騎士爵領立志編3ー10

時間は少し戻り、シルワ村



 ユウリは、副隊長であるトリスタと合流し、アメリア様の希望である養蜂場に来ていた。トリスタはアメリア様が巣箱に近づいていくのを手で遮った。


 「アメリア様これ以上進まれると、蜂に刺されるかもしれません。ここまでに致しましょう」


 慎重過ぎるトリスタを見て、アメリア様は口元に手を当て笑う。


「フフッ トリスタその蜂は魔力で少し体を覆えば、刺しに来ないのよ。ユウリそうよね?」


「はい、基本的には魔力を使っていれば、襲ってこないので

大丈夫な筈ですが、万が一という事もありますので、ここはこの距離で見ていただくのが良いと」


 アメリア様は軽く溜め息を吐いた。


「トリスタもユウリも心配性ですね。仕方ありません、此処で我慢しておきます。所でユウリ、わたくしに何か見せたいものが、合ったのではなくて?」


 アメリア様に話題を振ってもらい漸くタイミングを取ることが出来た。 


 「アメリア様、これを見て頂けますか?」


 刀をベルトから外し跪いてアメリア様に差し出す。


 アメリア様は刀を手に取ると、細部まで調べ始める。

 鞘から刀を抜き刃を見ると、アメリア様は軽く息を呑んだ。


「ユウリは昨日の魔剣の話から刀の値段が知りたくなったのよね?」


「はい、この刀はエドワード・ウォード卿から頂いたのですが、この剣に関して私は、刀身保護の効果が付与されていること以外、何も聞いていない状態の為、アメリア様が何かご存知であれば教えて頂ければと」


 アメリア様は刀を鞘に戻し、刀を差し出して来た。

 俺は立ち上がりその刀を受け取りベルトに戻す。


「ユウリ、一つ確認なのですがこの刀をエドワードから受け取った時に何か条件を出されましたか?」


「条件ですか ?強いて言うのであれば、出来れば学院に学びに行って欲しい、という程度の物でしたが」


「そうでしたか、私は専門家では無いので、詳しくは有りませんが、この刀は間違いなく魔剣です。そして性能はかなり高いものだと思われます。魔石はユウリの魔力で馴染んでいる事から他の人には魔石に貯蓄された魔力を使うことは出来ません。買うとするならば、白金貨が必要になるでしょう」


「白金貨・・・」


 アメリア様の言葉に驚きを隠せなかった。

 

 白金貨と聞き、ウォード卿が本当にこれ以上の要求をしてこないのか、不安を感じる。


「アメリア様、この刀は受け取ってしまって良かったのでしょうか?」


「大丈夫じゃ無いかしら? エドワードは、後から無理難題を言ってくる様な人間ではないわ。もし何かあったらわたくしが口添えしてあげるわよ」


 アメリア様の言葉に安心し胸を撫で下ろす。


「では、わたくしはトリスタを連れて少し見て歩かせて頂きますね」


 アメリア様はそう告げると、トリスタの元に歩いていく。

 そこに鎧を血で濡らした近衛が、顔を伏せ体を押さえながら駆けて来た。


「アメリア様、至急お伝えしたい事が!」


「何があったのですか!」


 アメリア様は、急ぎ近衛に近寄っていく。


 トリスタは何かに気づいたようで、アメリア様に手を伸ばした。

 

「アメリア様! お待ちください!」


 トリスタの叫びにアメリア様が振り向いた時、血塗れの近衛がアメリア様に飛びかかり、アメリア様を捕まえ首に剣を当て近衛は兜を脱ぎ捨てた。その近衛を見てトリスタが叫ぶ。

 

「ジャスパー殿、一体何をしているのです!」


「邪魔をするな! アメリア様をお助けする所なんだ!」


 遅れて他の近衛も武器を抜きトリスタの後で武器を抜いたが、アメリア様が人質に取られている為、それ以上動くことができない


 アメリア様は眉を顰める。


「ジャスパー、正気に戻りなさい!」


「アメリア様、今・・・今、助けて差し上げます。貴女は騙されているのです。そこの擬い物まがいものは加護で女を誑かし王家に仇なす逆賊なのです!」


 能力は間違っているが、俺が加護を持っている事を、何故ジャスパーは知っているんだ?


「落ちつくんだ、俺の加護はそんな能力じゃない!ジャスパー殿何か勘違いをしている」


 ジャスパーは俺を忌々し気に睨みつけ怒声をあげている。



 此処で俺が何か話すと、事態を悪化させそうだな。何とかアメリア様を救出しないと・・・


 ジャスパーは胸のポケットから、赤い小瓶を取り出し、アメリア様の前に差し出した。


「これを、お飲みください。そうすれば擬い物まがいものの加護の効果も打ち消してくれます!」


「ジャスパーこれはどの様な薬なのですか!こんな不気味な物飲めません」


 拒否されたことでジャスパーはアメリア様の首に当てている剣をすこし強く当て、その為首からは少量の血が滴る。

 トリスタが慌ててジャスパーを宥める。


「落ちついて下さい。そんな得体の知れない薬、アメリア様に飲ませられる筈が無いでしょう。それにアメリア様はユウリ殿に操られてなどいない」


「やはり、トリスタお前もなのか? そうだ!自分用に一本あるんだが、トリスタこれをお前にやろう」


 トリスタに向かってもう1本の赤い小瓶を投げ付ける。トリスタはそれを受け取るが眉を顰めジャスパーを見ている。


「トリスタ、早く飲むんだ!怖いというなら、私が先にアメリア様に口移しで飲ませよう。どうせ正気を取り戻して頂ければ、アメリア様は私の伴侶になるのだからな!」


 ジャスパーは勝ち誇った顔を俺に向け、赤い小瓶の栓を抜いた。


「待て!アメリア様に毒味も済ませていない物を飲ませることは出来ない。私が先に飲もう」


「何を言っているのですか!トリスタやめなさい!」


 トリスタは意を決して赤い小瓶を飲み干した。

 

 

 

 

 

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