第16話

「ぐぎゃあああああああああッ!」


 真っ二つ。


「ぐあああああああああッ!」


 内臓を自分で持ちながら絶叫。

 上半身と下半身が別れて声も出せずにブラックアウト。

 何回も死ぬと痛みにも慣れてくる。

 いいかげん盾を持って出陣。

 パイセンと美海と来たはずなのに入り口でバラバラになるのは仕様らしい。

 今回はインドの盾パリッチャ。

 円形の盾で真ん中と十字型に五箇所、ドーム状の盛り上がりがある。

 これで直撃を避けて威力を減衰すると教わった。

 とはいえ盾での実戦経験がないのでどこまで出来るかわからない。

 しょうたくんにお菓子を持って行ってボス戦スタート。

 今回の商品はバケツサイズのグミの詰め合わせである。

 しょうたくんには渡したので次は双子。

 中庭に出ると双子が待っていた。


「今回の賞品出すからちょっと待てよ」


 賞品を出すと金切り声がする。


「しつこいぞ、お前!!!」


 姉の方が顔を真っ赤にして起こる。

 いつもの謎お嬢さま口調もどこへやら。

 かなり感情的になっている。


「いいじゃん、グミでも食って落ち着けって」


「お前、なんなんだよ! 何度殺しても来やがって!!! 他の連中みたいにあきらめろよ」


「あきらめないよ」


 真顔で言う。


「……なんでだよ」


「いくつか理由がある。一つは脱出して人生を取り戻したいこと。一つはパイセンと美海を助けたいこと。俺は理解した。あの二人は殺し合いにはむいてない。一つは村人への哀れみ。一つは真相を知りたいという興味。そして最後の一つは神が気にくわないこと。お前らみたいなガキに殺しをさせたり、しょうたくんみたいにガキをこんなところに閉じ込めたり、高校生を奴隷にしたり……あの野郎は死ぬべきだ。俺が殺す」


 たぶん二人は怪物は殺しても、ガキや志賀は殺してない。


「は!? 笑わせないでよ!!! あんた何様?」


「さあな」


 俺にもわからん。


「私たちにすら敵わないお前がまがつ様を殺す!? バカにするのもいいかげんにしろ!!!」


「たしかに正気じゃないかもな」


 姉の方がため息をついた。


「わかった……最後までつき合ってやる。お前が亡者になるか私たちが死ぬか。勝負だ!」


 血管を浮かび上がらせて怒鳴る姉。

 それとは対称的に妹は穏やかだった。


「あ、いつもお土産ありがとうございます」


 グミが入ったパッケージを拾いつつ妹が頭を下げた。

 いい子じゃないか。


「なのでなるべく速く殺しますね」


 前言撤回。

 殺意が強い。


「では」


 妹がベンチにグミを置く。

 次の瞬間、姉のワイヤーが飛んできた。

 いままで振り下ろしに振り上げ、それと横薙ぎしかなかったワイヤーによる突き。

 俺は盾で軌道を逸らす。

 いける!

 すぐに妹の斜めの振り下ろし!

 これも盾で軌道を変える。

 いける!

 俺は間合いを詰めた。

 下からの振り上げ。

 こいつは普通に避ける。

 そして姉による横薙ぎ!

 これは盾で受けて。

 ぐちゃっと音がした。

 腕が痛い。

 見ると盾を持っていた腕がなくなっていた。

 盾ごと腕がちぎれたのだ。

 肩口が痛くなったような気がした。

 それも当たり前だ。

 肩から心臓までザックリとワイヤーがめり込んでいた。

 横薙ぎは防げない、と。

 視界がぐらっと落ちていく。

 あっと言う間に世界が暗転した。


「クソ」


 気が付いたらホームセンターでリスポーンしていた。

 いま一歩届かなかった。

 まがつ様はあの二人より強い。

 たしかに、今の腕じゃ勝てないだろう。

 だが強くなるまで修行などとは思わなかった。

 実戦あるのみである。

 にしても……横薙ぎで腕ごと持って行かれるとは思わなかった。

 パイセンも美海もまだがんばってるらしい。

 一人のため村の本物の図書館に行く。

 亡者が司書をしている。

 まだ慣れないので不快感がある。

 マイクロフィルムを見たいが亡者に頼むのは嫌だなあと。

 ……いや……やるしかないか。

 意を決して亡者に話しかける。


「双子の事件の資料を……」


 無言だったがすぐに用意してくれた。

 前にも調べたやつがいるのだろうか?

 マクロフィルムを見る。

 新聞の扱いは小さく、数行の記事だった。


「集団売春グループを摘発」


 20人ほどが逮捕されたこと。

 未成年が保護されたことが書いてあった。

 当時は未成年相手でもこんな扱いのようだ。

 印刷を頼んでっと、え? もう一つあるの?

 もう一つを見ると数日後の新聞だ。


「壁の中から女児の遺体」


 摘発された団地の部屋の壁の中から二人の女児の遺体が出たと書いてある。

 扱いは小さい。

 普通、これほどの事件なら何十年前でも動画投稿サイトやSNSでネタにされてるはずだが……。

 法学部のせいか、こういう事件記事を見ると疑問がわいてくる。

 殺人で一番難しいのは隠蔽だ。

 たとえばよくあるマグロ漁船に乗せて保険金を受け取るとかの噂。

 保険会社の調査力をなめない方がいい。

 同じ業種で事故が何度もあれば調査が入るし、保険を拒否される。

 たとえ会社自体が反社会組織とグルだとしても税金の会計処理ですぐに発覚する。

 自殺の名所に放置する手も検視レベルでバレることが多い。

 被害者が生きてて和解で揉み消すことはできるが、殺人は無理だ。


(まがつ様発生後なら超常現象でなにかもやり放題だろうが……)


 死体の処理は難しく、どうやっても痕跡は残るのだ。

 アメリカで農業用の巨大な粉砕機で処理した例があるがあれも最後は発覚した。

 本気で揉み消すとしたら、大量の血を処理できて臭いがあっても大丈夫な施設が必要だ。

 壁に塗り込むなんて創作でしかあり得ないだろう。

 単純に臭いに耐えられない。

 団地やマンションでやったらすぐに他の住民が異変に気づく。

 マンションで9人殺した事件だって周辺住民は臭いに困っていた。

 アルカリで溶かすのも案外難しい。

 ドラム缶程度じゃ溶液が足りない。

 実際、最初の犯行から2ヶ月ちょいで犯人は逮捕されてる。

 なにが言いたいか?

 要するにミイラにしてから壁の中に放り込んだのだろう。

 ミイラにするには大きな施設が必要と……。

 ……そうか、村ぐるみか。

 子どもを殺した件に関してはわからないが、少なくとも隠蔽はグルだったわけか。

 因習村名物の変な儀式に団地の幼女売春に死体処理……。


「なにやってんだこの村……」

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