでしょ!!!」


「あんなクソババアのことなんて知らねえよ!!! 姉様! あんな野郎の所に私たちを置き去りにしたのはあいつだろ!!!」


「ああ、そうだよ! でもアタシたちを犯したのは親父だろ! お母さんじゃねえよ!!!」


「同じだろ! だからアタシはあいつも殺してくれってまがつさまに……もうアタシたちは引き返せねえとこまできてんだよ!!!」


「だから死にてえって言ってんだよ!!! 誰か助けてくれよ……もう嫌だよ……」


「ぐだぐだ言ってねえで殺りに行きますわよ! また、あいつが侵入してきましたよ!」


「あんたさあ、考えないの? もしかしたらアイツみたいなのと結婚して子どもいたかもしれないとかさ!」


 すると妹が姉の頬を叩いた。


「……笑わせんな。8歳でクスリ漬け、誰にでも股開くアタシたちが結婚? バカじゃねえの? お前さあ、アタシたちがあと何年生きられたと思ってんの? 国が助けてくれる? は!? 村長のも警察署長のも知ってるあんたがよく言うわ! この豚!!!」


 姉のすすり泣く声が聞こえる。


「あー、やだやだ。ホント、あんた嫌い! いつもいつも、クスリキメてさんざんよがった後にべそべそ泣いて! あーもう、うざい! さっさと死ねばいいよ! ……あ、いいこと考えた。アンタがやらしいクズだってお兄さんに詳しく教えてやろうか!」


「やめて……やめてよ……」


「じゃあ殺せよ!!! さっさと殺しに行くぞ!!!」


 俺は電源を切る。

 見てられない。

 俺は自分で食べようと思ってたクリームパンをしょうたくんに渡す。


「ありがとう……食欲なくなったんで食べて」


 しょうたくんはうれしそうにした。

 殺伐としすぎやしませんかね?

 いやホント、しょうたくんだけが癒しだわ。


「しょうたくん決心がついたわ。あいつら楽にしてやる」


 そう言ってしょうたくんと別れる。

 問題は殺しても彼女らが許してもらえるか。

 因果を変えて復活とかありえそうだからな。

 考えてもしかたない。

 戦ってから考えよう。


「おっす」


 挨拶をすると姉がにらんできた。

 きっと俺が来るまで泣いてたんだろう。

 俺は距離を取りながら土のある広場に行く。

 きっとキャッチボールくらいはできた土地だろう。

 今と違い野球をしなければ人権のなかった時代だったようだからな。


「お姉様、気を付けてください! あいつ、なにか企んでますわ」


「わかってますわ!」


 俺はすっと体を引く。

 広場の土が跳ねた。

 実はもう慣れていた。

 彼女らのワイヤーのスピードに。

 鞭状の剣っていうのは歴史上何度も出てきたものだ。

 だがメインウエポンになることはない。

 現在ではカラリパヤットくらいだろう。

 鎖鎌なんかと同じだ。

 弱いわけじゃない。

 だが、なにか致命的な弱点があるのだ。

 携行性が悪い。

 取り回しが悪い。

 遠征するには重すぎる。

 集団戦で同士討ちしてしまう。

 例えば重量。

 だいたいの軍隊で携行物も含めて装備は40キロくらい。

 60キロを超えると栄養状態がよく科学的トレーニングをしているアメリカ軍でもパフォーマンスが下がる。

 アメリカ軍のデータでは重量が50キロを超えると体になんらかの異常が出る可能性が跳ね上がる。

 イラク戦争では装備による怪我が戦闘の2倍もあったらしい。

 人の肉体は鍛えても限界があるのだ。

 あのワイヤーは建設用。

 双子がなんらかの化け物だったとしても扱いきれるものではない。

 俺はわざと双子に挟み込まれ位置に移動する。

 上から姉のワイヤーがやってくる。

 それをひょいっと避ける。


「危なッ! なにやってますの!? お姉様!!!」


「だってこいつ逃げるから……」


 要するにそういうことだ。

 こういう鞭のような武器は集団戦で味方を巻き込む可能性がとてつもなく高い。

 だから廃れたのだ。

 俺は即座に姉の前に立つ。

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