第4話 厄災サイノス

 シーライザは言っていた。

 私達の命を狙うのは、サイノスを封じるためだと。封じる方法まではわからないけど……とにかく、命を狙う理由はわかった。

 そして、サイノスの事だけど……。


「みんな、どこまで知っている?」


 私は、みんなに訊ねた。


「御伽話だと思っていたわ」


 と、これはファルシア。


「世界にふりそそぐ災い……としか」


 と、これはヒサク。


「何百年か前に、一度起こったとか起ってないとか」


 と、これはコハク。


「おそらく、500年ほど前ですね。一度人類が滅んでいるらしくて、記録があまり残されていないのですが……」


 と、これはシオン。


 まさしく、小説に書かれたとおりだった。

 でも、この小説はまだ完結しておらず、私もサイノスを封じる方法は知らない。その方法を見つけなければ、ヒイロとヒサクは、ずっと命を狙われる事になるだろう。


 つまり……。

 意図せずともまたシーライザに会えるって事なのよね!


「ヒイロ、どうした? ニヤニヤして」


 ヒサクに言われて、我にかえる。

 いけないいけない! 出会ったら今度こそ、本当に命を取られるわ。気を取り直して、シオンに訊ねる。


「シオン、サイノスについて書かれた資料はあるの?」


「実は……、過去にあったそうなんですが、紛失したようなんです。もしかしたら、盗まれたのかもしれません……。でも、もう20年近く見当たらないそうで……」


「20年も……?」


 ちょっと待って。小説には書かれていない情報だわ。

 より詳しい情報なのか、それとも物語自体が変わってしまったのか、判断がつかない。

 ああああ、ここにサイノスの小説があったなら! 読み返して情報整理できるのに!


「とにかく!」


 話を聞いていたファルシアが叫んだ。


「サイノスを封じる他の方法を探さないと、ヒサク様とヒイロが、またシーライザに狙われちゃうんでしょっ? じゃあ、探すしかないじゃない!」


 ファルシアが、単純明快にまとめた。


「そうは言っても、どうやって探すんだ? 頼みの綱の資料は紛失、サイノスの存在は、ほとんどの人が御伽話だと思ってる」


 コハクが、お手上げ状態だ、と肩をすくめた。


「手がかりが少な過ぎますね……。何か、とっかかりがあれば……」


 シオンも、腕を組んで考えている。


「……ラグアノーア」


 ぽつりと、ヒサクが呟いた。


「俺達の故郷、ラグアノーアへ行けば、何かわかるかもしれない」


「ちょっと待て……。もしかして、シーライザに滅ぼされたっていう……。おまえ達、行って大丈夫なのか……?」


 事情を知っているコハクが、心配してくれた。


「大丈夫かと言われると自信はないが……。しかし、村のみんなの弔いもしなければならないしな」


 ヒイロとヒサクは、村でシーライザに襲われてから、一度も村に帰った事がない。収容所に軟禁され、帰ろうにも帰れなかったのだ。約5年ぶりに村へ帰れるわけだけど……、おそらくヒサクは、今の村の状況を知らない。ヒイロも知るはずがないので、ここは私も、言葉を選ぶ必要がある。小説では、なんて言ってたかな……?


「そうだね、まずはみんなの弔いをしたい。サイノスの事は、その次でいいかな……?」


「まあ、ヒイロとヒサクがそれでいいなら、俺達は何も言わないさ」


「そうそう。二人の事なんだから」


「では、決まったところで。でも、出発はちょっと待ってもらえますか?」


「どうしたんだ、シオン?」


「数日ください。陛下と大臣にサイノスの事を話し、情報収集のためにおふれを出してもらいます。紛失したサイノスの資料も、出てくるかもしれません」


 すごい! 国中を動かしちゃうんだ!

 いろいろと問題も出てきそうだけど、今はなんでもいいから情報が欲しいものね。


「俺は、今から準備をしますので、コハク。みなさんの部屋と、城の案内をお願いしていいですか?」


「ああ、わかった」


 コハクの案内で、私達は客室に案内された。

 コハクとヒサク、私とファルシアに分かれて、それぞれ一休みする事になった。

 ファルシアは、部屋を見るなり大興奮だった。


「すっご〜い! さすがお城の部屋ね! あたし、こんなの初めて!」


 と言いながら、ふかふかのベッドにダイブする。

 私も、こんな豪華な部屋は初めてだ。ホテルのスイートルームに泊まれば、こんな感じなのだろうか?

 この世界に転生してきて、初めてゆっくりできた気がする。

 推しに命を狙われて、そこから逃げて、サイノスの事で悩んで……。

 まだまだ問題はたくさんあるけれど、今はゆっくり休もう……。





「ねー、ヒイロってさー」


 ファルシアが話しかけたが、ヒイロは疲労でソファに座ったままうたた寝してしまった。


「あらら。そりゃまあ、疲れるよねぇ……」


 ファルシアは、ヒイロに毛布をかける。


「あたしじゃ力不足かもしれないけど……。ヒイロとヒサク様は絶対に殺させない……。殺させないんだから……」


 ファルシアの声は、誰の耳にも届かないまま消えた。





 夢を、見ていた。

 現実と夢の狭間。サイノスのキャラクターがみんな、私の勤める病院の先輩医師。その中には、シーライザもいた。

 夢の中のシーライザは、ぶっきらぼうだけど優しく頼りになる先輩だった。

 これが、現実だったらいいのに……。


「ふふふ……」


 私は、笑いながら寝ていた。

 いつまでも、幸せな夢が続きますように……。

 




「なによ、びっくりしたー。寝言かぁ……」


 隣でお茶を飲んでいたファルシアが、ヒイロの頬をつつく。


「さてと。ヒイロが寝ている間に、あたしはあたしの仕事をしますか」


 ファルシアは、誰にも告げず、その部屋を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る