第17話

「ぎゃあああああああああああああッ!」


 20回ほど殺されると断末魔に叫ぶ余裕もできた。

 上から真っ二つは脳幹壊されるので一瞬で意識がなくなる。

 意外に人道的である。

 頭がつぶされないで首を飛ばされると「あうあうあうーぶぶぶぶー」と勝手に口から音が出て呼吸ができないので結構苦しい。

 それよりも嫌なのが下っ腹に穴を開けられること。

 かなり苦しい。

 死ぬほど痛い。

 慣れてくると意識が飛ばないので一番痛いと思う。

 機嫌がよければ頭を壊してくれるので双子は優しいのでは?

 足から丸かじりはビジュアル的にも苦しいに違いない。

 そう考えるとファラリスの雄牛だけは体験したくない。

 20回挑戦するのに約7日。

 化け物が大量に襲ってくるホードは発生してない。

 王さんが言うには「攻略ガチ勢の頭おかしいやつが死にまくってるから神様が満足してるのだろう」だって。

 ひどい評価である。

 さて今日も双子と遊びに団地へ。


「ういーっす。お菓子持ってきたぞ」


「死ね!!!」


 姉が怒鳴る。

 だが、いきなり攻撃してこない。

 それだけ好感度が上がったのだと思う。


「今日はなんですか?」


 妹が聞く。


「駄菓子の詰め合わせ」


「姉様の好物ですわ」


「妹!!! お前! 速く武器構えろ!!!」


「へいへい」


 正直言って、今のところ双子に勝てる見込みはない。

 一太刀すら浴びせられたことはない。

 パイセンも美海も出会ったら死亡確定らしい。

 だが格上の相手であっても何度も闘えば癖が見えてくる。

 最初の一撃で死んでた俺も、数分はもつようになった。

 防御に専念すれば。だが。

 だがこうも毎日顔を合わせて何度も殺されてみると多少の情がわく。

 彼女らは客を取らされて、そして殺された犠牲者だろう。

 それをいきなり殺すというのも、なにか違うような気がする。

 だが俺は霊能者でも警察でもないわけで……。


「なに見てやがる。私たちが怖くないのか!?」


 姉が吐き捨てた。


「いや全然」


「なんだと!!!」


「あのな。恐怖ってのはな基本的に話が通じないか、話が通じても会話が成り立たないかじゃないと怖くねえんだわ」


 他にも人間の業を見せつけるってもあるが、それはいったん置こう。


「雑談に応じてくれて、それなりに話が通じて、怒って俺を殺すようなやつのどこが怖い?」


「貴様……なにを……」


「妹ちゃんの方は理由なく俺をバラバラにしてるだけお前より怖いな。少なくともお前は怖くない」


「おい! 今すぐ殺してやるからな! 構えろ!!!」


「姉様、こいつのペースに乗せられてます」


「お前らを殺した大人。酒飲んで暴れたり、いきなりひどいことしたり。お前を殴ったときに喜んでただろ? その話が通じない状態。常識外の世界、それが不条理。それが恐怖だ」


「て、てめえ!」


 ぱーんっと頭が割れた。

 とうとうキレやがったな。

 たく、やめろよ。

 こちとら慣れすぎてショック死しねえんだよ。

 意識を失う前に吐き捨てる。


「お前らはなぜ俺たちを狩っているか思い出せ。約束だぞ」


「うるさい!」


 ぐちゃりと首ごと踏み潰された。

 相当焦ってやがるな。

 ホームセンターに戻ってくる。


「よう、戻ったか」


 パイセンと美海が待っていた。


「ひどい顔だよ」


「そりゃ頭つぶされたからな」


「どうせお前のことだ。あの双子と話し合おうとか無駄な努力してるんだろ?」


「無駄かどうかはわからん。会話に成功した。雑談には応じる」


「警察の取り調べかよ」


「バカじゃないの……」


「で、なんだっけ? あの双子の素性」


「ああ、昭和の終わりごろに売春させられて客になぶり殺しにされたっぽい」


「そういうのやめて! で、誰を恨んでるの?」


 美海に怒られた。

 そりゃ気持ちのいい話ではないよな。


「それがな。どうも誰を殺したいかも忘れてるっぽい。自分が村人になにされたかは憶えてて、俺たちを殺さなきゃって思ってるらしいけどな」


「この村に秘密でもあるのか?」


「パイセン、この間の儀式のとき。後ろに気づいた?」


「なにが?」


「花が咲いてた」


「何言ってんだお前?」


芥子けしだ。パイセン」


「麻薬……ヘロインか?」


「ああ、だけど外国みたいに大規模農業やってるわけじゃない。モルヒネとかヘロイン作って外に売るほど作ってるかはわからん。精製しないでアヘンのまま儀式に使ったのかもしれない」


「……和也、ちょっと詳しすぎない? 引くんだけど」


「犯罪学の授業の余談で講師が言ってたの。精製すると芥子の汁が2割にまで減るんだってさ」


「無駄金親に払わせてやがると思ってたが……たまには役に立つんだな」


「パイセン。ひどくない?」


「にしても……津軽のお座敷で所望した一粒金丹か。笑えねえな」


「なんだそれ?」


「江戸時代は普通に売ってたらしいってことだ」


「よく滅びなかったな……日本」


「昔は高級品で庶民にゃ手が出なかったんだよ。安くなって蔓延しまくって必死になって撲滅したのが現代ってことだ。それ考えるとやりたい放題だな。この村」


「それな。ガキとやり放題、麻薬やり放題、殺し放題。地獄かな?」


「この村に生まれたガキには地獄だろうな」


「気持ち悪い……」


 美海はすっかり気分を害したようだ。

 そりゃね。

 売春村ですら想像の範囲外だ。

 遊郭ですら物語の中でしか知らない。

 ここまで頭のおかしい村が存在してたのが驚きである。


「それで和也? あの双子はどうする? 和解でもするのか?」


「いやそろそろ決着をつけなきゃなと思ってる」


「殺せるの?」


 美海に聞かれるが……。

 正直に言うしかないか。


「あと数回死ねば殺せると思う。問題は殺したいと思わないことな」


「なに言ってんのお前」


 あの頭のおかしい神が、双子をあえて配置したのは……なにかの嫌がらせだと思う。

 あの性格の悪さ。

 殺すといきなりゲームオーバーで人類絶滅エンドとか。

 いやそれはないか。

 ゲームなのだからギリギリ攻略できるようにしてるはずだ。

 なるべくなら神の裏をかきたい。

 さあどうするか?

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