騎士爵領立志編3ー12
助かった・・? トリスタが先程までいた場所には、魔力を纏い拳を振り抜いた姿のブレンダがいた。
「ユウリ様、お怪我は有りませんか?それにしても、アレはは何ですか?」
ブレンダは魔物にしては人に近く、言葉の様なものを呟いているトリスタを見て、訝しげな表情を浮かべている。
「あれは、近衛の副隊長だ。昨日拘束されたジャスパーが持っていた妙な液体を飲んだらあんな姿に・・・」
「成程、全く理解できませんが、不幸な出来事が合ったとはいえ、このまま捨て置く事は出来ません。ミランダ様達誰かを追って村から離れて行くのを先程見ましたので村に逃げる事は出来ません。此処で倒す以外選択肢は無い様です」
母様達は居ないのか、ならばやるしかない。
Bランクなら今強化しても長期戦になったら潰れるのはこっちだ。何とか隙を作り一瞬の強化で斬るしか無い・・か・・
「アメリア様、動けるようになれば村に逃げてください。ブレンダ、いける?」
「いけます。ただ体術では攻撃するたびに、あの炎で焼かれます。長くは持ちません」
ブレンダの戦闘スタイルではリーチが足らず長期戦は無理だろう、どちらかが狙われているうちにもう一人が仕留めるしか無いか。
「二手に分かれて隙を狙おう」
ブレンダが頷いたのを確認して、トリスタを左右から挟み込むように二人で飛び出す。
トリスタはこちらを向き標的を俺に決めた様だ。
足を止め刀を下段に構える。トリスタは理性がほぼ無くなっている様で、先程と同じ大振りの動作で拳を突き出してきた。その拳に刀を当てに行き反らす。
大振りなのに速度も早く、少し刀を当てただけで刀が弾かれそうになる。
くそっ・・魔力量に差がありすぎる!
トリスタは大振りの打撃を左右交互に放ってくる。
軌道も丸分かりタイミングも一定、それなのに単純に速く重い。
手が痺れ始め限界を感じ始めた時、トリスタのの背後からブレンダが飛び上がった。
「ハァアアアア」空中でトリスタの後頭部を蹴り抜いた。
魔力も十分だった様に見えたが、トリスタは衝撃で体勢を崩し前屈みになった。
まるで斬ってくれと言わんばかりに前のめりになった、首が目の前に迫ってくる。
今だっ! 本能的にそう感じて鞘に刀を仕舞いトリスタの横をすれ違い様に抜刀を放つ。
スポンジが水を吸うように魔力が刀に吸われていった。自分でも納得できる軌跡を描きその太刀はトリスタの首に吸い込まれていきトリスタの首を落とした。
はぁはぁ・・・勝てたのか?
首が無くなったトリスタの体は膝を着き動かなくなっている。
ブレンダはその様子を見ると「ユウリ様お見事です!」と駆け寄ってきて勢いそのままに抱きついてきた。
ブレンダにしては珍しいスキンシップだったが、「ブレンダのお陰だありがとう」と抱き止めると、ブレンダは恥ずかしそうに体を離し頬を赤くし「すみません」と小さく呟き下を向いてしまう。
俺も気恥ずかしくなり視線を逸らすとトリスタの頭部が目に入った。
トリスタの瞳は未だ真っ赤に染まり俺と目が合うと口元が歪み笑ったように感じた。
その時、アメリア様の声が響いた。
「ユウリ!まだよ!」その言葉と同時にトリスタの手が動きブレンダを襲う。鋭利な刃物の様に尖った爪をブレンダに向け突き出した。
ブレンダは反応が遅れ、驚きの表情を浮かべた。
「危ないっ!」無意識にそう叫ぶと一歩踏み出しブレンダを突き飛ばす。
トリスタの爪はブレンダに触れる事はなかったが、代わりに俺の腹部を掠めていき焼けるような痛みを感じた。
痛みは強いが傷は深くない、俺は傷を治す為に加護を使う。
イノリ! 《
《
統合された生命変換の加護により傷の修復を開始。
《
体から青色の光が立ち上り傷が塞がっていく。
傷は塞がった筈なのに、腹部の焼けるような痛みは強くなっていく。体が痺れ始め膝から力が抜け崩れ落ちそうになった時、ブレンダが俺を抱えその場を離れる。
ブレンダに抱えられながら原因を探ろうとトリスタを見ると鋭利な爪からは粘性のある透明な液体が滴り落ちていた。
ブレンダはアメリア様の隣に俺を下ろすとこちらを心配そうに覗き込んでいる。
「ユウリ様!ご無事ですか?!」
「助かったよ・・・大丈夫だ、まだ戦える・・・」
膝に力を入れ何とか立ちあがるが、それが精一杯で動けそうに無い。
ブレンダはその様子を見ると俺とアメリア様を交互に見て何かを考え込むと俺を抱え上げた。
突然の行動に驚きを隠せない。
「ブレンダ何をするんだ?!」
ブレンダは辛そうな顔をしながら俺を見た。
「ユウリ様を連れて逃げます・・・」
「何を言ってるんだ!逃げるならアメリア様を連れて逃げるんだっ!」
「出来ませんっ!」
ブレンダの悲痛な叫びが響き渡った。
「先程から、あの化け物はアメリア様を敵として認識している素振りは有りません。それに・・・私はもう・・家族を失いたくないんです・・・例えどんな事をしても」
ブレンダのその声からは決意の様なものを感じた。
「ブレンダ!ユウリを連れて逃げなさい」アメリア様が突然焦ったように声を発した。その視線の先ではトリスタが立ち上がり無くした筈の頭が首から再生していく。
ブレンダはアメリア様と目を合わせると頷きアメリア様に背を向ける。
「待つんだ!俺達を追ってきたら村に来てしまう。村人に被害を出してしまう!」
この状況で打開する策なんて無いのにブレンダを止める。この場で戦えるのはブレンダだけ、俺もアメリア様も足手纏い、ブレンダも先程の蹴りで足を火傷している。俺にはどうする事も出来ない・・・思考を巡らせても答えには辿りつかない、その迷いを感じてか体を震わせながらブレンダが口を開く。
「例え誰が死のうとユウリ様を殺させはしません!!」
ブレンダは村に逃げるために全力で魔力を体に纏った。
その時イノリの声が脳内に響いた。
ーー《
シズク以来、イノリは誰に対しても許可を出さなかった《
俺は迷わず「使ってくれ」と口に出すと、ブレンダの体から青色の魔力が溢れ始めた。
神に祈りを感謝を俺に!〜底辺貴族からの成り上がり〜 ハコニワハニワ @vol1412
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