第15話
外に出て再戦。
「お姉様いましたわ!」
「いたわ、妹よ!」
俺は待てのジェスチャーをする。
バックパックを開け女児の好きそうな日曜日朝にやってるアニメのグッズを置く。
「くれるのですか、お姉様」
「くれるみたいです、妹よ」
まだこういうのが好きな年齢か。
それで売春させられていたとは……。
やめよ。俺が生まれる前の時代だ。
タイムリープしても50代でギリギリ救えるぐらいか。
どうすることもできん。
考えるのやめよう。
さーて、いきなり戦闘は回避できた。
俺は通路に焼き菓子の缶を置く。
「お姉様、あいつはなにを考えているのですか?」
「わかりません。妹よ」
「二人で分けろ」
そう言って間合いを取る。
「この缶に罠を仕掛けた。というわけですね、お姉様。やらせもしないで男が優しくするはずがありませんわ」
「ええ、罠ですわ。妹よ。やらせもしないのに男が優しいわけありませんわ」
しゅんっと音がした。
またワイヤーロープだ。
今度は先っぽが見えた。
金属の分銅が見えた。
なるほど一撃で頭蓋骨が割れたわけだ。
どごんっとコンクリートが割れた。
このまま間合いをつめて。
「甘いです」
通路のコンクリートを壊しながら分銅が後方から俺に迫ってきた。
ワイヤーロープが俺の体に絡みついた。
ぶちぶちと俺の体が引きちぎられていく。
いままでで一番痛い。
「ちぎれろゴミ!!!」
ぐちゃり、手足そして上半身と下半身がちぎれた。
内臓をぶちまきながら俺は通路に叩きつけられた。
「ではごきげんよう」
姉の高下駄が見えた。
ぐちゃりと俺はつぶされた。
「無理じゃね?」
ホームセンターでリスポーンした俺は、いまさらの無理ゲー感に文句を言う。
「誰も無理だったから攻略に積極的じゃねえんだよ」
「痛えもんな」
今回のはシャレにならなかった。
胴体切断の痛み、神経ぶっこ抜き系だったとは……。
脳があきらめてドバドバ脳内物質出して痛み遮断するレベル。
「痛みを心配するのはお前くらいだ! 普通は死に至る苦しみで心が折れるんだっての!」
「二、三回死ねば慣れるだろ。関節技と同じだろな」
「お前のようなやつが攻略するんだろうな……」
「でさ、盾ある?」
「あるぞ」
盾を選んでると、とうとうパイセンがリスポーンした。
「いてえええええええええええッ!!!」
こりゃ双子に殺されたな。
「おっすパイセン! パイセンがさまよってる間に俺は三回死んだぜ!」
「自慢すんな! おまえどんな死に方した?」
「手足もがれて真っ二つからの頭蓋骨ぶしゃーですな」
「えぐッ! 俺は首の骨折られた」
「パイセン、次は盾持っていこうかなと」
「あんなん盾で防げるのか?」
「ウルミみたいにいけるんじゃないかなあ。パイセンは?」
「俺は今日はやめとく。精神に来るぜ。それに美海も待たなきゃな」
30分後、今度は美海がリスポーンした。
「結局、双子につかまって……真っ二つに……もう10回死んでる」
「俺もだ。見つかったら最後、逃げるのも難しい……」
あん?
「二人とも回避してるの?」
「当たり前だろ。あんなの相手にしてられん」
「そうだよ! 和也! 勝てる気がしないよ!」
「えー、あの二人ちゃんと処理しないとダメだと思うんだよなあ」
すると二人とも頭を抱える。
「それができるなら困らない!」
そうっすか。
椅子に座ってたばこを吸っていた王が口を開く。
「今日はやめておけ。宿を取りにいきつつ、神社に行くぞ」
「宿はわかるけど、神社?」
「攻略する気があるなら見ておけ」
そう言われて宿に案内される。
宿はホテルというか、海外映画にありがちなモーテルだった。
王が古いホテルにありがちな長いプラスチックのキーホルダーがついた鍵をくるくる回しながら言った。
「もともとラブホテルを改修した施設らしい」
「急に汚く見えてきた……」
「内装は昭和だがきれいだぞ」
中に入ると亡者が受付にいた。
「お、おおおおおお、お泊まりですか?」
「部屋三つ」
「かかかかかかか鍵」
三つ鍵をもらう。
「じゃあ荷物置いてこい。特に和也。おまえ荷物持ちすぎなんだよ」
俺のバックパックはすでにしょうたくんと双子へのプレゼントでパンパンだった。
部屋に入ると部屋は和風の内装だった。
テレビは社会科の教科書で見たブラウン管テレビ。
へえ、本当に存在したのか。
電源を入れると公共放送しか映らなかった。
だがよく見ると出演者は知らない人ばかり。
画質も汚い。
しばらく見て、出演者が大御所俳優の数十年前の姿だとわかった。
なるほど。昭和の番組しかやってないのか。
すぐに消してロビーに行く。
いつぞやダンジョン化した団地の庭で見たパイセンの姿だった。
なるほど着替えるとあの姿になるのか。
つまりあのパイセンは未来のパイセンか。
「遅いぞ」
「パイセン、テレビ昭和だった」
「ああ、出演者の大半が死んでるな」
勘弁してくれよ。
王がたばこを吸いながらゲラゲラ笑う。
「つまんねえよな!」
まったくである。
で、中身のない雑談をしてると美海が来た。
こっちも私服に着替えてた。
「よし、女子も来たし神社行くぞ」
みんなで神社に向かう。
王は神社のフェンスの金網が取れた箇所に案内する。
「ここから入るぞ」
言われるままに神社の敷地に侵入。
神社の雑木林を通り本殿が見える位置まで来る。
王は人差し指を唇に当て「静かに」とジェスチャーした。
「見ろ」
王の指の先に亡者の集団がいた。
昭和の格好だろうか。
それが鎌や鉈を振り上げ歌っていた。
「殺せ~殺せ~
気持ちの悪い歌。
その歌に合わせて亡者が踊り出す。
そのまま王と外に出た。
「言っただろ。プレイヤーの戦いは奉納だ。まがつ様へのな」
「まがつ様を楽しませたプレイヤーには最大限の優遇を。面白くなきゃ雑に殺され続けて亡者入りだ」
「じゃあ俺はダメか……」
双子に殺されまくってるしな。
「いいや。神はお前が死ぬところを楽しんでると思うぞ」
「クソが!」
俺は毒づいて道路の石を蹴る。
美海はなにか考えていた。
「まがつ様ってなんなの?」
「さあな。だがくそ野郎なのはわかる」
王はふふっと笑った。
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