第14話

 神崎と別れる。

 気持ち悪いやつだったが、支払いをしてくれたのでよしとする。

 王とホームセンターに戻ろうとすると美海のクラスメイトの女子が歩いていた。

 俺が見たのは遺体だけだがそれでもすぐにわかった。

 よかった。

 リスポーンできたのか!

 近づくとなにかがおかしい。


「あ、あ、あ、あ、あ、あ、ありが、とう、ごごごごごございます」


「お、おい、大丈夫か?」


 王は俺の肩をつかみ振り向かせる。


「無駄だ。心が折れた者はああなる。カフェで見ただろ」


 ふらふらと女子生徒はレストランに入っていく。

 働いているのだろう。


「和也。いいか。死を経験して心が折れないのはよほどの覚悟があるか、頭がおかしいかだ」


「待て待て待て、俺が、頭おかしい?」


「少なくとも戦闘狂ではあるだろうな」


「はあ? バカじゃねえの?」


「いいかげん自分を受け入れろ。普通の人間は一、二回殺されたら神崎のように神に下るか、廃人になる。おまえも……俺もだが人が神を殺せると考えてる時点で普通の人間じゃない」


「なるべくラブ&ピースで帰してくれたら殺さないでやってもいいが?」


「ふ、笑えるな」


「それで、和也。なにか必要なものはあるか?」


「あー、そうだな。バックパックと武器と……ぬいぐるみかな」


「はッ?」


 バックパックを登山用の大きなものに交換する。

 そしたらぬいぐるみが売ってそうなお店へ。

 死んだ魚の目をしてブツブツつぶやく店員がいた。

 熊のぬいぐるみを二つ購入。

 バックパックに入れてホームセンターへ。

 今回は大刀とマチェーテを持って団地へ。


「おまえはバカなのか?」


 王はそんな俺を見てあきれる。


「リスポーン後すぐに挑戦するバカは初めて見た」


「いや、記憶が無事なうちに思いつきを実践しようかと」


 次も記憶があるとは限らない。

 だから頭で憶えてるうちに試す。


「なにをする?」


「口説いてくる」


 そう言って俺は団地に消えた。

 今度は中庭に転送された。

 毎回スタート地点が違うのか。

 目指すのは四号棟。

 白い化け物が何匹も見えた。

 後ろから近づいてまずは一匹!

 後ろからマチェーテで斬りつける。

 やっぱ日本刀もいいけど片手剣だよね!

 攻撃なんかさせない。

 近くにいた化け物の脇腹を切る。

 突き刺してもいいけど筋肉がしまって抜けなくなると嫌だよねっと!

 剣を持った化け物が俺に襲いかかる。

 だが俺の方が速い。

 頭めがけて剣を振り下ろす。

 頭蓋骨ごと頭を破壊する。

 そのまま怪物の死体を蹴って後ろの怪物にぶち当て転倒させる。

 今度は横から来た化け物が斧を振りかぶった。

 指めがけて剣を振る。

 ボトボトと怪物の指が落ちた。

 ガラ空きの胴体に剣をぶち込む。

 腹が避け調がドロンと飛び出た。

 最後に起き上がろうとした怪物の首筋に剣を叩き込んで終了。

 なにもさせなかった。

 それに頭蓋骨も一撃で粉砕した。

 ふう、腕が上がったとかじゃない。

 明らかに筋力も技術も上がっている。

 いやむしろ超人的だ。

 レベルアップの概念が存在するのか……。

 さて、そろそろ来るんじゃないかな。


「侵入者です。お姉様」


「侵入者です。妹よ」


 さーて、作戦開始だ。


「おいっす!」


 ひゅんっと音がした。

 俺は音がするよりも速くサイドステップでそれをかわす。

 それは上から来ていた。

 見えた!

 金属製のワイヤーロープだ。

 それを恐ろしい力で姉の方がぶん回している。

 後方でアスファルトが破壊された音がした。

 インド武術カラリパヤット。

 特に北派で使われる鞭状の剣ウルミと速度と発想は同じ。

 先端が音速を超える鞭の間合いと速度で剣の利便性を持った武器。

 だがワイヤーはそれよりも小さく、重い。

 すぐに第2弾が来た。

 今度は妹。

 横薙ぎ。

 俺は剣でそれを叩き落とした……と思った瞬間、先端が俺の顔面を捉え、俺の肋骨をぶちゅりと破壊した。

 かなり痛い!

 ああ、内臓までいったわこれ。

 最後の力でバックパックを投げ指をさす。


「プレゼント」


「うるさいです」


 ぶちゅっと頭蓋骨をつぶされた。

 あ、これ、シャレにならないくらい痛い。


 最後に聞こえた声は「わあ、姉様熊さんです」だった。


 気がつくといつものホームセンター。

 腕を見るが数字は減ってない。

 なんだいいかげんだな。

 傍らでは王がたばこを吸っていた。


「やけに速いな」


「おう、王さんよ。金貸して」


 もう俺の財布の残量は少ない。


「アホか。コンビニ行くぞ」


 コンビニのATMで残高確認する。

 口座の残高がとんでもないことになっていた。

 サラリーマンの人生分。


「金は使い放題だ。出られないがな」


「はあ……了解」


 現金を下ろしておもちゃ屋へ。

 女児の好きそうなおもちゃを買って外に……ついでにしょうたくんへのお土産も買っておこう。


「化け物のためにおもちゃを買うやつなんて初めて見たぞ」


 王は不満そうだが気にしない。

 これは俺の作戦である。


「いいんだっての」


 ついでに洋菓子の店へ。

 クッキーなどの焼き菓子の詰め合わせを二つ買う。

 あの姉妹としょうたくんの分だ。


「おまえはなにを考えてる?」


 王があきれかえるが俺はいたって冷静だった。


「なあ王さん、神崎が言ってただろ。優しく殺せって」


「ああ、言ってたな。どうやっても難しいだろがな」


「それ以前に失敗したやつのセリフだから信用できない」


「それで?」


「だから話し合いができる程度に好感度を稼ぐ」


「和也……おまえバカなのか?」


「よく言われる。ま、しばらくやってみるわ」


 さーて、また団地に行きますかね。

 団地に行くと今度はしょうたくんの棟にたどり着いた。

 エレベーターで三階に行くとしょうたくんがいた。


「いよ、来たぜ」


 焼き菓子とおもちゃを渡す。

 完全に憶えられたのか喜んでくれる。

 次は双子。

 がんばって死んできますかね。

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