騎士爵領立志編3ー5
ジャスパーは「何があっても開けるな!」と室外の近衛に言い放つと扉を閉めた。そしてこちらに向き直ると顔が怒りに染まっていく。
「貴様ああぁぁあっぁ、アメリア殿下に何をしている! 」
ジャスパーの怒声が響き渡る。アメリア様は俺の手を離すとジャスパーに向き直った。
「ジャスパー!落ち着きなさい、ユウリには私が頼み事をしていただけです!」
「ジャスパー殿、アメリア様のおっしゃる通りです。少し話が盛り上がり頼み事をされただけなのです!」
ジャスパーはこちらの話など聞いていない様でこちらに歩きながら剣の柄に手を掛けた。
「
「止まりなさい!剣など抜いたら許しませんよ!」
アメリア様が剣を抜こうとしているジャスパーの手を持ち止めようとするがジャスパーはアメリア様を振り払った。
「きゃぁ」アメリア様がその勢いで壁にぶつかり悲鳴をあげるがジャスパーは気にも留めず剣を抜き放った。
・・・本気か?近衛って事はかなり強い筈だ。何とか好きを見て母様かハインツに助けを求めるしかないな。
イノリ《
イノリ、魔力操作をC+まで上げてくれ!
ーー《
魔力操作に二段階の補正 補正後C+
《
魔力を全身に巡らせると同時にジャスパーが切り掛かってきた。
上段から振るわれた剣は激昂しながらも修練の後が見てが分かるほど綺麗な太刀筋だった。
俺はその剣を
ジャスパーは振り下ろした剣を跳ね上げ鋭い突きを放った。
それも半身になるだけで躱す。
ジャスパーは驚きの表情を浮かべた。
どういう事だ?遅すぎる。剣の技術の問題では無いもっと基礎的な魔力操作のランクが低すぎる。
「どうなってる
ジャスパーは何度も何度も剣を振る。
だがそれは全て空を切るだけで掠りもしない。
これだと魔力操作はD -って所か?
廊下が騒がしくなり女性の声が聞こえる。
「お前達何をしている!ジャスパー隊長を取り押さえるんだ!」
「「はっ」」
彼女は確かトリスタと呼ばれていた近衛の副隊長だったかな? 手を出して良いものか迷っていたから近衛が取り押さえてくれるならありがたい。
ジャスパーは近衛に取り押さえられた。
アメリアは起き上がるとジャスパーに近づき平手打ちをした。“パァン” と小気味良い音が部屋に響いた。
「ジャスパーを拘束し部屋に隔離しておきなさい!彼の隊長職の任を解きます。連れて行きなさい!」
ジャスパーは解任された事を聞くと、大人しくなった。そしてトリスタと近衛兵に懇願する。
「分かった、大人しくするから離してくれ。私にも面子があるんだ」
それを聞き近衛の手が緩んだ。
「嘘よ!離さないで!」アメリア様の声が響いた。
だがジャスパーは緩んだ腕を振り払い剣を拾った。
そして俺を斬り殺そうと剣を振りかぶった。
先程と変わら無い綺麗な型は速度が無い為、これから振られるであろう軌跡を容易に想像出来た。
傷つける訳にもいかないが逃げれば誰かを巻き込むかも知れない。避けて側面から当身を入れ無力化する。
やり過ぎない様に魔力を抑える。その瞬間ジャスパーの顔に笑みが浮かび口を開いた。
「《
その瞬間ジャスパーの持つ剣に嵌められた魔石が割れジャスパーの体を纏う魔力が爆発的に増えた。
振り上げていた剣はまるでシエナに匹敵する程の速度を持ち振り下ろされた。
咄嗟に後ろに飛んだが間に合わず、ジャスパーの剣は俺の鎖骨から肋骨まで切り裂いた。
鮮血が舞い床に倒れ込んだ。
大量の血が地面に溢れていく。
アメリアはユウリに駆け寄り呼びかける。
その顔は焦りと動揺で青ざめている。
「ユウリ、ユウリ!直ぐに治療を、治癒の加護持ちを呼んで!」
「ヒャハハハハハハ」
ジャスパーの笑い声が響く。
「やっぱりそうだ
「ジャスパー殿何をしている、貴族の誇りを捨てたか!」
ジャスパーはトリスタに床に組み伏せられた。
「貴族の誇りだと?
これは拙い・・・意識が飛びそうだ・・・イ・・・ノリ・・・
ーー生命活動の低下を感知
《
統合された生命変換の加護により傷の修復を開始。
《
ユウリの体から青色の光が立ち上る。
途切れ途切れだった意識が少し繋がり始める。
ーー魔力の低下を確認
《
《
痛みが引いていく。危なかった加護が無ければ・・・ポイントが余っていなければ死んでいた・・・
青い光が収まっていく。
ーーマスター傷の完治と魔力の枯渇を確認。
残り4132P 魔力の回復の為スリープモードに移行しますが後程、必ず説明して頂きます。《
イノリの気配が消えていく。怪我が治り痛みが引いたことにより、二年掛けて貯めたポイントが減ったことを、惜しく感じてしまう。
上体を起こしその場に座るとジャスパーがこちらを目を見開いて凝視してくる。目が合うとジャスパーは再度、顔に怒りの形相を浮かべる。
「何故だ・・・何故生きている!加護か?何だよその魔力量は・・・何故あの傷が治せるほどの魔力と加護を
アメリア様が焦ったように俺の傷あとを指でなぞり治っている事を確認すると安堵で大きく息を吐き出した。
「ジャスパーを隔離なさい!早く!」
アメリア様の言葉でトリスタと近衛がジャスパーを連れ部屋を後にした。
「ユウリ、ごめんさい私の護衛があの様なことを仕出かすとは・・・」
「いえ、傷は治りましたしそこ迄思い詰めないで下さい。それよりもあのジャスパーという男様子がおかしくありませんでしたか?剣の型は血の滲む様な修練が見て取れるのにあの性格、不釣り合い過ぎませんか?」
アメリア様は思い当たる節が有るのか視線を泳がせたが直ぐに話し始めた。
「ユウリは被害者だし知る権利は有るか・・・彼の名前はジャスパー・カーク、南部の有力貴族である、カーク伯爵家の三男です」
カーク伯爵家か聞いたことがある、確か騎馬の生産地として名を馳せていたはず。
「彼は
今の姿からは想像出来ない話に少し疑問を抱くが彼の剣からはそれを察することが出来た。
「ですが彼は学院で変わってしまったのです。
最初はその真面目さ故の練習量で優秀な成績を収めていたのですが、彼は二年初めに魔力量の壁に当たってしまい段々と変わっていきました。
それ迄は魔力操作のランクの影響で、使い切れず余っていた魔力が足り無くなったのです。彼は魔力操作の練習を満足に出来なくなり伸びなくなり段々と他のクラスメイトに追い抜かれていき荒み始めたのです。」
確かにどれだけ訓練したくても訓練する事が魔力の所為で出来ず、努力をしてなかった連中にも追い抜かれていくストレスは途轍もない事は想像できる。
「そして彼は親の伝手で第二近衛騎士団に入りましたが、そこで今のような性格になったと報告を受けています」
第二近衛騎士団がどんな所なのか興味が湧いたが聞いて良いものなのか迷っていると、勢いよく扉が開け放たれた。
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【作者からのお願い】
《ちょっと気になる》《頑張れ》と思って頂けまし評価して頂けますととても喜びます!
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