騎士爵領立志編3ー11
瓶の中身を飲み干したトリスタが、胸を抑え蹲った。
回りに居た近衛四人がトリスタの元に駆け寄り「副隊長大丈夫ですか!」と声を掛けているが反応はない。
その様子を見てアメリア様は言葉を失い。ジャスパーは嬉しそうに高笑いを始めた。
「ハーッハッハハ これでトリスタは正気に戻る。そうなれば私が正しかったことは証明されるんだ!」
トリスタは胸を抑えながら、アメリア様に手を伸ばす。その体からは赤い蒸気が立ち上り始め異常が起きていることが目に見えて分かる。
どうする!シズクを呼んで来るべきか・・・いや、背負って村に連れて行ったほうが早いな
駆け寄ろうと一歩踏み出すと、ジャスパーが此方を向き怒声を飛ばしてくる。
「動くな!
くそっ、アメリア様をジャスパーが傷つけるとは思わないが、あの様子だと万が一もあり得る。どうすればいい・・・
思考を巡らせていると、トリスタが下を向きながらゆっくり立ち上がった。体から立ち昇っていた蒸気も収まっている。
アメリア様が「トリスタ!大丈夫なのですか?返事を・・」と呼びかけると、トリスタはゆっくりと顔を上げた。
「ヒッ」アメリア様がトリスタを見て小さな息を呑むような小さな悲鳴をあげた。
トリスタの顔は目の全ての部分が赤くなり血の涙を流し、口はだらし無く開け放たれ唾液が垂れている。トリスタは後を振り向くと、護衛に襲い掛かった。
トリスタの腕は肥大化していき色が赤く染まっていく。男の胴ほどの太さになったその腕で、近衛の胸に腕を突き刺し、頭を掴み潰す。
その無惨な様を見て、残り二人の近衛は魔力を纏いトリスタの胴と首に斬撃を放ち切り抜けた。トリスタは斬られた事など無かったかのように、その二人の頭を握りつぶした。
その様子を見ていたジャスパーが震えている。
「ト・・・トリスタ・・どうしたんだ? まさかあの薬が・・・?そんな筈は・・」
ジャスパーは手から力が抜けていき、剣を落としアメリア様を離してしまう。
アメリア様は解放されると俺の近くに駆け寄ってくる。俺は魔力を巡らせ、アメリア様とジャスパーの間に入り壁になる。
トリスタに何が起こったんだ・・・あの赤い液体は一体何だったんだ、どうする?村に逃げるか?
思考を巡らせていると、ジャスパーがゆっくりとトリスタに近づいていく。
「トリスタ、私だ・・・ジャスパーだ・・分かるよな?」
ジャスパーの言葉を理解したのかトリスタは「ジャスパー・・・」と呟き出した。それを見たジャスパーはうれしそうにトリスタの前まで移動した。
「ああ・・・私が分かるんだね・・・きっとその体はあの
ジャスパーは近衛の剣を拾うと此方に向き直り、剣を構えた。その瞬間トリスタの全身が燃え上がった「許さない・・・殺してやる・・・」そう呟くとトリスタはジャスパーを燃える手で掴む。
「熱い!トリスタ何をする!離せ離してくれぇえええ」
ジャスパーは必死に振り解こうとするが、段々と動かなくなり命を落とした。トリスタはジャスパーを投げ捨てると、アメリア様に手を伸ばし始めた。
「ア・・・メリア様・・」
トリスタはゆっくりとした足取りで一歩ずつアメリア様に向かってくる。アメリア様はその様子を見て口元に手を当て震えている。
「アメ・・リア様・・何故震えて・・・いる・・ですか?」
トリスタはアメリア様の怯えている姿を見て、立ち止まり自分の手を見始めた。
「あれ・・?わた・・しの手・・・いや・・・いやぁあああ!!」
トリスタの悲鳴が響き渡り地面に倒れ込むと、トリスタの体が赤く変色し大きく肥大化していく。顔も赤く肥大化し歯は鋭利にそして太くなった。
トリスタは立ち上がり体に炎を纏うそして遠吠えを上げた。
“ガァァアァァアアア” 大地が揺れているかと思うほどの衝撃が走り魔力が炎となり周りの草木を燃やす。
勝てない・・・一目見てそう思うほどの魔力を感じる。明らかにシエナより格上、ここはアメリア様の安全を確保しながら、母様か従士の誰かとの合流が最前・・!
イノリ《
イノリ、魔力操作をC+に!
ーー《
魔力操作に二段階の補正 補正後C+
剣刀術に二段階の補正 補正後C+
《
トリスタを刺激しないようにアメリア様に小声で話しかける。
「村まで走れますか?」俺が確認をするとアメリア様は「ダメ、動けないわ・・・」と体を震わせている。
どうする・・此方を襲って来る可能性はあるのか?その前にこいつを野放しにして他の村に被害が出たらどうする・・・倒すしか・・ないか、 覚悟を決め
ると「ダメ!」とアメリア様が制止の声を上げた。
「ユウリやめなさい、
アメリア様は少し平静を取り戻した様だが、足は未だ震えている。俺は頷くとアメリア様を抱えた。
その時、トリスタの真っ赤な目と視線が合った。
「アメ・・リア様に・触れるなぁあぁあああ」
トリスタは、その巨体からは想像出来無い程の速度で、腕を振り上げ迫って来た。咄嗟にアメリア様から手を離し前に出る。後でアメリア様が地面地に落ち「キャッ」と悲鳴を上げた。
いくらランクが上といっても魔力を通した刀なら手傷を負わせられるはず、そう思ったが俺の刃は空を斬った。正面に居たはずのトリスタは、加速し俺の右側に移動していた。
トリスタが再度、拳を振るう俺は刀を振り切った態勢の為、回避する事が出来ない。
拙い!そう思った瞬間、トリスタの巨体が吹き飛んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます